第一話 今度こそ!
是非一話から読んでみてください!
——私は「全知」になりたかった。
なんで?
たぶん、そう思う人はいる。 けれど、それはすでに終わった話だ。
私は「世界を、すべて、理解したかった。」
五感で観測できるものだけじゃない。 文章のパターンや、人間の衝動、
どれだけ分析しても、一緒にして持ちえる記述体系はあまりに少ない。 だから私が目指したのは、「神」ではなく「全知」だった。
「私の意思」で世界を変えたいんじゃない。 「世界がどうできているか」を、一つの記述として置きたかった。」
そのはじめは、小学生になったときのこと
「自由研究」というありふれた課題に、当時の私はスッと思った。
「人間には不可能だと言われてることを、つくってみよう。」
近くにあって、だれも手をつけようとしないもの。 それは、太陽だった。
私は、太陽をつくろうとした。
もちろん、夏休みに終わるわけもなく、あの時はいろんな人に怒られたな、いや、ほとんどの人が引いてた。あの親の顔見せてやりたいよ。
もちろん、私も簡単じゃないことは知っていた。
知っていて、それでも、したかった。
「しゃべったことをコピーしただけで」やりたいんじゃない。 「ここにたどり着いた」と、私の言葉で言いたかった。
高速で手を動かせば、どっかの線に引っかかる。 体育のような従題的指示は不要だったけど、太陽をやるにはルールが必要だった。
親の電動洗濯機を切り開けて、モーターを削った。 ごはん中に「ガイガーカウンターって家庭にないの?」と聞くと、父は無表情でカレーをよそった。
自分の高速な考察や、既成の理論を誰かに見上げられたことは一度もない。 でも、思考の形を覚えるのが好きだった。
「なんでそんなことするの?」 その言葉の起点や、背景、他人の心理、思考のグラデーションを分析して、記録する。
それも全知になる過程。 人を軽視したことなんて一度もない。
人間の思考が、世界を形成するんだから。
私はただ、世界のすべてを、「知りたい」それだけなんだよ。
それが、今も、ずっと変わらない。
太陽が失敗したって、それもデータなの。
それを持って、次の世界で、また世界を分析する。
私の名前は朝霧結花。
全知になりたかった女の子。
そして、たぶん私は…またどこかの空の下で、 同じことを考えてる。
柔らかい布の感触。
ミルクの匂い。
そして、誰かの腕のぬくもり。
遠くで、何かを話す声が聞こえる。
高く、優しく、わずかに震えている声。
――ああ、これ、聴覚か。久しぶり。
ぼんやりと意識が浮かび、私はまどろみの中で自問する。
(……生きてる?)
目は開かない。けれど、わかる。
私は、確かに「生きている」。
ただし、いくつかの異常を、即座に感知していた。
(……体が、小さい。四肢の可動範囲が限られてる。
重心が……狂ってる? いや、骨格から違う?)
皮膚に当たる空気が当たる感覚がする。
いや、当たるというより、“空気が粗い”。
(これ……まるで、プラズマの初期層。反応性が高すぎる)
直後、断片的に記憶がよみがえる。
地下研究棟。起動シーケンス。
あの熱、あの閃光――炉心の暴走と、光の渦の中で、私は……
(――なるほど、死んだ。いや、飛んだ?)
意識を集中すると、視覚は未発達ながら、内側に別の“感覚”が生まれていた。
(……流れてる)
血流でも神経信号でもない。
透明で、温度を持たず、それでいて明確な“圧”を持つ粒子が、空間を漂っている。
(なにこれ。物理法則が違うの?)
私は指を動かそうと試み――わずかに、ぴくりと動いた。
すると、粒子が、ふわっと手の周囲に集まった。
(……やば。これ、干渉できる)
明確に反応している。
まるで私の意志を読んでいるような挙動。
(この干渉性……量子的というより、情報場的。仮称、“エーテル粒子”としよう)
(情報体、かつエネルギーキャリア。つまり、こいつらで何でもできるってこと!)
あまりの興奮に、私は思わず口元を緩めてしまったらしい。
その瞬間、誰かが大きく声を上げた。
「----! ----、----------」
(……何て言ってるんだ、私に知らない言語なんてあったの?)
目をうっすら開けると、光に慣れない目がじんわりと滲む。
視界に、赤毛の女性が映った。
やさしい瞳で私を覗き込み、涙を浮かべていた。
「---、---、--! --------……--------!」
部屋の向こうから、男の人が駆け寄ってくる。
「--……----……!」
(なるほど、私、赤ちゃんポジか。なるほど)
二人はどうやら両親らしい。
見た目からして30代前半。肌も髪もよく手入れされていて、生活レベルは高め。
そして、部屋の作り――梁の木目、石組みの壁、通気窓の構造。
(これは……プレモダン建築? 中世風ファンタジー世界の可能性が高いな)
音のパターンに集中する。
二人の言語は日本語ではないが、構文と音節に規則性がある。
(ふむ、膠着語……格変化は語末。語順固定型。文法のパターンが単純で解析しやすい)
(私にこれを理解できないとでも?)
私は再び目を閉じる。動かない体に代えて、頭脳をフル回転させる。
「---! -----------!」
---
数日後。ベビーベッドの中、天井を見上げながら。
(エーテル粒子は依然として可視。これは私だけの感覚なのか?)
意識を集中すると、粒子がひとところに集まる。
次に、眉間の奥に熱のような刺激が走る。
(これは……意思を介した干渉系?)
(言語の習得状況:母音と子音のパターンは解読済。翻訳は可能。会話も、少しならできる)
私は今、“ソフィア”として育てられている。
この名は悪くない。音の響きも上品だし、他称でも受け入れやすい。
日々、周囲の会話を記憶し、空気中の粒子を観察し、肌の発達を確認する。
(指先の神経反応はまだ鈍い。反射系は仕上がってない。くそ、ノートが欲しい……)
私は考える。
(この世界の物理法則と、前の世界の理論との間にどれだけの差異があるか)
(エーテル粒子の構成と干渉性の根拠)
(そして、私がなぜこの世界に転生し、なぜ“この感覚”を持って生まれたのか)
そのすべてを、私は解き明かしたい。
前の世界は不自由だった。
何かしようとすると必ず邪魔が現れた。
でもこの世界なら、私はできる。
世界の全てを知ることが
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