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11話 獣は車と銃を使う

 

 オリビアに連れて来られた先は、無機質な白塗りの建物だった。

 なんでもこの場所は街の治安維持を行う衛士の詰所らしく、この場所から監獄結界と呼ばれる厳重な施設へ転送する事も可能らしい。



「監獄結界へ転送ってことは、ここのすぐ近くにあるわけじゃないんですか?」

「重大な犯罪者がいる場所を、おいそれと公開するわけにはいかないだろう? 私も何度か足を運んだことはあるが、転移陣で移動したから座標までは知らんしな」

「そうですか……」



 まさか行方不明の姉さんがいる場所って、その監獄結界とやらなのだろうか?

 可能性としてはあり得ない話じゃない気がする。



「さて、このまま取り調べに入ろうと思うが構わないな?」

「あぁ、はい。とは言っても、俺に話せることは少ないですけど…」

「犯罪者は皆、そう言うものです。その不遜な態度がいつまで続くか見ものですね」

「……………いたんですね」

「初めからいましたけど!?」



 確かに俺がこの取調室に連れて来られた時から、ユリアは偉そうに座っていたが、見て見ぬふりをしていたのが気に障ったらしい。

 だってこの妹猫、何かと突っかかってくるから苦手なんだよなぁ。



「まったく。これだから犯罪者は」

「取調もオリビア…さんが良いんですけど…」

「私が良いだなんて、少年……」

「お姉様は剣を振ることに特化しておられるのです! つべこべ言わずにそこに座りなさい!」

「私だって、剣を振る以外の事も出来るぞ……?」



 興奮のあまり尊敬する姉を傷つけているが、ユリアはこれで良いのだろうか?

