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少女は祈らない  作者: 異原 世界
学園編
18/26

第十七話 「同級生と同居人」

クリックしてくれてありがとうございます!

是非一話から読んでみてください!

昼休み、選択授業の提出場所は賑わっていた。

生徒たちは時間割表を手に、それぞれどの科目を取るか悩んでいる。

教室の隅、ソフィアは一人で机に向かい、書類に記入していた。


「よっと……代表さん、お隣失礼」


声とともに椅子を引いたのは、金髪の少年、カイル=ミューレン。

片手で時間割をくるくる回しながら、にこやかにソフィアの隣に座り込む。


「こんなに難しい授業、よく選ぶね。理論ばっかじゃん。ちゃんと息抜きの時間も作らないと」


「……別に平気。面白そうなやつを選んでるだけ」


「ふーん? じゃあ、“魔道史入門”とかは? 一緒に取ろうよ。教室も涼しいし、寝てもバレないらしいよ」


「寝るつもりで授業取るの?」


「まあ、君の隣で寝れたら……それもご褒美?」


ソフィアはちらと視線を向けた。無表情のまま。


「そういうの、わたしはよくわからない。あと、距離近い」


「おっと、失礼。でもさ、こうやって近くで見ると――」


彼はふと、ソフィアの髪に手を伸ばそうとする。

白銀の髪が、春の光で微かに輝いていた。


「……この髪、光の加減で白にも青にも見えるんだな。なんていうか……」


「――やめなさいッ!!」


突如、教室中に響いた鋭い声。


カイルの手が髪に触れる寸前で、ばしんと音を立てて弾かれる。

その手を払ったのは、レティシアだった。


怒気すら帯びた表情で、彼女はカイルの前に立ちはだかる。


「髪に触れるのは――絶対に、ダメよ」


「え、え? 何、俺何かヤバいこと――?」


「ソフィアはそういうの、嫌いなの。……絶対やめて」


カイルが苦笑いを浮かべて引き下がる。


「わ、わかったよ……先生、そんなに睨まないで……」


ソフィアは、無言でそのやり取りを見ていたが、ふと小さく言った。


「……ありがとう、レティシア」


レティシアは慌てて振り返る。


「え......うん、気にしないで。でも、もし次があったら、言って」


ソフィアは少しだけ考えたあと、真顔でぽつり。


「触れられたら、次はその指、落とす」


カイルがぴくりと肩をすくめた。


「こ、こわ……!」


周囲で見ていた生徒たちの一部がざわめく。


「え、今のって脅し?」 「いや、冗談だろ? たぶん……」 「でもあの代表、冗談言うタイプに見えないけど……」


一方で、ソフィアはもう視線を紙に戻していた。何事もなかったように。


「選択授業、これで出せばいいの?」


「うん。それで大丈夫。……ソフィア、気をつけてね。ここは、“他人が多い場所”だから」


その言葉に、ソフィアは小さく頷いた。


学院生活――そこに広がる“観察”と“干渉”の連鎖。

静かに、確かに、それは動き出していた。




学院の寮は、属性ごとに棟が分かれている。 だが、“五属性持ち”と“特例生”――すなわち、属性分類が困難な者たちには、中央棟と呼ばれる独立寮が用意されていた。


白を基調とした石造りの建物。 規模は他の寮より小さいが、そのぶん設備は整っており、個室に近い二人部屋が標準だった。


ソフィアの部屋は、三階の西側。 窓の向こうには中庭と時計塔が見える、静かな角部屋だった。


ドアを開けると、すでにもう一人、先に入室していた。


「――おっそ! あんたがソフィアちゃん? よろしくねー!」


眩しいくらいの笑顔とともに、声をかけてきたのは、一人の少女。


ゆるく巻いた赤みがかった髪。 長めのまつ毛に、ぱっちりとした水色の瞳。 制服の上着はすでに脱いで、ラフなシャツ姿になっていた。


「クレア=フィンレイ! 水と土属性でーす! 一緒の部屋になるとか運命っぽくない? これからよろしくね!」


「あ……よろしく」


ソフィアは少しだけ瞬きをして、ぺこりと頭を下げた。 クレアはその反応に構わず、すぐさま詰め寄る。


「てかさ! ねぇ、ちょっと失礼……うっわ、やっぱりでっか!!」


「……え?」


唐突に発せられた言葉に、ソフィアは一瞬固まった。


「胸よ胸! 何そのサイズ!? 隠してもムリってレベルじゃん!? 制服の上から分かるやつだもん!」


「……そう?」


「そうよ! めっちゃ羨ましいんだけど……うちBの上の方なんだよね……せめてCほしかった……」


クレアはなぜか床に倒れ込むように崩れ、「神は不公平……」と呻いている。


ソフィアは、その姿を無表情のまま見下ろした。


(……観察対象としては、特に異常なし。属性診断も妥当。信仰にも作為は感じられない)


「で、さぁ。ソフィアちゃんは何属性なの? 代表だったし、まさか五属性全部持ってる系!?」


「……一応、そういうことになってる」


「え、なってる……? ちょっと言い回しおかしくない?」


「……気のせい」


「ふーん……まあいっか! うちら寮生同士だし、なんかあったらよろしくね!」


クレアは明るく言いながら、ベッドにばふっと倒れ込んだ。


(……警戒はいらない、ただの学院生。おそらく、今後も特に干渉してこない)


ソフィアはそう判断し、自分のベッドに腰を下ろすと、持ってきた魔道書のページをめくり始めた。


「てかさ、さっき隣の席の男子、めっちゃガン見してたよ? たぶんソフィアちゃんのこと好きだよあれ」


「……そう」


「反応うっす!? あーでもそういうの興味ないタイプ? そっかー……でも逆に、無口で巨乳って、男子めっちゃ好きそうな属性じゃない?」


「……いまの、“属性”って魔法のほうじゃないよね?」


「えっ違うよ? 人生のステータスの話!」


ソフィアは黙って、ページをめくる速度を少しだけ上げた。


(……反応速度は高い。会話のテンポも早い。だが、内容に知性はない)


(研究対象外。記録、終了)


ソフィアは心の中だけで、淡々と結論を下した。


一方、クレアはベッドの上でぐるぐる転がりながら、楽しそうに話を続けていた。


「ねぇねぇ、明日の選抜テスト、何選ぶ? 私、たぶん防御魔法~。ソフィアちゃんは攻撃系っぽいよね? それとも神聖術?」


「……非戦闘。観察優先」


「へー? かっこいい言い方~。なんか研究者っぽい!」


「……そうかも」


ソフィアは、本を閉じて小さくため息をついた。


静かに、けれど確かに、寮での生活もまた、観察と干渉の場のひとつだった。



読んでいただきありがとうございます!

続きが気になりましたらブクマなどいただけたら嬉しいです!

感想なども是非!

批判などもちょっと傷つきながらも参考にいたします。

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目的が変わった為か、普通を演じる気が全くなさそうなソフィアさん。心無しかイキイキしてるようなw レテシィア先生の胃が心配です笑
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