第二十三話 「愛VS理」
クリックしてくれてありがとうございます!
是非一話から読んでみてください!
アレシアの指先が弾ける。
瞬時に十数本の光槍が形成され、弧を描いてソフィアを包囲した。
「零様! この身、この愛――見せて差し上げます!」
爆ぜる。
光の雨が一斉に降り注ぎ、床を穿ち、柱を粉砕した。
衝撃が押し寄せ、視界は閃光で埋め尽くされる。
煙を突き破って、ソフィアの姿が現れる。
手をかざすこともなく、ただ歩を進める。
しかし次の瞬間――
「さすがです!」
アレシアが地を踏み鳴らす。
魔力が床を伝い、石畳が盛り上がって巨大な岩槍となり、群れをなしてソフィアへと襲いかかる。
轟音。
地を踏み鳴らす。
石畳が隆起し、巨大な岩槍が連続して突き出される。
突き抜けた瞬間、爆炎が花のように咲いた。
ソフィアの身体が炎に包まれる――かに見えた刹那、
彼女の周囲で水蒸気が凝縮した。
空気中の湿度が強制的に集められ、即席の水膜が展開する。
炎は膜に阻まれ、水蒸気爆発を起こして拡散。
ソフィアはその中心から、無傷で歩み出た。
「どうですか! 零様! 私の愛は、言葉より速く、世界を変えるのです!」
アレシアの双眸は熱に潤んでいた。
その瞬間、両手を交差させ――空間に十重二十重の魔力の環を走らせる。
白光が奔った。
環から放たれたのは、純粋な熱と破壊の奔流。
床を抉り、天井を削り、世界そのものを焼き付けるような光線。
ソフィアは防御を選ばない。
片手をかざすだけ。
それでも光線はわずかに逸れ、背後の壁を切り裂いた。
アレシアがさらに詰める。
滑るような踏み込みと共に、彼女の掌に黒い魔力が収束する。
「これが私の信仰の刃……愛が形になった、必滅の剣ッ!」
黒き魔力は剣となり、振り下ろされる。
その一閃に合わせるように、雷鳴が走り、空気が震動した。
衝突。
ソフィアは掌一つで受け止める。
その瞬間、轟音と共に石床が爆ぜ、衝撃波が四方に走った。
爆炎が弾け、光槍が交錯し、空気そのものが軋む。
アレシアの魔法は止まらない。
「零様ぁ……! もっと、もっと見てください! 私の愛を! この命のすべてを!!」
咆哮のような叫びとともに、幾千もの魔法陣が空中に浮かび上がる。
火、水、光、土――属性を問わず、ただ「愛」という名で力へ変換されていく。
ソフィアはその全てを正面から受け止める。
顔は真剣。だが、眼差しは輝いていた。
「……すごい。こんな速度、こんな多重展開……“理”を越えた動き。 これが愛か......!」
彼女の周囲に、極小の光球が次々と生まれる。
それらは理論的に制御され、まるで星々の軌道のように回転し、相互干渉を起こしていく。
「試せる……こんなに純粋に、全力で“試せる”のは、初めてかもしれない……!」
ソフィアの口元に、かすかな笑みが浮かんでいた。
冷徹な観測者ではない。
理を突き詰めることに心を震わせる、研究者の顔。
アレシアもまた、恍惚とした眼差しで彼女を見つめる。
己の攻撃が凌がれていることすら、歓喜の証に変えて。
「零様……! もっと! もっと応えてください!」
二人の魔法がぶつかり合う。
光が閃き、雷鳴が轟き、天地そのものが悲鳴を上げる。
石床は粉砕され、壁は音を立てて崩れ落ち、天井に亀裂が走った。
空気が熱に焼け、建物全体が爆ぜるように揺れる。
――このままでは、拠点そのものが瓦解する。
クレアは唇を噛みしめた。
何度も止めに入ろうとしたが、あの二人の間に立てば一瞬で灰になるとわかっている。
だが――
その瞬間。
冷ややかな風が吹いた。
爆ぜようとした魔力の奔流が、一瞬にして凍りついたかのように収束する。
「……相変わらず、好き勝手やってくれてるね。
ガキ......」
低く響く声。
入口に立つのは、漆黒のローブを翻した女性。
切り裂くような眼差しと、鋭い気配を纏った存在。
――第二零座、セレナ=ヴァロス。
彼女の両手から放たれる魔力の鎖が、ソフィアとアレシア双方の暴走しかけた現象を絡め取り、強制的に静止させていた。
ソフィアが目を見開き、アレシアは息を呑む。
静寂。
ただ、崩れかけた建物の軋みと、三人の呼吸だけが残った。
アレシアは、さっきまでの戦いがなかったかのように嬉しそうに跳ねるような声を上げた。
「お姉ちゃん! おかえり!」
セレナは片眉をわずかに動かしただけで、冷ややかに言い捨てる。
「……誰が姉だ。いい加減その呼び方をやめろ」
アレシアは頬を膨らませ、鎖に引き絞られながらもわざと拗ねた調子で返した。
「だってぇ、セレナってばいつも冷たいから、私が妹っぽくしないとバランス悪いじゃない」
「遊びで接するな。お前の立場はそんな軽いものじゃないだろう」
セレナの声音は一分の揺らぎもない。
その横で、マリルが深く頭を垂れた。
「第二零座、セレナ様。任務の件、報告をお願いできますか」
敬意と緊張を込めた声音だった。
セレナは僅かに視線を落とし、淡々と告げる。
「……神意兵と交戦した。思った以上に深いところまでいってる。こちらの行動も、ほとんど読まれていた」
その言葉に、マリルの眉が硬直する。
「……やはり。では、対処を――」
「ちょっと待って!」
アレシアが抗議の声を上げる。
「マリル、あなたねぇ、私があんたより上だって分かってるわよね? なんで私を飛ばして、セレナにばっかり敬語で聞いてるの?」
マリルは振り返らない。
その目はただセレナだけを見据え、次の言葉を待っていた。
「……おい。無視されたぞ」
アレシアが半ば笑いながら言う。
「お前が甘えてるからだろう」
セレナは冷徹に答え、さらに報告を続けた。
読んでいただきありがとうございます!
続きが気になりましたらブクマなどいただけたら嬉しいです!
感想なども是非!
批判などもちょっと傷つきながらも参考にいたします。




