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少女は祈らない  作者: 異原 世界
魔王(ぜろ)再臨編
11/26

第十話 「寝ようとしてたのに」

クリックしてくれてありがとうございます!

是非一話から読んでみてください!

レティシアは街外れの宿場町に足を運び、石畳の通りを一人歩いていた。通りには行き交う人々の姿が多く、旅商人や家族連れ、身なりの良い旅客の姿もちらほらと見える。


(……深夜なのに人が多いな)


宿の看板が掲げられた建物を見つけ、中へ入る。

「リオノの杯亭」。北門近くではそこそこの評判を持つ旅籠だ。


カウンターにいた中年の女性――番台の宿主に声をかけた。


「一泊したいのだけど。空き部屋、あるかしら?」


宿主は帳簿をぱらりとめくって目を走らせたが、すぐに困ったように顔をしかめた。


「申し訳ありません、お客様……本日はもう、満室でして」


「……満室?」

人通りの多さには気づいていたが、王都でここまで宿が埋まっているのは珍しい。


「何か、祭りか行事でもあったかしら?」


レティシアが尋ねると、宿主は「あっ」と声を漏らしてうなずいた。


「……ああ、そうでした。明日が“勇者出立式”なんです。ですから、観光客が今夜から王都入りしていて、どこの宿も満席でして……」


「――ああ。そうだったわね」


レティシアはようやく思い出す。


王都で十年に一度行われる“勇者出立式”。

これは王家が庇護する神殿のもとで、勇者候補に祝福を授け、旅立ちを公に認めるという式典である。候補者たちはその場で“模造の聖剣”を受け取り、国の威信を背負って魔族領へと旅立つ。


もちろん、レティシアが関わることはない。


「……なるほど。勇者出立式か。だから、普段より人が多いのね」


「はい。お一人様でも、今夜はもうお部屋が取れなくて……ほんとうに、すみません」


「いえ、大丈夫」


レティシアはそう言いながら一瞬だけ考えた。

今から別の宿を探して歩く時間もない。下手に夜道に出るくらいなら、どこか屋根のある場所で眠れる方が安全だった。


「馬小屋、まだ使われてる?」


「……えっ、ま、馬小屋ですか?」


「空いていれば、藁の上でもいいの。屋根があるなら、それで十分」


宿主は戸惑ったように手元の帳に目を落とし、何かを確認してから鍵を差し出した。


「……では、裏手の馬小屋をお使いください。少し掃除はしましたが……暖も灯りも不便です。よろしければ毛布だけでも、お貸ししますね」


「ありがとう。助かるわ」


レティシアは鍵と毛布を受け取り、ランプを手に外へ向かう。


扉の外には、王都の夕闇が静かに降りてきていた。

わずかな藁の匂いと、湿った土の気配。


レティシアは外套を畳んで簡易な寝床にし、魔導灯を吊るして周囲を軽く照らした。


「……懐かしい」


ふと、幼い頃の記憶が蘇る。


魔法の修行で王都を離れ、地方の神殿や洞窟で夜を過ごしていた日々。


寒さに震えながら、焚き火の前で震えていた自分。


(それでも……生きていた)


何かに追われていたわけではない。 ただ、信じるものの力を知りたくて、歩いていた。


けれど今は――


(私は“誰かを見極める”ために、ここにいる)


少女の名が、胸の奥に浮かぶ。


ソフィア=エインズワース。


神を信じず、祈りもせず、理を“理解”して世界を動かす者。


あの無垢な微笑みと、火を起こしたときの無音の奇跡。


(彼女は……“何者”なの?)


思考を手放せないまま、ランプの灯がわずかに揺れたそのときだった。


――コツン。


乾いた足音が、外の石畳を踏む音が聞こえた。


一歩、また一歩。


(……今、深夜よ。誰?)


レティシアはゆっくりと起き上がる。


息を潜め、背中の腰巻から魔導札を一枚取り出す。 指先で軽く撫でるようにして、口元で短く呟く。


「〈精霊の目よ、眠りを裂きて 我が視界を清めたまえ〉」


――シュゥ。


詠唱と同時に地面から光を放ち、光が水に石を落としたように、静かに広がる


それは、“索敵”の術。


詠唱は簡略化されていたが、教導院の導師が使う高精度の探知魔法だ。


光はすぐに周囲の構造をスキャンし、五十メートル圏の熱反応を浮かび上がらせる。


(……二人、いや、三人?)


そのうちの一人は建物の陰、もう一人は屋根の上。さらにもう一人は……背後から近づいている。


(包囲……!?)


脳が瞬時に警鐘を鳴らす。


これは偶然ではない。明らかに“狙われている”。


しかも、動きに無駄がない。鍛えられた“部隊”の足取りだ。


「……まさか」


すぐに、思考は一つの答えに辿りつく。


(教団の“影”……!)


まだ報告も出していないのに。いや、だからこそ――


(“報告しなかった理由”を、“直接聞きに”来たのね)


その意図に、背筋が凍るような冷気が走った。


同時に、冷気を打ち消していくように魔力が体を流れ出す。


「……出し抜かれた」


彼女は深く息を吸い、背中から杖をとる。

目を閉じて、微笑した。


「……ああもう。寝ようとしたのに」


その微笑の奥で、目はすでに戦場の光を見ていた――。




作者教えてのコーナー

魔道師には等級があります。

定番ですよね。

神人級>>>竜神級>人外級>>人頂級>上級>中級>下級

>>練習>見習い


こんな感じです。

見にくくてすみません。


読んでいただきありがとうございます!

続きが気になりましたらブクマなどいただけたら嬉しいです!

感想なども是非!

批判なども参考にいたします。

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