第二十一話 「神意兵」
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アレシアは、玉座に座るソフィアを見上げたまま、静かに胸に手を当てた。
「……改めて自己紹介をさせていただきます。
私の名はアレシア・ヴェル=オルド。〈零臨団〉における“第一零座”にして、五席を統べる者……そして、あなた様の再臨を最も早く信じた者です」
ソフィアは、その紹介に特に反応することなく、静かに頷いた。
「へぇ、第一。じゃあ……一番えらいんだ?」
「ふふ……零様が“再臨”された今となっては、私など塵芥のようなものにすぎません」
ほんのわずか、陶酔したような笑みがアレシアの口元に浮かぶ。
そのまま立ち上がり、後ろを振り向いて言った。
「ここにおりますのは、私を含めて〈五席〉のうちの四名――」
「ちょっと待った」
マリルがぴしゃりと割り込む。
「偉そうにしないでくれるかな。今さら“第一”とか“統べる者”とか言われても、アンタがテンション振り切って天井ぶっ壊してきた時点で、全部台無しだからね?」
「はぁ……マリル」
「はいはい、“第三零座”ですよーだ。でもさ、私たち、別に全員アンタの下ってわけじゃないから。そういう言い方やめてくんない?」
マリルは軽く肩をすくめて、ソフィアに向き直った。
「私はマリル=エンデ。〈五席〉の第三零座って呼ばれてるけど、別に格式張ったもんでもないし、適当に“マリル”って呼んでくれていいよ、零様」
「……記録、継続」
それに続いたのは、黒髪の少女――リゼだった。相変わらず、感情のない声。
「第四零座、リゼ=クロヴィア。観測と記録を担当。現在、対象の魔力干渉反応は安定。動的変位なし」
「ふふ……ようこそ、“理の外側”へ。
第五零座、ファルナ=エルフェルド。私は、あなた様の存在に祈ること、それだけが生きる理由でございます」
白衣の裾を軽く持ち上げて一礼するように、ファルナが優美に頭を下げた。瞳は潤み、声には陶酔がにじんでいる。
「……あとは、第二零座のセレナ=ヴァロスがまだ来ておりませんが……」
クレアがソフィアの隣で口を開いた。
「現在、教団との前哨拠点での戦闘に加わっております。交信は途切れましたが、無事ならこちらに戻る予定です」
「まあ、あの人は大丈夫でしょ。というか、また正面突破してるに決まってる」
マリルが飽きれたようにため息をつき、首をすくめた。
「……零様がご臨席されてる時にいないとか、後で泣くほど後悔するだろうけど……その前に、地形が原形保ってるか心配になるわね」
「敵方に“神意兵”が含まれていた場合、損耗率80%以上の可能性。戻ってこれたら奇跡」
リゼが淡々と補足する。
ファルナはただ祈るように、そっと言った。
「神々の影を断ち、ここに来てくださった零様の前に……あの方も、必ず姿を現します……必ず」
玉座に座るソフィアは、無言のまま四人のやり取りを見ていた。
その目の奥には、冷静な分析と、どこか――試験的な好奇心の光が灯っていた。
(なるほど。〈五席〉っていうのね、彼女たち。零臨団の中核)
(そして私は……彼女たちの“信仰の対象”)
その事実に、いまだ慣れない感覚があったが――
悪くない。
そして、まだ見ぬ“第二零座”の存在が、ほんの少しだけ、楽しみになった。
「……ねえ、ひとついい?」
ふと、玉座からソフィアが声を上げた。
幹部たちのやり取りが一段落しかけたところだった。視線が一斉に玉座へと向く。
ソフィアは、肘掛けに腕を乗せたまま、興味深そうに目を細めていた。
「……今、“神意兵”って言ったよね? それ、何?」
その声には、明確な驚きと興味が混じっていた。
「わたし、そういう存在の記録……どこにも見たことない。世界中のどの本にも、教典にも載ってなかった。学園の書庫にもなかったし、古文書でも、聞いたことがない」
クレアが、すっと一歩前に出て、静かに頭を下げる。
「ご説明いたします、五席の皆様方の前で大変僭越ではありますが……」
五人の幹部たちが視線だけを向ける中、クレアは丁寧に口を開いた。
「“神意兵”――それは、神より“直接”に魔法を与えられた者たちのことです。通常、魔法とは祈りを通して、神の意思を媒介にして発動されるものですが……」
そこで、アレシアがぱっと顔を上げて、満面の笑みで叫ぶ。
「私たちは“零様”ですけどねっ!」
「うるさい!」
マリルが即座にアレシアの額を指で弾いた。鋭い音がして、アレシアは情けなく前髪を押さえる。
「いてっ……まったく、マリルってばノリ悪いなぁ……」
「解説の邪魔すんなって言ってんのよ……!」
マリルがため息をつきながらクレアに視線を戻す。
「続けて」
「は、はい。ありがとうございます、第三零座様」
クレアは慌てて深く頭を下げ、言葉をつなげる。
「……神意兵は、“祈る”ことなく魔法を使えます。神が構築した魔術式そのものを、その身に宿しているのです。つまり、自分の意思で、神の魔法をそのまま起動できる」
「……魔術の“テンプレート”が、あらかじめ体内に埋め込まれてるようなもの、か」
ソフィアがぽつりと呟くように言う。
クレアは、ソフィアの理解力の速さに一瞬だけ目を見開いたが、すぐに続きを話す。
「……はい。そして、祈りによる神への“代償”が発生しないため、魔力消費も非常に少ないとされます」
「……そんなチート構造ある?」
ソフィアは眉をひそめたまま、思考を巡らせるように天井を見た。
魔力を少なく、祈りも必要なく、それでいて神が作った術式を直接使う。
そんな存在が現実にいるなら――
(理の“例外”が、いくつも存在してるってこと)
「……あれ、つまり神の魔法の実験体?」
その言葉に、クレアはわずかに表情を曇らせた。
「……そう、かもしれません。ですが、彼らは神の側に立つ者です。こちらの信仰や祈りが通じる相手ではありません」
「敵対してるってことね」
「はい。彼らは教団においても、ごく一部の高位関係者しか存在を知らず、命令系統も異なると……」
クレアが口を噤む。
玉座の上のソフィアは、静かに顎に指を添えて考え込んでいた。
そして、ふと笑みを浮かべる。
「――面白いわね。ますます知りたくなるわ、神ってやつの“仕組み”」
その笑みは、どこまでも冷静で、どこまでも――実験的だった。
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