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少女は祈らない  作者: 異原 世界
魔王(ぜろ)再臨編
1/20

零話 

これから毎日一話ずつ投稿できたらいいなと思ってます。

昼休み、教室の窓際で日差しを避けながら、私はおにぎりを片手に頬を動かしていた。


「ねえねえ聞いた? 三組の沢村(さわむら)くん、また告白されて断ったらしいよ」


「えー! なんで? あの人めちゃかっこよくない?」


「それな。まぁ…うちのクラスの誰かさんはもっとモテるけどね〜?」


「ちょっと、結花(ゆいか)と比べちゃそうなるよ」


私の隣で、千夏(ちか)が笑いながら私の肩を突いてくる。


「ふふっ、はいはい。ありがとね。……ほら、のり弁、冷めちゃうよ?」


“普通の高校生”としての、完璧な笑顔で。


ーーそう。私は今日も普通を演じている。


(早く帰って、プラズマ反応炉の封止試験、確認しないと…)


おにぎりの塩気も、友達の笑い声も、ほんの薄膜のフィルター越しに聞こえる。


笑う。頷く。相槌を打つ。


どれも「高校生」としてのテンプレート。


私は完璧に演じることができる。


なぜなら――私はそれすら、研究対象にしてきたから。



---



夕暮れの光がガラス越しに差し込む。千夏と美咲(みさき)と三人、Ⅿサイズのポテトを囲む。


「ちょっと、今日のポテト、しなしなすぎじゃない?」


「それな〜、でもⅯサイズ頼んじゃうよね、クセで」


「結花は? ポテト食べる?」


「ん。ありがとう。……ケチャップ、つけていい?」


「どーぞどーぞ! てか、やっぱマッケはコーラだよね〜!」


「わかる〜!」


2人のテンションは、いつも通りで、スマホを見せ合いながら次のテストの愚痴で盛り上がっている。


(今日は第3炉の封印解除、内圧管理チェック……それが終われば、いよいよ初期臨界のテスト…)


(あと少し。あとほんの少しで、私の世界が、動き出す)


「ゆいかー? 聞いてる? 明日の体育、地獄コースらしいよ?」


「あ、うん、ごめん聞いてたよ。長距離でしょ? 靴、ちゃんと準備しとかなきゃ」


笑ってそう答える私に、千夏が首をかしげる。


「最近、なんかボーッとしてるね?」


「え? そうかな、ちょっと寝不足かも」


「もう〜、ゲームのしすぎ? それともアニメ? 」


「まあ~、うん、そんな感じかな、今日はついに生まれるんだ」


私の言葉に、二人が「???」となってるけど、軽く笑ってごまかした。


それでいい。


私はこの「普通の日常」が嫌いというわけではない。


でも、心のどこかでずっと思ってる。


(…早く帰りたい。回路(あのこ)が私を呼んでる)


家のリビングを素通りし、母の声にも返事をせず、私は階段を下る。


地下1階、通称“研究棟α。


鉄扉を3つ開け、手のひら認証と声紋認証をすり抜ける。


高校2年生、結花ゆいか、17歳。


その正体は――狂気的な探求者。


目の前には、暗がりの中、ゆっくりと脈動する一基の機械があった。


大小のコイル、重ねられた反磁装置、そして封印された「爪付き球体炉」。


私は白衣を羽織り、指先をそっと炉心に触れる。


「……ただいま。わが愛しの娘よ」


コツン、と額を軽く当てる。


「今日、君は生まれるの。世界がどんなに否定しようと、これは“私だけの科学”……」


笑みがこぼれる。


柔らかく、甘く、完全に“イってる”笑みだった。



---



端末が点灯し、シーケンスが走る。


【プラズマ封止場展開:完了】


【トリチウム充填率:92%】


【臨界開始まで、あと00:01:00】


「ねぇ、知ってる? 人間の脳って、放射線にほんの少しだけ晒すと“閃く”の。これって、とっても ロマンチックじゃない?」


モニターに映る自分の顔が笑っていた。


その瞳は、熱に酔い、光に飢え、正気と理性の境界を踏み越えていた。


【開始30秒前】


「行こうか。私たちだけのビッグバン。この宇宙で、私たちだけの“理論”を証明しに」


カウントダウンが始まる。


30、29、28……


私はひとり言を呟く。


「高校では“普通”やってるけど……ちょっとだけ退屈なんだよね。でも君といると、本当に……幸せ。これが生きてるってやつ?」


微笑む。


「……もう、いいよね。これが失敗でも、成功でも、きっと私は――」


3.2.1


【臨界開始】


──ドシュンッ……!!


瞬間、空気が押し返され、鼓膜が揺れた。


視界がチカチカと明滅し、天井の計器が真紅に染まる。


【警告:炉心崩壊反応】


【封止場、消失】


【磁場崩壊まで、残り10秒】


「……あは。あはははっ……、そうなるんだ、たのしみだな……!」


笑うしかなかった。予想はしていた。けど、こんなに綺麗に……暴れるなんて。


私は、目の前の核融合炉にそっと手をかざした。


「君は、ほんとうに……最高の子だったよ。私が愛した、“理論の結晶”」


次の瞬間、閃光が全てを飲み込んだ。


感覚が、音が、色が、溶けていく。


でも、私は最後まで微笑んだままだった。


(ああ……これでやっと……)


(本当の“世界”が、見られるかもしれない)




読んでいただきありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
凄く惹きつけられる導入。 とても読みやすいです
なんかかわあい もち もちもちもちもちもち
主人公のイカれ具合がやばいです(褒め言葉) 過去に両親と何があったのか、ここからなぜ魔王になるのか? 続きがめちゃ気になります! ☆もブクマも入れさせて頂きました! 楽しみに応援してます
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