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TWO ONLY TWO 唯二無二・唯一無二という固定観念が存在しない異世界で  作者: VIKASH
【階級試験篇】:レジーナ・ジェリダ

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99話 寛大陸の萌芽




 ――その瞬間、場の空気が変わった。


 アレキサンダーは、ゆっくりと、しかし確信をもって両手を打ち鳴らした。

 拍手の音が、石壁にこだましていく。

 まるで長い物語の一幕が、ここで区切られたことを告げる合図のようだった。


 四王国において握手は、単なる挨拶ではない。

 それは相手の実力を認め、同等の者として迎える、無言の宣言である。


 丸太のように太く、血管が浮き出た逞しい腕。

 その掌は岩のように硬く、戦場を知る者だけが持つ重みを帯びていた。

 アレキサンダーは、その手を差し伸べ、小柄なユニムの手を包み込むように握った。


 このとき、ユニムの体からは、さきほどまで(ほとばし)っていた赤黒い輝きが消えていた。

 肌は平常の白さを取り戻し、熱もない。

 あまりに唐突な出来事に、彼女はきょろきょろと視線をさまよわせる。


 「……合格だ」


 低く、しかしはっきりと響いたその言葉に、ユニムは耳を疑った。

 意味を取り違える者など、この場にはいない。

 それは即ち、階級試験合格であった。



 (かん)(たい)(りく)……ジュン

 “寛大”であれ、“大陸”のように構えていろ



 それ即ち、寛大陸の古い伝承である。


 ただし、そこに至る道は一つではない。


 ある者は孤島で一か月を耐え、ある者は魔法の試練に挑む。

 求められるのは、辛抱強さと、寛大な判断。

 そして、己の力で逆境を打ち破る胆力だ。


 ユニムの場合、彼女は強力な氷魔術を受けきり、反撃もせず、ただ耐えた。

 動じぬ大陸のごとく構え続けた。

 その姿を、アレキサンダーは見逃さなかった。


 もし海内女王が判定していなければ、彼女はまだ「変加護」のままだったかもしれない。


 成功とは曖昧だ。

 一本道ではなく、蜘蛛の巣のように絡み合い、中心から幾筋もの道が伸びる。

 今のユニムは、その網の真ん中に立っている。

 それは現在であり、未来から見れば過去、始まりから見れば霧の中の未来だ。


 アレキサンダーは最後にこう言った。



 「演武大会まで残り二週間だが、君なら大丈夫だ」



 ユニムは「Ⅵ《ジュン》」の勲章を鞄にしまい、乱雑に置かれたナディアの部屋の片隅へと戻った。

 その無造作さは、彼女の勝ち気な性格の表れだろう。


 氷像から現れた赤黒い少女。

 その光景は、あの“冷徹のエレナ”を腰砕けにさせるほどの衝撃だった。

 未知の顔を見せるたび、周囲の者は彼女の底知れなさを思い知らされる。


 二週間が過ぎ、十三回目の朝。

 サンタンジェロの客間で目を覚ましたユニムは、伸びをし、冷たい水で顔を打ち、歯を磨く。

 料理長ニコの朝食を済ませると、午後の演武大会に備えて本を開いた。



 魔術教本   アルキメデス

 魔術超基礎編 マジック

 中級魔術   ニコラス

 上級魔術   ヴィクトリア

 魔法三典   アキレス

 ()(れん)双焔(そうえん)の書 マダム・ウィッチ

 氷華(ひょうが)裂閃(れっせん)の書 セレスト

 ()(ぜん)聖命(せいめい)の書 ヴェルデ

 雷迅封陣(らいじんふうじん)の書 ゲルブ



 折り目の付いたページは、何度も読み返された跡を語っていた。

 イギリアの街で購入し、空劫障壁もそこから学んだ。


 軽い昼食を済ませ、水を一杯飲む。

 フォーチュリトスの「♣《クラブ》」の紋章を胸に、ユニムはナディアとともに会場へ向かった。

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