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少女は祈らない  作者: 異原 世界
魔王(ぜろ)再臨編

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13/26

第十二話 「最高に面白いじゃない!!」

クリックしてくれてありがとうございます!

是非一話から読んでみてください!

レティシアが来なくなって、三日が過ぎた。


その日も、ソフィア=エインズワースは静かに、食後の紅茶を口に運んでいた。

甘味は控えめ。温度はちょうど良し。カップもお気に入りの縁金細工――


……だったのだが。


(……やっぱり、来ない)


スプーンを置く動作が、ほんの僅かに鈍る。


「……あの人も、結局、そうだったのね」


心の中で、溜息をつく。


過去三人の家庭教師たちと、同じ。

“途中でいなくなる”という謎の共通点。


一人目は、「実家に急用が」と言って姿を消し。

二人目は、「婚約者が急に倒れて」と言って突然の出発。

三人目に至っては、「何か……雷に打たれたような気がした」とだけ言い残して失踪。


(全員、信仰がないとわかってすぐだ、)


もはや“伝統芸”のようなものだった。


今回のレティシアも、そうなのだろう――そう思うと、なんとも言えない虚無感が胸を覆う。


(あんなに面白そうだったのに。あんなに観察眼があって、“ぽん”に動じなかったのに)


実験者としての興味も、観察対象としての価値もあったのに。

一ヶ月で、これだ。


(……ほんと、がっかり)


いつの間にか紅茶の表面に、うっすら“湯気の渦”が現れていた。

ソフィアの魔力が、無意識に共振している。


そのままテーブルに頬をのせ、ぽつりとつぶやく。


「で、今回はどこに帰ったのかしら?

 彼女の選択も私を全知へ連れていく」




数時間後。両親のもとにて。


「お母様、レティシア先生、何かご予定があったの?」


「ええとね、……」


母が指を折りながら言った。


「まず最初は実家って話だったわね。あの子も家庭がね……って。次の先生は婚約者が倒れて」


「三人目は雷に打たれたんだったわよね。……でも、今回は、……」


父が困ったように口を挟む。


「……今回は、特に連絡がないんだ」


「へ?」


「教団からも、何も」


「え?」


母と父が視線を合わせて、苦笑する。


「まあ……教団のことだし、何かの任務が入ったのかもしれないけどね」


「でもちょっと変なのよ。前の先生たちのときは、必ず誰かしらが代わりに挨拶に来てたんだけど……今回はそれもなくて」


「教団の人も、今のところ“所在不明”って言ってるそうだ」


その瞬間。


ソフィアの脳内に、鮮やかに“電流”が走った。


──教団が、把握していない。


(え。ええ。えええ!?)


思考が、一気に加速する。


(つまり、あの人――レティシア・グローデルは、教団に逆らった!?)


(報告を拒んで、どこかに消えた!?)


(──最高に面白いじゃない!!)


ソフィアは、まったく笑っていないのに、頭の中だけで全力でガッツポーズを決めた。


(やった……! やっと見つけた……!)


(信仰のルールを理解しながら、それでも“外れた”人……!)


(しかも教団の人間!)


(利用するには、これ以上ない素材じゃない!)


心が、身体の奥からふわりと浮かび上がるような感覚。

興奮が、冷たい静けさの奥底で、確かな熱を持って広がっていく。


(やっぱり、あの人はただ者じゃなかった……!)



ふとソフィアは、机の引き出しを開ける。


そこにしまっていたのは、何度も書いては破った“入学志願書”の下書き。


王都・魔道学院。


そこに行けば、信仰についてもっと知ることができる。

神についても、魔法の成り立ちについても。


──でも、自分が“信仰していない”とバレたら終わり。

それが唯一にして最大の障壁だった。


(でも……)


(もし、あの人が、私を推薦してくれれば)


(……私も、近づける)


ソフィアの頬が、わずかにほころんだ。


その笑顔は、子どもらしい無邪気さとは異なる、“理を掴もうとする者”の喜びに満ちていた。


──夢に、一歩、近づいた。


それは他の誰のためでもなく、

ただ“知りたい”という、純粋すぎる衝動のために。





石造りの地下室に、重い鉄扉の閉まる音が響いた。


蝋燭だけがかすかに照らす空間。

壁は分厚く、外界の音は一切届かない。


中央の椅子に、レティシア・クローデルは静かに座っていた。

鎖が、両手首と足首に掛けられている。その上、封魔によって魔力も封じられた状態だった。


前に立つのは、黒衣の尋問官。

教団の公的記録には記されない、影の監察者。


「……もう一度、確認します。

あなたは地方任務において、“魔法行使に関する重大な観察対象”に接触しながら、その報告を意図的に遅延した」


「意図的ではありません」


レティシアの声は冷静だった。


「書くべきことを、まだ書く“資格”が自分にあるかを測っていました」


「資格?」


「ええ。判断を誤れば、その子は“異端”として処分される。でも私は、彼女が“まだそうではない”と信じている」


尋問官は無言で、書簡を一枚、レティシアの前に置いた。

それは、未提出の報告書の写し。空白の多すぎる構成。


「“理の魔法”を使った、と報告してもよいのでは?」


「その“理”を、あなたは説明できますか?」


「できません。それは司祭会の判断だ」


「……だから、書けないのです」


レティシアは目を伏せたまま、呟く。


「教義では、魔法とは神に捧げる祈りと詠唱によってのみ発動されるもの。

でも、彼女はそれを超えていた。ただの逸脱ではない。

あれは……“再現”です。まるで、この世界の構造を、理解して組み直しているような」


「つまり、“零”の可能性があるということですか?」


その言葉に、レティシアは眉を寄せた。


「“零”など、記録の中にしか存在しない空名です。私は……ソフィアを、ただの人間だと思いたい、いえ、思っています。」


「信仰のない者が魔法を使う。それは、ただの人間ではない」


「そうでしょうね……」


小さく、レティシアは笑った。


「でも、信仰がなければ人は人ではないのですか?」


沈黙が落ちる。


尋問官は机を一つ叩いた。


「このまま報告を拒み続ければ、正式に“異端庇護の疑い”として、君自身の信仰も問われることになる」


「その覚悟はあります」


「……いいでしょう」


尋問官は扉の方へ歩くと、最後に一言だけ残した。


「“あの子”が何者であるかを証明するのは、君ではない。我々が先に、それを確かめさせてもらう」


扉が閉まる。


レティシアは、誰もいなくなった闇の中で、静かに独り言のように言った。


「……ソフィア。あなたは今、何を考えているの?」


その声は、確かに届かぬはずの空間に、微かに響いて消えた。

読んでいただきありがとうございます!

続きが気になりましたらブクマなどいただけたら嬉しいです!

感想なども是非!

批判などもちょっと傷つきながらも参考にいたします。

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