 良いんだろうな。猫の尻尾が反りかえるほどにピンと立っているし。



「はぁ。で、取り調べって何の容疑ですか?」

「ヴィクトリア……彼女は今どこに?」

「知りません」

「隠そうと言うのなら、容赦しませんよ」



 そう凄まれても知らないものは知らないのだから、答えようがない。

 むしろ俺の方がレイ・メイさんの居場所を知りたいぐらいだ。

 ついでにこの猫獣人姉妹から救出して欲しいぐらいである。



「………では、先日貴方が私達と別れた後のことを教えてください」

「後のことを?」

「はい。貴方が何も認識していないとは言えども、途中まではヴィクトリアと行動を共にしていたのですよね? それを元に、ヴィクトリアの行動を推察します」

「………そうですか」



 ここ数日といえば、この都市の地下にあるという古代の墓地でルインズスケルトン相手に戦い続けていたぐらいしか話す事はない。

 軍の基地にある地下墓地に勝手に入ったことは犯罪かもしれないが、元々が不法入国者だし今更だろう。


 そう思い何処から話すべきか考えていたその時だった。



「待てユリア」

「お姉様? …………これは」

「………チッ。革新派の衛士隊の連中だな」

「ここは保守派の縄張りではなかったのですか!?」

「これも一昨日からの権力闘争の影響だろうな。少年、悪いが再度移動するぞ」



 獣人姉妹が二人揃って立ち上がり、同じ方向を見ている。

 その方向には無機質な壁があるのみだが、壁を見ているというよりは壁の先の音に集中しているようだ。

 確かにここ、取調室って言う割には壁が薄いもんな。



「移動ってどこにですか?」

「それは動きながら考える。ユリア」

「はい! 貴方はこれを被って!」


 ユリアが俺に黒い布を放ってボヤく。


「まったく、一体何があったらこんな……」

「………皇帝殺し」

「なに?」



 俺がポツリとこぼした言葉に、取調室の外へ出ようとしていた二人の動きが止まった。

 てっきり既に知っているものだと思ったのだが、どうやら姉さんによる凶行は隠蔽されているらしい。



「一昨日……正確にはその日の夜明け前に、皇帝は暗殺されました」

「何を言っているんですか? そんなはずは……」

「………話は後だ。少年、悪いが担ぐぞ」



 オリビアが俺の返事を待たずに俺を担ぎ上げ、そのまま扉を開けて走り始める。

 廊下の先からドタバタと騒がしい音が聞こえてくるあたり、どうやら思っていたよりも革新派だとかいう連中は近いみたいだ。



「舌は噛むなよ。少年には色々と聞くべきことがある」



 先程まで色恋がどうとか言っていた人と同じ人物とは思えないほどに底冷するような低い声だった。



 ◇◆◇



 地下迷宮で骨や石人形相手に戦い続けていたためか、一つ忘れていたことがあった。

 この世界は魔術や魔物の存在などファンタジーRPGもかくやという要素が詰まったいるが、文明レベルは近世近代並だ。

 つまり…



「後部座席へ」



 車だってある。



「お姉様。どこへ向かいますか?」

「検問がかかると面倒だ。まずは中央街を出て農業区へ。あそこなら車も捨てやすい」

「私の愛車………」



 車高の高いいかにも軍用車のようなゴツい四輪車の後部座席に乗り込むと、横にオリビアが身を寄せて来た。

 どうやらもう少し奥まで詰めないといけないらしい。



「窓にはあまり近づかない方が良いぞ。身を動かす幅が少ないと、いざという時に避け辛い」

「カーチェイスでもするんですか?」

「当然でしょう。まぁ、すぐに撒きますけど!」



 おそらくマニュアルなのだろう車が跳ねるように飛び出し、フェンスを破って大通りへ出る。

 俺たちがたった今出て来た飾り気のないビルから遅れて何台かの軍用車が出て来たところを見るに、あれが今回の相手なのだろう。



「少年。魔術は使えるか?」

「使えませんけど……まさか後ろの車を攻撃するんですか?」

「いいや。そんな事をすれば、序列4位という優位性を捨てることになる。こちらからは手を出すつもりはないよ」

「序列とは?」

「そこからか……序列とは、この国への貢献度によって決まる階級のようなものだ。序列が高ければ高いほどに、様々な権益を得ることが出来る」



 そういえば姉さんがこの国には貢献度ランキングみたいなものがあるとか言っていた覚えがある。



「序列4位でも追われる事はあるんですね」

「あいつら革新派の上層部には序列2位と6位と……後は……」

「4位と13位です。他にも複数いますが、目ぼしいところはその辺りでしょう」

「そういうわけだ。つまり相手が悪い」

「オリビア……さんには仲間はいないんですか?」

「呼び辛いならオリビアで構わないぞ」

「いいえ! 『剣聖』であるお姉様を呼び捨てにするなど万死に値します! 畏敬の念を込めて、オリビア様と呼びなさい!」

「……オリビアさん。他に仲間は?」

「だからオリビア様と!」

「ユリア、うるさい」

「なっ!? お姉様! この無礼者は今すぐに放り捨てましょう!」

「うるさいぞ、ユリア」

「お姉様~~」



 だとか何だとやっているが、ユリアのハンドル捌きはかなりのもので、一方通行らしき対向車線をバカみたいなスピードで進んでいるのだから恐れ入る。

 獣人は反射神経に優れているということなのだろうか?



「さて、何の話だったか」

「オリビアさんに仲間はいないんですか?」

「お姉様は孤高の剣士なのです! お姉様には私がいれば十分です!」

「つまり、仲間はいないと?」

「まぁ、そうだな……」

「人望とか、ないんですか?」

「……………うん」

「…………………」



 そ、そっか。

 思わず口調が変わるほどに気にしていたのか。

 なんかごめんなさい。



「愚民! お姉様は裁官(ユーデックス)の討伐の功績のみで序列4位までに駆け上がった偉大なる剣士ですよ!? 馬鹿にすると言うのなら……!」

「ユリア! 前を見ろ!」



 一方通行を抜けた路地の先で、銃のような筒を向けた連中が陣形を組んで待ち構えていた。

 まさしく一斉放火というタイミングで、オリビアさんが素手で窓を突き破ってかなりのスピードが出ているままに、近くの街頭を強く握る。

 バギリと嫌な音が街頭と車内から聞こえると同時に、一瞬だけ横向きに殴られるような強い慣性が働いた。



「な、何が……」

「すみませんお姉様。お怪我は?」

「このぐらい何でもないが、まさか撃ってくるとはな」



 オリビアが自分の手首をゴキリと鳴らしながら事もなさそうにそう言うが、まさか走行中の車を素手で街頭を掴んで進行方向を捻じ曲げたのか?

 さ、流石は最強の剣士だ。



「少年。怪我はないか?」

「あ、はい。大丈夫です」



 多少首を痛めてはいるが、直に収まるだろう。

 頭を振っている間に再度路地に入ったのか、2度目の斉射はない。



「そうか。ここからは銃撃戦になる。姿勢を低くしておいてくれ」

「銃撃……この世界にも銃があるんですか?」

「そりゃあ、あるさ」

「オリビアさんも銃を?」

「私が剣を使うのは理力量が多くないからだ。あんな風にバカスカ撃っていれば、すぐに理力が尽きる」



 そう言いながらもオリビアさんは座席下からケースを引っ張り出し、80cmほどの銃を取り出した。

 ただ、俺が知っている銃には本来ついているようなマガジンが見当たらない。



「それは?」

「エイワズスミス社製全魔術式小銃Zk-4Mです」

「銃弾はマガジンで用意した方が理力の消費量は少ないんだが、日頃銃を持たない私にはどうにも馴染まなくてね」

「はぁ………」

「有効射程は短いが取りまわしやすい分……よく当たる」



 ギンッと本来銃では鳴らない様な音が響いた後、軍用車のサンルーフから顔を出していたオリビアさんがボスリと座席に座った。

 後部窓から恐る恐る後ろを覗くと、タイヤに穴を開けられたらしき追手が横に滑り、味方を巻き込んでスリップしている。



「お見事ですお姉様」

「このぐらい、わけはないさ」



 魔術や魔物が当たり前のように異世界だと言うのに、銃が上手い剣士のやたらクールなシーンを見せつけられる俺であった。

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