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少女は祈らない  作者: 異原 世界
魔王(ぜろ)再臨編
4/18

第三話 こっちの世界の親はなかなか良い

クリックしてくれてありがとうございます!

是非一話から読んでみてください。

木造の屋敷の一角にある、書架に囲まれた小部屋。


重たいカーテンが遮光を保ち、窓辺には乾いた植物の鉢。


積み上げられた古い本と、羊皮紙の匂い。


その中央、小さな丸テーブルに――私は座っていた。


いや、正確には、体を無理やり魔力で補助しつつ“立たせて”いた。まだ首も満足にすわらない年齢で、私は既に“二足での読書”を実現している。


(……やっぱり、慣性を無視できるのは便利。筋肉は未発達でも、筋肉を魔力で補強すれば)


魔力――この世界における“力”。


今の私にとって、それは物理法則の一端をゆるやかにねじ曲げる、都合の良い“第二の指”だ。


微細な魔力を使えば、紙をめくる風も、重力のバランスも、ほんの少しずつ調整できる。


この図書館もまた、粒子に満ちていた。木材、紙、インク、布――この世界のすべてが、あの“粒子”つまり、魔力を微量ながら帯びている。


(面白いのは、“信仰”がそれを駆動する仕組みになっているってところ)


私は、読んでいたページに視線を戻す。


『魔法とは、神の恩寵の行使である。ゆえに、祈りなくして発現せず』


『神は属性を司り、五つの理を分け与え給うた』


火、水、風、土、光。


そして、“神を信じること”でのみ、それらを扱えると書いてある。


(祈りが媒介になるとしたら、それは“魔力干渉のスイッチ”ということか)


(意志 → 信仰 → 魔力 → 現象 という図式。なら、私は“信仰”の部分をすっ飛ばして、直接、現象と意志を結んでいる)


私は無言でページをめくる。


革装丁の書物は古びているが、内容はこの世界の魔法体系の土台そのものだ。


『神なき者に、魔法は降りぬ。

属性なきものに、神は降りぬ。』


『信仰なき発現は、呪いか、異端か』


(ふぅん……この世界、なかなか過激な宗教的仕組みだな)


私の“魔力”は、誰の神にも由来していない。ただ粒子と法則を見て、理解して、操作しているだけだ。


私は信じていない。


神も、奇跡も。


私が目指すのは、“理解の彼方にある全知”。


だが――この世界では、“神を信じない者”は、魔法を行使できないとされている。


(つまり、私はこの世界の物理法則からも宗教体系からも、逸脱した存在ってこと)


(……最高に、気分がいい)


そんな私の前で、浮かせた本がふわりとページをめくった瞬間だった。


ギィ……


微かに、ドアが開いた。


私は気づいたが、視線を上げなかった。気配だけで十分だ。


扉の隙間から、そっと顔を出したのは――母と、父。


「……あの子……」


母が小さく囁く。


「また浮かせてる……本を……」


「いや……ミリア、ちょっと待て、今、本を“読んでた”ぞ?」


「……見間違いじゃない……?」


「いや、違う。ページを目で追ってた。指……いや、魔力を、使ってる。明確に、“文字を理解してる”」


「でも、まだ……まだ生後、数週間なのよ……? 早くても、寝返りがやっとのはずで……それが……」


「あの娘、詠唱もしてないし、魔方陣も出てなかった。つまり、神に祈らずに、あれをやってるってことになる。」


「もし、教団にバレたら......」


母の声が震える。


ドアの隙間からのぞく二人の目には、驚きと戸惑いが滲んでいた。


私がふと、ページを閉じ、そちらを振り向いた。


ふら、と首が傾いた。


魔力で支えていた身体が、わずかに重心を崩した。


「あ……」


母が声を漏らし、あわてて部屋に入ってくる。


「ソフィア! そんな……だめよ、体がまだ……!」


「だ、大丈夫か、ソフィア?」


私はその時、初めて彼らの方をまっすぐ見た。

(ちょっと試してみるか......)


「……魔力、ってぇね。信仰が要るんだってぇ」


ぽつりと、私の小さな声が響いた。


母の目が見開かれ、父が思わず息を飲んだ。


「そ、それは……今、話してるの……? 本の内容を……?」


「“魔法”ってぇ、神の力を借りるってぇ、書いてあっちゃ。でも、私は借りてにゃい」


「……!」


「私の魔力、信仰、にゃい。けど、使えりゅ。だかりゃ、多分、私は……間違ってりゅ。普通じゃにゃい」


その言葉に、父と母はしばらく沈黙した。


私は、それをじっと見ていた。


この二人が、私をどう見るのか。


受け入れるか、恐れるか。


やがて、母がそっと私に近づき、ひざまずく。


彼女の目に浮かんでいたのは――恐れではなく、涙だった。


「……いいのよ、ソフィア。あなたが“普通じゃなくても”」


「え……」


「あなたが、どこか違ってても。話すのが早くても、魔力を“見て”いても……」


「ミリア……」


「私はあなたの母親だもの。あなたを怖がったりなんて……絶対にしない」


その声は、震えていたけれど、嘘じゃなかった。


私はほんの少しだけ、胸の奥が温かくなった。


けれど、それは彼らに対する感謝ではない。


(以外だ、この人たち、ちゃんと“理解しよう”としてる)


(つまり、この世界には、ちゃんと“会話が通じる人間”が存在する)


私が“全てを知る存在”になるためには、この世界の構造と限界を知る必要がある。


そのためには、恐れられず、監視されず、――研究の時間を持たなければならない。


私はふっと微笑んだ。


「……ありがとう」


その言葉に、母が泣き笑いになった。


父も、ゆっくりと近づいてきて、私の頭に手を添えた。


「……本当に、すごい子だ。信じられない。でも……ありがとう。生まれてきてくれて」


そうして、図書室の空気が少しだけ、やわらかくなる。


その中で、私は本を一冊、静かに手元に引き寄せた。


(次は、この“祈り”の構造を解析してみよう)


(魔法の詠唱式、属性の分化、発動条件、そして――信仰そのもののアルゴリズム)


ページを開く。


指先に、ふわりと粒子が集まる。


私はその粒子に、心の声で語りかけた。


(君たちが“神の力”と呼ばれているなら――私は、その“神”の上位概念になってみせる)


(誰よりも、知って、理解して、再現する)


(それが、私の――“遊び”)


読んでいただきありがとうございます!

続きが気になりましたらブクマなどいただけたら幸いです。

感想なども是非

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― 新着の感想 ―
 読ませて頂きました。エピソード4まで読みました。 普段は女子高生の朝霧結香、その正体は地下の実験室で全知を目指していマッドサイエンティスト。その実験中に、事故を起こして亡くなり、赤ん坊となって異…
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