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少女は祈らない  作者: 異原 世界
学園編
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第十五話 「入学式はおめかししないと!」

クリックしてくれてありがとうございます!

是非一話から読んでみてください!

高い天井と、厳粛な意匠のステンドグラス。

魔導学院の講堂には、数百名の新入生が整列し、保護者と教団関係者が静かに見守っていた。


祭壇のように据えられた壇上には、五大属性を象徴する紋章と、光の柱が交差する。


その中心に――ソフィアは立っていた。


白を基調とした制服。

表情は、静か。

背筋は伸び、目は前を向いている。


けれどその沈黙は、まるで空気の“芯”のように異質で。

周囲のざわめきが、逆に彼女を際立たせていた。


「……ただいまより、新入生代表による誓詞の奏上を行います」


学園長が紹介を終えると、会場の空気が一瞬ぴんと張り詰める。


(……なんで、私が代表?)


ソフィアは、壇上から見渡す光景に、内心でそう思っていた。


推薦枠からの入学。

属性の記録は空欄。

信仰の誓いも、実質的には偽装。

なのに――あの日の試験結果が、全てを覆してしまった。


「では、次の受験者。ソフィア=エインズワース。属性適性、魔方陣描写、発動試験を行います」


試験官の声に促され、ソフィアは中央の魔導石板の上に立った。

白衣に近いシンプルな服装、そして真っ直ぐな白髪。

見た目だけなら、ただの物静かな少女である。


だが、試験を見守る教団側の神官たちはざわついていた。


(推薦組か……でも、属性診断が空欄?)

(それで試験受けるとか、ちょっと舐めてる……?)

(――いや、何かあるのか?)


一方のソフィアは、真剣そのもの。


(……いける。波長は固定済み、屈折率の補正も入ってる。あとは、熱で揺れるのをどう補正するか……)


「では、発動の準備を」


「……はぁい」


ソフィアはそっと右手を掲げた。

そして――


「……《れいてきなる、ひかりの、しんめい》……」


――棒読みだった。


抑揚のない、感情の抜けた詠唱が、試験室に響く。


「《いのりとともに まわれ……》」


真顔である。


完全に無信仰で、意味も分かっていない。

レティシアが書き溜めてくれた「詠唱例リスト」から、もっとも一般的な文言を“読んで”いるだけだった。


だが――


(詠唱してる間に、光子収束開始。ここで散乱光を少し弱めて、干渉縞を均一化……)


少女の内側では、まるでレーザー干渉実験の如き精密な計算が走っていた。

魔方陣の“線”は、単なる「光の線」ではない。

強度の異なるスペクトル光を何層にも重ね、幾何学的に最も視覚効果の高い構図を構築している。


「……《ひかり、われに、そそげ》」


棒読みで、最後の詠唱が終わる。


その瞬間――


ぱあああっ、と、彼女の足元に五色の魔方陣が咲いた。


赤、青、緑、黄、白。五属性を象徴する色が、完璧な配置で瞬時に出現する。


「……っ!?」 「こ、これは……」 「発光密度が異常に高い……!」


神官たちがざわつく中、ソフィアはただ、小さくため息をついた。


(……よかった。光量オーバーしたら、目が焼けるところだった)


彼女は本気で心配していた。

信仰でもなければ祝福でもない。――ただの、光操作の成果だったのだから。


(詠唱文、五行覚えてきたし……間違えなければ、きっと終わる)


ソフィアは、淡々と口を開いた。


「……我々、新入生一同は……五神の導きのもと、学びに励み……精進いたします」


声は落ち着いていた。表情も変わらない。


だが、壇上から差し込む光が、彼女の肩に――まるで祝福のように降り注いだ瞬間。


会場が、どよめいた。


「……あの子、光の加護が……」

「いや、五属性すべてが……」

「まるで、神子みたいだ……」


そんな声がささやかれる中、ソフィアは静かに言葉を締めくくった。


「……神様の信仰を深めていくことを、誓います。……たぶん」


一瞬、ざわめきが止まった。


(……“たぶん”?)


学園長が少し苦笑を浮かべ、咳払いで場を収める。

神官たちは一瞬訝しんだが、「慎ましい物言い」と好意的に解釈して頷いた。


壇上から戻る途中、整列の最前列――レティシアが目を細めてこちらを見ていた。


(……“たぶん”じゃないでしょ)


唇の動きでそう言っているのが、遠くからでも分かった。


ソフィアは何も答えなかった。

ただ、胸の内でひとつだけ、つぶやいた。


(……目的は、神の信仰じゃない。調べるの。神という存在の正体を)


そして、誰にも気づかれぬように、小さく口角を上げた――


読んでいただきありがとうございます!

続きが気になりましたらブクマなどいただけたら嬉しいです!

感想なども是非!

批判なども参考にいたします。

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― 新着の感想 ―
魔法陣を光の操作で再現しちゃう主人公すごい!筆者はレーザー干渉実験についての理解が深そうだけど、実際に実験をしたことがあるのかな。このエピソードまでの文章のテンポが完璧だし、語彙力や多分野の知識があり…
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