第十一話 「名の無き物の影」
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藁の匂いがまだ残る馬小屋の裏手。
乾いた足音が、静かにそこで止まった。
「グローデル導師。――いや、レティシア・グローデル」
背後から静かに落ちた男の声。威圧はない。けれど、語尾に宿るその“重み”が、彼女の警戒心を一気に引き上げた。
(……名前を知っている)
レティシアはゆっくりと振り向かずに言葉を返す。
右手はそっと、外套の下、腰に差していた長杖へ伸びていた。
「名乗らぬ者が、人の名を呼ぶとは。礼儀知らずね」
「それでも、“呼ぶだけの理由”がこちらにはある。……貴女が報告を止めた、その瞬間から」
返答と同時に、屋根と小屋の影から複数の影が跳んだ。
(来た!)
即座にレティシアは杖を引き抜き、後方へ滑るように身を引く。杖先が地を擦り、詠唱が走る。
「〈光よ、我が足元に静寂を〉!」
杖の先端が軽く地面を叩いた瞬間、足元に小さな魔法陣が浮かび上がる。踏み締めた地面がわずかに光を放ち、衝撃をいなすように身体がふわりと浮く。
「〈光よ、糸となりて敵を裂け〉!」
空中で彼女が杖をひと振りすると、その軌跡に従って、光が糸となって走る。
襲いかかってきた三人のうち二人に命中。手首、足元、顔の前でそれぞれが閃き、敵の動作を断ち切った。
「ぐっ……!」
うめき声。体勢を崩す気配。
(……詠唱さえ通れば、こちらが優位!)
着地と同時、レティシアは杖を胸元で縦に構え、次の詠唱に移る。
「〈光よ、我が敵を縛れ〉!」
杖から奔る無形の力が空気中に走り、黒衣の者たちを足元から絡め取った。小さく呻く声。完全に封じるには足りなかったが、時間は稼げる。
だが、次の瞬間——
――ズンッ!
馬小屋の横手、屋根の上から、圧倒的な魔力の“重さ”が降ってきた。
(……っ!?)
レティシアはそちらを見上げ、息を呑む。
仮面をつけた黒衣の男。武器も魔道具も見当たらない。ただ、ただそこに“在る”だけで、空間の緊張が跳ね上がっていた。
(この密度……まさか……)
人並みの魔道師なら、触れるだけで内臓を潰される。
上級魔道師ですら直視を避けるレベルの“圧”。
――明らかに、人頂級に迫る魔力量。
(でも……こんな人教団内で見たことない)
彼女の知る限り、王国にも教団にも、これほどの魔力量を持った存在は限られている。
(まさか、私一人にここまでの人を使うなんて......)
仮面の男は静かに片手を上げた。
それだけで、空気が震える。
「〈風よ、守りの壁となれ!〉」
レティシアは杖を大きく横に振り、魔力を流し込むが——
その前に、空気の流れそのものが“消えた”。
魔力が、働かない。
「……封魔……!? 詠唱前に、魔力の流路が断たれて……っ!」
地面が足を引き、空気は重く沈む。
思考が鈍り、身体が石のように動かなくなる。
「……私にここまで……するとはね……」
レティシアは苦しげに言葉を吐きながら、震える手で杖を支え、外套の奥を探った。
(今使えば、ただでは済まない。でも、これ以上は……)
手にしたのは、小さく、だが力を秘めた一枚の札。
教団上級導師にだけ許される、対国家級の最終手段——
攻性解放符。
(これを使えば、私も、相手も無事じゃ済まない……)
仮面の男は、それでも一言も発しなかった。
言葉の代わりに、もう一歩、距離を詰める。
「……やめて……」
レティシアの指先が札を掲げようとする。
その瞬間だった。
——重い“沈黙”が、彼女を押し潰した。
視界が滲み、膝が崩れる。立っていられない。
(……身体が、動かない)
指も、口も、魔力も、すべてが地面に吸い込まれるようだった。
握っていた杖も、無力に傾いていく。
「……名を……聞かせて……せめて……」
ようやくの思いで漏れ出た問いに、仮面の男は静かに答えた。
「名はない。……君が望んでいた者ではない、ただそれだけだ」
それを最後に、レティシアの意識は暗転した。
意識が沈む寸前、かすかに浮かんだのは、あの少女——ソフィアの顔。
あの、世界に無垢な好奇心を向ける瞳。
(……見極めなきゃ……こんな終わりじゃ……だめ)
彼女の身体は、仮面の男の腕に抱えられ、夜の闇の中へ運ばれていった。
王都の空は静まり、まだ夜明けの気配すらなかった。
翌朝に迫る“勇者出立式”の喧噪など、遠い別世界のことのようだった。
封魔とは
魔力を固定化、封印する技
魔力を一定の場所にとどめたり、自分から漏れ出る魔力を押さえてロスを減らしたりする。
要はう◯こ我慢するようなもの
その十倍ぐらい大変だけど
魔道具
神の言葉である魔方陣の文字を完コピして、魔力を流すだけで魔法を使えるもの
これなら信仰がなくても大体の物は使える。
でも作るのが難しく高価なものは教団が独占
解放符
魔道具の上位互換
利便性、デザイン性を一切排除し、極限まで魔方陣を描いたもの
威力、範囲全てにおいて規格外
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