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少女は祈らない  作者: 異原 世界
学園編

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20/26

第十九話 「レゾナンス」

クリックしてくれてありがとうございます!

是非一話から読んでみてください!

静かな空間を、靴音だけが刻んでいた。


 クレアは、ソフィアを背負って歩いていた。思ったよりも軽い身体だった。だが、体温はしっかりとある。薬の効果で、深く眠っている。いや、眠っていると――そう思っていた。


 階段を下り、幾度かの扉をくぐる。そのたびに、周囲の空気が僅かに変わった。温度、匂い、肌を撫でる圧のような感覚――どれも、地上の学院とは異なる。


 そして最後の扉が開かれる。


 そこは、大空間だった。


 高い天井。石造りの円柱が並び、壁面には複雑な螺旋文様が刻まれている。燭台の灯火が天井に揺れ、奥には一段高く、黒と金で彩られた“座”が置かれていた。


 それはまるで、神殿にも似ていたが、神を奉るにはあまりにも不穏で異質だった。


 両脇には数十人の人物が並び、クレアが姿を現すと同時に、全員がひざまずいた。


 クレアは、ソフィアを抱いたまま、まっすぐ玉座の前へと進んだ。そして、静かにその身体を椅子へと座らせる。


 石の座面は冷たいが、ソフィアは身じろぎ一つしなかった。


 だが――


 そのまま数十秒の沈黙が続いたあと、ふいにソフィアのまぶたがゆっくりと開いた。


 クレアが息を呑む。


「……寝たふり、していたのですか?」


「うん」


 ソフィアは座ったまま軽く背を起こし、ゆるく周囲を見渡した。高い天井、荘厳な壁、沈黙を保った人々。そして自分が座っている椅子の高さと位置。


(……玉座、だこれ)


 わざわざ言葉にする気にはならなかったが、空間の中心に据えられたそれは、明らかに“王”の座だ。


 それに、みんなが跪いているのも気になる。


 ソフィアはゆっくりとクレアを見た。


「……ここ、なに?」


 クレアは一瞬だけ躊躇したあと、すっとひざまずき、頭を下げた。


「零様。このたびは、私の独断による不躾な行動……誠に申し訳ありませんでした。どうか、この無礼をお許しください」


「……零? レティシアが言ってたやつのことか......」


 ソフィアの声に、左右の人々も顔を伏せたまま動かない。


 ただ、クレアの表情だけが、どこか安堵と緊張の混じった複雑な色を浮かべていた。


「この場所は、〈零臨団(れぞなんすぜろ)〉の本部です。私たちは……“零様”の再臨を信じ、導きを待つ者たち」


「……うん、なるほど。宗教か」


 ソフィアは軽くため息をついて、玉座にもたれかかった。


(まあ、ありそうだと思ってたけど……)


 ただのカルトなら興味はない。何人もそういうのを見てきた。


 だが、空間の構造。魔力の流れ。そして、クレアの言葉の裏にある焦りと確信――それが、何か普通ではないことを伝えていた。


「で?」


 ソフィアは視線をまっすぐクレアに向けた。


「あなたたち、なんのためにやってるの? 世界を救う? それとも、神の言葉でも降ってきた?」


 その問いに、クレアは頭を深く下げたまま、ゆっくりと声を発した。


「……神を、打倒するためです」


 その一言で、空気が変わった。


 ソフィアの目が、わずかに見開かれる。


 それは単なる反発や反逆ではなかった。宣言にも似た、強い意志の言葉だった。


「……へえ」


 唇が、ゆっくりと弧を描いた。


「神って、実在するの?」


 それは、真剣な問いだった。信仰が魔法の根幹に関わっていることは、ソフィアも把握している。だが、それは“仕組み”としての理解に過ぎない。では――信仰の先にある“神”とは、本当に存在しているのか?


 クレアはまっすぐに顔を上げ、迷いなく答えた。


「――います。この世界には、確かに。目に見えるかたちではなくとも、力として、理として……確かに存在しています」


 その言葉を聞いた瞬間――ソフィアの中で、何かが跳ねた。


(……観測可能。理に影響を及ぼす存在。そして、それを打倒しようとする集団)


 脳の奥で、久しく眠っていた何かが回転を始める。


(……これは、面白い)


 わずかに笑みが深くなる。胸の奥が熱を帯びていた。興味、好奇心、そして飢えに近い知的渇望。


(いいね、これは……)


 ソフィアは、玉座の肘掛けに指を添えながら、ゆっくりと腰を落ち着けた。


「ねえ。私のこと、“零”って呼んでたよね」


 クレアは頷いた。


「その理由、教えてよ。全部」


 その声には、明確な意志が宿っていた。


 もはや観察ではない。これは――実験だった。

 この世界がどこまで“理”として通用するのか、その限界を見極めるための。


読んでいただきありがとうございます!

続きが気になりましたらブクマなどいただけたら嬉しいです!

感想なども是非!

批判などもちょっと傷つきながらも参考にいたします。

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― 新着の感想 ―
チートでありながら、全知への欲求という筋が通った主人公の姿が頼もしくてかっこいいです。学園編に入って、世界がどんどん広がっていく中で、ソフィアにどんなことが起きていくのか気になります…!
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