第二十話 「やばいのがきた」
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玉座に深く身を預けたまま、ソフィアは少し考えるように視線を伏せた。
神を打倒する集団――〈零臨団〉。
表向きは学院に紛れ、教団の影でひそかに動く組織。
そして彼らが、神への信仰を魔法の源とするこの世界で、なお“魔法”を行使できているという事実。
――そこに、決定的な矛盾がある。
「……ひとつ訊くけど」
ソフィアは小さく息をついたあと、右手の指先を軽く掲げてみせた。
「あなたたちは……何を信仰して、魔法を使ってるの?」
空気が、止まった。
問いかけに答えられず、沈黙が一瞬張り詰める。
だが、次の瞬間――
「……あなた様です」
静かな声が玉座の下から響いた。
それは、クレアの声だった。
膝をついたまま、ゆっくりと頭を垂れる。
真剣な瞳が、決して冗談や狂気ではないことを証明していた。
「この世界に、信仰が魔法を生むと定めたのは神です。でも、その理を外れて力を示した“零様”――あなたの存在こそが、私たちの祈りの先なのです」
ソフィアは無言のまま、その言葉を受け止める。
(……なるほど。そうきたか)
神々を打倒するために、神とは異なる“存在”を信仰対象とする。
――つまり、“私”を。
笑いそうになった。
信仰なしに魔法を使える自分を信仰の中心に据えることで、理の構造を逆用する。
教団を否定する理屈としては理にかなっている。だが――
「……皮肉ね」
「皮肉でも、真実です」
クレアは顔を上げ、その瞳はまっすぐだった。
「私たちは、神々の偽りに縛られるこの世界を、あなた様と共に塗り替えたいのです。
真の理と、真の自由を――」
ソフィアは小さく目を細める。
(信仰が魔力の源なら、彼らは私を“神”にしている。構造そのものを逆手に取った形……)
(だったら、その信仰がどれだけ機能するのか、確かめる価値はある)
「……じゃあ、見せてもらえる?」
「え?」
「あなたたちが“私”を信じて魔法を使えるっていうなら……証明してみてよ。
“信仰”がどんな形で魔力を生むのか、観測できるならしてみたい」
クレアの顔がぱっと明るくなる。
「……はい、喜んで! すぐに儀式室を――」
「いまじゃなくていい。焦って失敗されても困るし、観察はちゃんとした環境でやりたい」
「……わかりました……! ご期待に応えられるよう準備いたします……!」
そのやりとりの最中――
玉座の間の大扉が、重く地を揺らすように開かれた。
風が流れ込み、四人の影が差し込む。
歩調はまちまちだったが、中央の赤髪の女――が先頭に立っていた。
「わーお……なにこの妙に静かな空気。クレアが神妙な顔で跪いてるとか、レア度高くない?」
燃えるような赤髪を無造作に後ろでまとめ、金属製のアクセサリが動くたびにカチャリと音を立てる。軽口を叩きながらも、その足取りは慎重だ。
その隣を歩くのは、整った黒髪を一筋も乱さぬまま進む無表情な少女――
「……異常な反応なし。空間魔力密度の上昇は収束。動的因子も沈静」
さらにもう一人、白い法衣の裾を揺らしながら歩む。祈りの珠を握り、陶酔したような微笑みを浮かべる。
「ふふ……いい匂い……香りの層が違う……」
三人が近づいても、玉座の間に集う団員たちは沈黙を保ったまま動かない。
誰も、玉座を直視しない――ただ一人、クレアだけを除いて。
マリルが軽く眉を上げ、問いかける。
「で? なんでアンタがこんなところで跪いてるのよ?」
クレアはゆっくりと答えた。
「――零様が、この場にお越しです」
ぴたりと空気が止まった。
マリルは目を丸くし、すぐに姿勢を正す。
「……マジで?」
「第三零座、マリル=エンデ。謹んで御前に」
「第四零座、リゼ=クロヴィア」
「第五零座、ファルナ=エルフェルド。この身を再臨に捧げます……」
リゼは淡々と呟いた。
「……やはり、そう。いい匂いがすると思ってたの」
ファルナは涙を浮かべて囁く。
「まさか、もうお姿を……こんなにも早く……」
マリルがクレアへ振り返る。
「……で? アレシア様には?」
「連絡はしました。……たぶん、もう全速力でこちらに向かっていると思います。連絡した瞬間、“通信”が途切れましたから」
「……ああ。やっぱりか」
マリルは額を押さえてため息をつく。
「また屋根壊してこなきゃいいけど……あの人」
ズガァンッ!!
天井が轟音とともに崩れ落ちた。
瓦礫と煙が舞い上がり、魔力障壁が一斉に光を放つ。
その中心から、金糸の法衣をまとった女が舞い降りる。
地に膝をついて着地し、顔を上げ――
「零様ァァァァァァァァァァァッ!!!」
爆発した。声も魔力も熱量も。
零座の面々が一斉にたじろぎ、マリルが絶望のように呟く。
「来た……最狂いのが……」
「……対象確認」
「……う、美しい……」
アレシアはクレアに詰め寄る。
「どこ!? どこにいらっしゃるの!? 零様は!?」
「そちらです」
クレアが玉座を指差すと、アレシアは瞬時に視線を跳ね上げ、次の瞬間にはすでにソフィアの前にいた。詠唱なしの空間転移――尋常ならざる高位魔法。
「……いらっしゃる……! ついに……」
両手を胸に当て、涙を浮かべてソフィアを見上げ――ふと視線が下へ。
……凝視。
「……え、ちょっ……かわいっ!!」
「……」
「なにこのかわいさ……神域でしょこれ……零様ってそういう存在だったの……!?」
止まらない言葉。
玉座の上のソフィアは眉一つ動かさず、ただその様子を見下ろしていた。
目の奥には――かすかに、愉快そうな光が宿っていた。
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