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少女は祈らない  作者: 異原 世界
学園編
17/26

第十六話 「入学おめでとう。」

クリックしてくれてありがとうございます!

是非一話から読んでみてください!


入学式が終わり、講堂から生徒たちがぞろぞろと溢れ出てくる。

石畳の広場に春の陽が差し込み、柔らかな風が制服の裾を揺らした。


「代表の子、マジで五属性全部だったよね?」 「やば……魔方陣の輝き、三重だったってわかる? 私、正面で見てたけど、あれすでに巫女に近いってレベルじゃない」


「信仰が深いほど魔方陣は輝くんでしょ? つまり……あの子、すっごい敬虔ってこと……?」


「でも、なんか……ちょっと怖くなかった? 詠唱が、棒読みでさ……」


中庭には、そんなざわめきと視線が集まる一角があった。


そこに座っているのは――銀髪の少女、ソフィア。


ひとりベンチに腰かけ、制服の袖を整えながら、膝の上の魔道書をめくっている。

誰にも話しかけられず、周囲だけぽっかりと空白になっていた。敬意とも畏怖ともつかぬ距離感。


「……で、出た。代表の子、超一人の世界だ……」


「ちょっと近づきにくいよね……見た? 試験のときのあの冷たい目……」


「でもさ、ほんとに五属性なんだよ? あれ、推薦枠って噂だけど、普通に天才でしょ……」


「推薦枠って、たしかレティシア先生の……」


その名を口にした瞬間、ひときわ大きなざわめきが生まれた。


「……え、うそ。あれ見て、あの人、来てる」


「ホントだ……レティシア=グローデル先生……!」


生徒たちの視線が一斉に注がれた先、講堂の柱の陰から歩いてきたのは、

赤い装飾が施された深い青の教員ローブに身を包んだ女性教師――レティシアだった。


その名を知らぬ者はいない。


五属性を全て扱い、学院史上最高成績で卒業。

今や若くして、聖環学院の“魔法理論”と“神学応用”を教える天才教師。


「あのレティシア先生が……代表の子のとこ行った……!?」


生徒たちのささやきをよそに、レティシアはそのままソフィアの隣へと歩み寄り、ベンチに腰を下ろす。


「……相変わらず、空気読まないなぁ」


レティシアがそう言うと、ソフィアはちらりと目線を上げた。


「え、変だった? 断定したら嘘になるし……」


「もうちょっと“濁す”とかあるでしょ。“尽力します”とか」


「研究の報告に、そんな曖昧な表現使わないし」


「はいはい、そういうとこよ。もう少し“可愛げ”ってものをね?」


「それ、必要なの? 魔方陣の精度と関係ある?」


「それ言い出すと教師生活がつらくなるのよ、ほんとに」


二人の会話は、ごく自然に、親しげに交わされていた。

それを遠巻きに見ていた生徒たちが、息を呑む。


「やっぱり知り合いどころじゃない……あれ、完全に“友達”みたいな……」


「え、でもレティシア先生って、あの冷徹で有名な指導者でしょ……? 自分が推薦したからって、あそこまで親密って……」


「何者なの……あの子、ソフィアって……?」


ざわめきの中心で、当の二人は至って自然だった。


「でも……本当に代表になるとは思ってなかった。試験のときの魔方陣、完璧だった。全部、自分で?」


「うん。光子の集束と干渉で作った。あとは反射角度の調整と、干渉色の制御。三層にしたかったから」


「……まったくわからないけどすごいってことは分かった」


レティシアは呆れながらも笑って、少しだけソフィアに目を細めた。


「でも、目立ちすぎちゃったかも。教団があなたを“信仰の象徴”に仕立てようとしたら、面倒よ」


ソフィアはほんの少し、視線を伏せた。


「わかってる。……でも、大丈夫。いざとなれば、消える準備はしてある」


その言葉に、レティシアはわずかに息をのんだ。


「あなたってほんと、そういうとこだけ冷静すぎるのよ……」


「レティシアのほうが、もっと冷静だと思ってた」


「それは“先生”としての顔よ」


