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少女は祈らない  作者: 異原 世界
魔王(ぜろ)再臨編
3/17

第2話 まりょく

クリックしてくれてありがとうございます。

是非一話から読んでみてください。

陽射しは斜めに傾き、窓辺のカーテンがわずかに揺れていた。


外は、鳥の声と、風が木々を撫でる音。


古いけれど清潔な屋敷の一室。木の床には柔らかい敷布が敷かれ、部屋の中心には小さなベビーベッドが置かれていた。


その中で、私は仰向けのまま、天井をぼんやりと見上げている。


(……エーテル粒子。やっぱり、今日も“視える”)


光ではない、風でもない、無音の“粒”たち。


彼らは空気中に等しく漂い、時折、呼吸に合わせるようにふわりと流れ、そして私の手に集まる。


(手を動かすと、寄ってくる。意思を込めると、応答する。だとすると……)


視線を少しだけ横に向けた。


部屋の隅、窓の近くの椅子に、母が座っている。


赤毛を柔らかくまとめた、優しげな女性――彼女は私のこの世界での“母”だ。


膝の上には、刺繍のかけらと、細い針。糸を通す指先は器用で、その動きには熟練の静けさがあった。


(……あの刺繍糸にも、わずかにエーテル粒子が反応してる。やっぱり“物質”との干渉性が高い)


母はふと、私の方に顔を向けた。


「ソフィア、今日もおりこうさんねぇ……」


柔らかな声。優しい目元。頬には少し疲れがにじんでいるけれど、その目は穏やかだった。


私は彼女の声のトーンを録音するように心の中でなぞる。


(この世界の“人間”は、無意識にこの粒子を扱っている? ……違う、これは……)


と、その時。


ふわり、と粒子が母の胸元から立ち昇った。


母が、何かを「祈る」ように、小さく胸元で手を重ねていた瞬間だった。


(……祈りに反応してる? ……なるほど。そういう文化か)


その粒子たちは、私が見ているとわかっているかのように、ゆっくりと揺れながら空へ消えていった。


(あれは、制御ではない。……呼応)


そこへ、扉が軽くノックされ、父が入ってきた。


「ミリア、ソフィアは?」


「ちゃんと起きてるわ。ずっと私のことを見てるの。ふふ、可愛い子」


「そろそろ寝返りする頃じゃないか? それに……」


父の視線が、ベビーベッドに移る。驚いたように、目を少し見開いた。


「……あれ? 今、ソフィアの手の周りに……?」


「え?」


母が立ち上がり、ベッドのそばに駆け寄る。


彼女の視線の先、私の右手の周囲に、粒子が円状に集まっていた。


粒子はゆっくりと螺旋を描き、ほのかに発光している。


「……やっぱり、見えてる? この子」


「ええ。ほら……まるで“魔力”に反応しているみたい。こんな小さな子が、もう魔力を……?」


(……魔力?)


その言葉に、私は内心、ぴたりと動きを止めた。


(魔力……それが、この粒子の名前?)


母が、わずかに息をのんだ。


「この子、やっぱり……。“見えてる”……」


父が苦笑する。


「こいつはきっと、きっと神様に祝福された子なんだよ。ほら、ほら、ソフィア。お父さんの顔、見えるか?」


私は、父の顔を見た。


眼鏡の奥の優しい目。いつもは理知的な口元が、今はわずかに崩れている。


私の意識は、魔力という名前とともに、一つの確信に至っていた。


(この粒子は、ただのエネルギーじゃない。構造の中に“情報”がある。干渉性、意志応答、場の再構築……)


(名前がついた以上、これでこの世界の物理体系は一つ見えた)


そして私は、初めて声帯を使う決意をした。


体はまだ未熟だが、必要な筋肉の配置と反射経路は概ね把握済み。


私は、口を開いた。


「……ま……りょく……」


母と父が凍りついた。


「……え?」


「今、今、言ったよな……? “魔力”って……」


「ソフィア……? あなた、いま、しゃべったの……?」


母の目が見開かれ、針を持っていた手が震えた。父も、ただ唖然としたように私を見ている。


私はもう一度、口を動かす。


発声は不安定だが、文法は正しい。伝わるはずだ。


「……見える。……これ、ま・りょく……」


「う、うそ……! こんな、こんなに早く言葉を……!」


「いや、待てミリア……これは……」


「レオン、あの子、普通じゃない。こんなに小さいのに、“見えて”て、しかも言葉まで……」


父が、顔を覆うようにして息を吐く。


「……いや、でも、まだ赤ん坊だぞ……生後数日だぞ! たまたまそう聞こえただけじゃ……」


母はそっと私の頬に触れた。


その手は温かくて、優しくて、でもほんのわずかに震えていた。


「……ソフィア。あなた、ほんとうに“見えてる”の?」


私は目を合わせ、ゆっくりと、でもはっきりとうなずいた。


そして、小さな声で、こう言った。


「……し、りたいの。ぜんぶ。これが、なにか」


母の目が潤み、父は無言で立ち尽くしていた。


私はその中で、ただ静かに考えていた。


(これでいい。私が全知”になる旅は、ここから始まる)


(名前を得た力。観察可能な現象。そして、思考する私自身)


(……さあ、“世界”を見よう)


「お父さんより先に魔力なんて......これから練習させようと思ってたのに......」



読んでいただきありがとうございます!

続きが気になりましたら、ブクマなどいただけたら嬉しいです!

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― 新着の感想 ―
Xから来ましたが、まさかの転生……?しかも世界が塗り替わっているということでしょうか、新体験で序盤からワクワクが止まりません。天才の結花がいかにして魔王となるのか、楽しみで仕方ないです。
Xより参りました。 狂気を理性で隠し通す天才女子高生・結花。 その「普通」の仮面の裏には、世界の法則そのものを解体・再構築しようとする飢えた知性が潜んでました。そしてそれは、それは「神になる」ことで…
Xからですー なるほど、科学的な所のアプローチの異世界ものなんですねー これは意外や意外、面白い切り口だなと思いました! 引き続き作品ともども応援していくので、執筆頑張ってください!
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