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少女は祈らない  作者: 異原 世界
魔王(ぜろ)再臨編
14/26

第十三話 「私の観察対象ちゃん」

クリックしてくれてありがとうございます!

是非一話から読んでみてください!

王都郊外・東側の森境──


夜の風が揺れる丘に、少女が一人、静かに立っていた。


ソフィア=エインズワース。


白の外套を羽織り、足元には数冊のノートと魔力測定用の水晶片。


「……レティシアが最後にいたのは、このあたりね、」


ソフィアは地面に膝をつき、微かに焦げた草の根元に指を当てる。


そこには、かすかな“熱の残留”があった。


「車輪痕は……複数方向に分岐してる。でも、どれもおとり。


決定的なのは、ここ」


彼女の指が触れた土壌の下、わずかに赤みがかった粘土層。


ソフィアは魔力を一点に集中させ、薄く力を流し込む。


すると──


「……やっぱり」


淡く輝いたのは、“揮発しきらなかった魔力粒子”。


本来なら魔力は、術式が終われば完全に空気に散乱する。


だが、それは“詠唱”に基づく構造体の場合の話。


(詠唱がなく、魔法陣もなしに漏れ出た魔力は──均質拡散せず、方向性を持って散る。わざとこんなふうにしたのかしら、)


彼女は指を空中に翳し、魔力粒子の残留を“誘導可視化”した。


細く光る筋が、空中に浮かび上がる。まるで、風の流れに染みる煙のように。


「風に乗った粒子の角度……約12度南東寄り。標高差あり。


重力分布にもブレがある……つまり」


地図を広げ、標高線を一つずつ指で辿る。


「この軌跡は、明らかに“登ってる”。目的地は、……山の中」


ソフィアは立ち上がり、懐から小型の魔力干渉測定器を取り出した。


「視る」でも「感じる」でもない。


機械的に、理として、現象を解析する──それが彼女の“信仰なき魔法”。


「発信源は“山頂近く”……廃墟があったはず。地図に記録されてないけど、古い書物で見た」


彼女はスカートを翻し、風を切って駆け出す。


(レティシア……あなた、面白い人だった)


(“信仰のない私”を嫌悪せずに、ただ“見よう”とした)


(それが、もし──教団の中で本気でやろうとしたのなら)


(……そんな人、初めて)


ソフィアの目が光を帯びる。


「さあ、“実験”の時間よ」


そして──


誰も知らない山の廃墟へ。


ソフィアの足が地面から離れ、身体がふわりと宙に浮く。


魔力を自分の周りに流し、重力を無視するように体を浮かせる。


彼女は何も言わない。ただ、空を睨みつけていた。


次の瞬間、爆音が鳴った。


彼女の身体は、一気に空を駆け抜けた。


空気を裂き、雲を突き抜け、その速度は音を超えていた。


音速を超えた瞬間、空に鋭い衝撃波が走り、背後の雲が波打つように割れた。


空の向こうに、レティシアの痕跡は確かに続いている。


――その日、山の上空を横切った閃光について、誰も語ろうとはしなかった。


山間部・廃施設周辺──


夜の帳が降りる直前、空に走った閃光は、ほんの一瞬にして周囲の静寂を切り裂いた。 雲を貫き、空気を撹乱し、山の奥にひっそりと佇む廃墟へと――それはまさに『落ちた』。


ソフィアはその中心にいた。地上からおよそ三百メートル上空。 身体を浮かせ、周囲の空気流を調整し、重力を制御した浮遊状態。


だが、その表情には冷たさも怒りもなく、ただ無感情に近い静寂があった。


(……領地ではできなかった実験、やるにはちょうどいい)


脳内に回るのは、解析と構築の繰り返し。 地理的環境、魔力密度、敵の術式傾向。


(標高の高さから空気密度は下がってる……でも、逆に制御効率は上がる)


魔力が空間に染み渡る。 風が揺れ、雲が避け、雷すら静まる気配。


「さて、観察の次は――実験ね」


彼女は地上へ落ちた。 いや、制御された『降下』だった。 だが、その速度は空気を裂くほどに鋭く、監視塔の上空に達した瞬間、


爆発的な衝撃波が発生した。 塔の上部が吹き飛び、山肌が震え、木々がなぎ倒される。


廃墟内部に潜んでいた誘拐犯たちは、一様に顔を引きつらせた。


「な、なんだ……!? 敵襲か……!?」


「気配が……一つ? 馬鹿な、結界は……っ!」


その言葉が終わるよりも前に、施設全体を囲っていた魔術結界が音もなく崩れた。 まるで、紙の繊維がゆっくりとほぐれるように、術式が溶け、崩れていく。


中央制御陣が、逆回転を始めたのだ。


廃墟内部に配置された五重結界。 通常であれば、破るには同等の術式をいくつも重ね、詠唱を長く必要とする。 だが、ソフィアは違った。


「構造が単純すぎる。繰り返しパターンと対称性、明確な中継核……むしろ親切ね」


指先に魔力を伝え、各構成点を無効化する。


「解析完了。崩壊誘導……実行」


瞬間、結界が蒸発するように、霧となって消えた。


敵の一人が、反射的に飛び出してくる。 黒衣を翻し、金属の杖を振るう。


「《光よ 我が敵を雷槍──」


その詠唱が終わる前に、彼の身体は壁に叩きつけられた。


「……失敗。もっと制御精度を上げないと、壁にめり込むだけ」


淡々と呟くソフィア。


続いて剣士型の敵が突進してくる。 技量は高い。足運びにも迷いがない。


だが、


「質量と速度の積……運動エネルギーに魔力を加算……空気抵抗、増加」


術式なしに、空間そのものの密度を上げた。 刀身が赤熱し、剣士の腕ごと爆ぜ飛ぶ。


「属性任せの戦闘って、どうしてこう非効率なのかしら」


彼女は少しだけため息を吐いた。


施設の最奥。 鉄製の枷に縛られ、鎖に繋がれたレティシアがいた。


その目が、爆発音と共にかすかに開かれる。


「……ソフィア……?」


呟くような声。 まさか来てくれるとは思っていなかった。 いや、来る理由がないはずだった。


だが。


「来たわよ。観察対象ちゃんが、勝手に連れて行かれるなんて、計画が狂うでしょう?」


その声に、レティシアは言葉を失う。


ソフィアは拘束具に触れ、術式を読んだ。 そして瞬時に、構成を“逆転”させる。 鍵の形が焼き切られ、錠が砕ける。


レティシアは自由になった腕を、そっと胸に引き寄せる。


「……どうして……来たの?」


「うーん、領地じゃ試せなかったこと、いっぱいできそうだったし。あとは……」


ソフィアは少しだけ、表情を和らげた。


「……あなたが、私を“見てくれた”から。信仰がない私に、目を背けなかった」


その言葉に、レティシアは戸惑い、そして少しだけ笑った。


「ふふ……助けてくれる理由、それだけ?」


「それだけで充分よ。あと、あなたの反応……ちょっと面白い」


ソフィアが手を差し伸べる。 レティシアは一瞬だけ戸惑い、そして、その手を取った。


だが、二人が動き出した瞬間。


「止まれ」


重く響く声が、空間を震わせた。


読んでいただきありがとうございます!

続きが気になりましたらブクマなどいただけたら嬉しいです!

感想なども是非!

批判なども参考にいたします。

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