「じゃあ、いまは?」


「……“友達”としての顔。……多分ね」


ソフィアは、それを否定しなかった。


そしてその頃――学院の高塔の最上階、ステンドグラス越しの窓の奥。


謎の少女が、静かに二人を見下ろしていた。

黒衣に銀縁のローブ、顔には仮面。


「……零様。やはり、再現性のある力」


冷たい声で呟く。


「観測は継続……次の接触に備える」


小さく呟き、姿を闇へと沈めた。


学院は、まだ始まったばかりだった。

だがその静けさの裏では、もう幾つもの思惑が蠢きはじめていた――。


「……静かにーっ!」


教室の前方から、澄んだ声が響く。


立っていたのは、若い女性教師。濃紺のローブを軽やかに着こなし、手には銀の教鞭。

肩までの金髪を緩やかに結い上げたその人物は、今年新たに着任した教師――ルシア=カーヴェル。


「さて、入学おめでとうございます。一年A組の担当教師、ルシアです。担当は属性基礎理論と、結界学。あと、叱る係」


教室の前列が小さく笑う。


「授業が始まる前に、学院の仕組みをざっと説明しておきましょう。君たちは今日から“神と理を学ぶ者”です。けれど、信仰があればいいというわけではありません」


ルシアは、教室の背後にある壁へ向かって、教鞭で一突き。


すると、そこに描かれていた魔法陣が淡く発光し、空間に光の板が浮かび上がる。


「学院の授業は〈属性系〉〈理論系〉〈神学系〉に分かれています。それに加えて、年二回の〈査問〉があります」


「さ、さ、査問……!?」

前列の生徒が小声で怯える。


「まぁそんな怖がらないの。査問といっても、“信仰の深さ”と“理の理解”が一定基準に達しているかを確認するだけ。問題なければ三分で終わるから」


(……三分で終わらなかった生徒はどうなるのか、誰も聞けなかった)


「それと――学院内は五属性で寮もクラスも分かれているけれど、“五属性持ち”や“特例生”は独立枠。たとえば、代表のソフィアさんとか」


注がれる無数の視線。

ソフィアは反応しない。机の上のノートに、魔力量測の式を書き写していた。


「それと、もう一人……特例編入がいますね。カイル=ミューレンくん、自己紹介を」


「はいはい、どーも。編入生のカイルでーす。五属性持ち、でも信仰は薄め。自由気ままに生きてます。以上」


緩い口調で立ち上がった少年――灰色の髪に、翡翠色の瞳。

どこか飄々とした雰囲気をまとい、クラス内に微妙な空気を生む。


「性格はさておき、魔力量のバランスと反応速度は今期トップ。ライバル視するのも自由よ」


「ライバル視……するかよ、あんな軽薄そうなやつ……」


後ろの席の男子がぽつりと呟いた。


「さて、最後に紹介したいのは教職側――神学特任講師であり、学院の理論研究室室長。今期から教団特任監査員でもあります。どうぞ、レティシア=グローデル先生」


教室の後方の扉が開かれ、スッ……と静かに入ってきたのはレティシアだった。


生徒たちが一斉にざわつく。


「ま、まじで本人だ……!」 「この学院の歴代最高成績の卒業生……!」


「学問部門首席、魔法戦闘でも準トップって……えっ先生なんで……!?」 「神官家系で、教団からの派遣じゃないかって噂、ほんとだったんだ……!」


レティシアは一礼だけして、前へ出る。


「――信仰も、魔法も、真理も。すべては“問い”から始まります。

 本質を恐れず、疑問を持つこと。それが、学ぶ者の責任です。共に在りましょう」


その言葉に、教室は静まり返った。


ただ、その場にいる者の誰もが――ソフィアが彼女をじっと見つめていたことに気づいていなかった。


(この学園に来たのは、“神”を知るため。信じるためじゃない)


ソフィアはペンを止めずに、心の中だけで呟いた。


読んでいただきありがとうございます!

続きが気になりましたらブクマなどいただけたら嬉しいです!

感想なども是非!

批判なども参考にいたします。

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