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少女は祈らない  作者: 異原 世界
学園編

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第二十四話 「神への手がかり」

クリックしてくれてありがとうございます!

是非一話から読んでみてください!

セレナは手を払うようにして、鎖に絡め取った影を床へと叩きつけた。

ごろり、と転がるのは一人の男。痩せこけた頬に、血の滲む衣服。

だが最も異様なのは、焦点を結ばぬ濁った瞳だった。


「……っ」


クレアが思わず小さく息を呑む。


セレナは感情を滲ませることなく告げた。


「神意兵を追っていたときに、こいつを捕らえた。教団の一人……潜伏していた」


「……!」


マリルが即座に姿勢を正し、緊張を走らせる。


セレナはそこで、ふと横に立つソフィアに視線を投げた。

そして静かに、深く頭を垂れる。


「第二零座セレナ――零様。しばらく離れておりました。再臨されたこと心から祝福いたします。」


その声音は、彼女にしては珍しいほどの敬意を帯びていた。

ソフィアは目を瞬かせ、わずかに微笑んだ。


「……うん。戻ってきてくれて、よかった。あなたのこと見てみたかったの」


「勿体ないお言葉です」


セレナが簡潔に答える。


アレシアはすかさず割り込み、無邪気な笑みを浮かべた。


「やっぱりお姉ちゃんがいないとだね」


「誰が姉だ。やめろと言っただろう」


セレナは表情を変えぬまま冷ややかに言い放つが、アレシアはわざと拗ねた声を上げる。


「えー……冷たい。妹っぽく甘えてあげてるのに」


セレナは溜息をひとつ落とし、視線を転じる。


床に転がる男が、呻きながらかすれた声を絞り出した。


「……学園祭……日記は……必ず運ばれる……」


アレシアが眉をひそめる。


「はぁ? 日記? 勝手に口開いてんじゃねぇぇよ! おまえの口かがり縫いすんぞ!」


 唐突すぎる罵声に場が一瞬だけ止まる。

 そのとき、クレアは思わず心の中でつぶやいた。


(……アレシア様、裁縫なんてできたんだ……。かがり縫いってなんだろ……今度、少しだけでも教えていただけないかな……?)


「隠された日記……それが“神”へ至る道標だ。俺たちはただ、それを届けるだけだ」


あまりに躊躇のない口ぶりに、室内の空気が凍りついた。

クレアもマリルも、一瞬言葉を失う。


「……なんでこんなにあっさり喋ってるの?」


アレシアが呆れたように首を傾げる。


セレナは淡々と答えた。


「信念が足りんのだろう。尋問をするまでもなかった。捕らえて三分も経たずに吐いた。こんな腑抜けが“神意”を騙ることに、私は苛立ちすら覚えた」


マリルが低く唸る。


「……教団の内部に、そんな軽薄な者がいるとは」


「全員、もう少し信念を持てっての」


アレシアは肩をすくめて笑う。だがその声音には、心底呆れがにじんでいた。


セレナはそこで、男の言葉をなぞるように告げる。


「……だが、問題は“日記”の方だ」


「日記ですか?」


クレアが問い返す。


「そうだ。学園に隠された“日記”――それこそが神に近づくための鍵だ。学園祭を利用して、その日記を学園外部に運び込む計画を立てている」


室内の空気が重く沈む。


アレシアはわざと明るく笑い声を上げた。


「えー? じゃあ学園祭が血なまぐさいお宝探しに早変わりってこと? 盛り上がりすぎじゃない?」


「遊びでは済まない」


セレナの声は鋭く切り裂く。


「神への手がかり――その可能性がある以上、放置はできない」


その言葉を受けて――

ソフィアの瞳が、不意に揺れた。


「……神への、手がかり?」


その声色は、いつもの柔らかさでも冷徹な分析者の響きでもなかった。

純粋な好奇心に裏打ちされた、子どもじみたほど真剣な眼差し。


「それは……ただの神話や教義じゃなく、“現実”に作用する何かの証明……?」


小さく呟くように言葉を紡ぎ、思考が一気に加速していく。


アレシアが嬉しそうに身を乗り出した。


「零様! やっぱり気になりますよね? だって神への道なんですよ!」


「……違う」


ソフィアは即座に首を振った。


「私は“神”そのものに興味はない。ただ――もしそれが世界の理を揺るがす“痕跡”なら……絶対に知りたい」


その声音に、場の空気が一瞬張り詰める。

研究者としての異常な執着心が、彼女の内から滲み出ていた。


セレナが静かに目を細める。


「……神ではなく“理”か」


マリルは言葉を飲み込み、クレアはただ圧倒されて息を呑む。


アレシアだけが恍惚とした笑みを浮かべた。


「零様……! そんな冷たい言葉でも……私にとっては愛した方の声です!」




ひと通りの情報整理を終えると、場にようやく静寂が戻った。


 セレナはそのまま短く言い放つ。


「……私はしばらく、学園に潜む“影”を探る。潜入のための準備が必要だ」


「お願いします、セレナ様」


クレアは恭しく頭を下げる。


「零様と私は、いったん学園に戻ります」


ソフィアは軽く頷いた。


 そのとき――アレシアが不満げに顔を歪める。


「えぇ~!? ちょっと待って! 私、まだ零様と全然お話してないんだけど! もっと一緒にいたい!」


 クレアがすかさず口を開く。


「アレシア様。……今すぐお戻りになられませんと、教団の信仰の儀に間に合いません」


「んん?」


アレシアが露骨に聞き返す。


「もし遅れれば、教団からの立場を失い、潜入工作もすべて台無しになります。そして……零様にまでご迷惑をおかけすることになります。それでも、よろしいのですか?」


「……っ、それだけはダメ!!!」


アレシアは目を見開き、ばっと立ち上がった。


「今すぐ行ってくる! 絶対に戻るので待っててください、零様!」


「アホだな、あいつ……」


マリルが呆れ声で吐き捨てる。 


 アレシアはそれでも、にかっと笑いながらセレナへ向き直った。


「じゃあね、お姉ちゃん!」


 直後、セレナの目が鋭く細められる。


「次言ったら……殺す」


「ひぃっ!? こわっ! でもまた言っちゃうかも~♪」


アレシアは舌を出して、ソフィアへ深々と頭を下げた。


「零様。またお会いしましょう!」


 そう言い残すや、彼女はひらりと天井を見上げ――先ほどとは別の場所に、盛大な穴を空けて飛び去った。


 瓦礫がぱらぱらと落ちる中、マリルが声を荒げる。


「また屋根に穴を……ッ! 本当にアホかあいつは!」


 セレナは冷たい視線を天井へ向けたまま、低く呟いた。


「……次に戻ってきたときは、まず修理費を弁償させる」


 クレアは苦笑しつつ、小声でソフィアに言う。


「……零様。戻りましょうか」


「うん」


ソフィアは軽やかに微笑むと、クレアと共に学園へと歩みを返した。




読んでいただきありがとうございます!

続きが気になりましたらブクマなどいただけたら嬉しいです!

感想なども是非!

批判などもちょっと傷つきながらも参考にいたします。

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