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TWO ONLY TWO 唯二無二・唯一無二という固定観念が存在しない異世界で  作者: VIKASH
【階級試験篇】:レジーナ・ジェリダ

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96話 セロ弾きのソレ=ドレ




 ここはスーペリア王国。

 どこからともなく、弦楽器の音が聞こえてくる。

 実に美しい音色である。


 弦をきちんと調律してあり、その人物の機敏さ、繊細さを表現する能力。


 そして、その人物の才能までもが伺える。

 これはいつぞやも聞いたセロの音だ。


 スーペリアの街は、芸術作品のように、家一つ一つが、アートのようであり、その音は、家を撫でるようにして、低音で、軽快なメロディーを刻んでいる。

 熟練者が弾いていると思わされるような、一寸の狂いもないセロの音が聞こえる。


 安定感のある、ずっしりとした低い音が、五臓六腑に染み渡る。


 これには、あの“ロッケンのアーサー”も拍手喝采だろう。


 読者の中には、疑問を持った方もいるだろう。


 セロとは何か?


――セレスティアル――特有の野菜だろうか?


 ……残念ながら、野菜ではないのだ。


 セロとは、我々の世界で言うところの楽器だ。チェロのことである。


 全体を茶色が覆っており、所々に黒の色を施した楽器であり、四つの弦がある。


 もはや、知らない人はいないであろう。


 ケンジ・ミヤザワの『セロ弾きのゴーシュ』という作品は、あまりにも有名だが……残念ながら、このセロ弾きは「ゴーシュ」ではなく「ソレ」という剣士だった。


 彼の剣の腕前、セロの腕前も一流である。


 剣はひとつだが、剣士と音楽家の二刀流である。


 彼がセロを始めた理由は

『純粋にモテたいから』

 という不純な理由である。


 何を隠そう。

 彼、ソレは恋愛至上主義である。

 恋をしていたい。

 女性と話したい。

 女性と瞬間を楽しみたい。

 少しでも多くの時間を女性と過ごしたい。 

 という思いが、彼の心の奥底にはあった。


 そんな彼が、呑気に曲を弾いている。


 レミファの音がしたかと思えば、一オクターブ下がり、ファラソと続く……なんの曲だろうか。


 音楽に関しても、我々の世界の偉大なる先人達が、楽器や曲、音楽理論に関する本を持ち込んでおり、ダダイ=ⅡKから、ソレは大きな影響を受けているのも事実。


 ダダイが最初に使った楽器も、セロ即ちチェロであり、天才ダダイは、五歳で弾き始めたという。

 彼は何者なのか。謎多き人物である。


 ところで、異世界人ネカァは、女子高生時代軽音部だということが判明しており、どのようにして、あちら側へ行ったのかは、わからないが、彼女の妹であるヒイロちゃんが、――お姉ちゃんが神隠しに遭った――などと、発言していることからも、異世界転移して、――セレスティアル――にきた説が有力である。


『レミファファラソ〜』


 本当に美しい音色だった。


 正しく、正確に、一音一音弾いていく彼の姿が、そこにはあった。


 白を基調とした、黒が至る所に混じったドレ家の居住地。


 窓の枠や、扉は、茶色を施してあり、黒と白と茶色のコントラストが絶妙なバランスで織りなされている。


 その旋律を聞いていた。長男のコレは、からかうようにして、笑みを浮かべながら、セロ弾きのソレに質問を投げかける。


「ソレ〜ソレなんて曲なんだ?」


 バツが悪そうに、ソレは曲を弾くのを一旦止めると、わかりやすいジェスチャーで、困っていることを体全体で表現していた。


「兄さん、それやめて」


 この家には、当主であるシド=ドレとその夫人(ふじん)である、ミファラ=ドレが住んでいる。

 子供であるドレ三兄弟も住んでいる。

 彼らは、まだ若い。


 ドレ三銃士を筆頭に、(つど)った少数精鋭騎士団〈シー・サス・ツー〉は《ひとりは、みんなのために。みんなは、ひとりのために》を掲げている。


 兄貴のコレは天王子(てんのうじ)


 当人ソレも天王子であるため、家からアルキメデス魔法学校に通っている。


 ここは、スーペリアだが、アルキメデス魔法学校は、隣国である帝国の心〈インペリアルハーツ〉に位置しているため、歩いていけない距離ではないが、日が暮れてしまうだろう。


 そのため、彼らのような金持ちになってくると、電気――すなわちダイヤ――がこれでもかというぐらいに余るため。


 移動手段として使えるのだ。


 その方法が、電気弾丸自動車、電気単車である。


 最たる方法は、電気石を取り付け、出力を通貨からエネルギーに変換するというものだ。


 兄貴である長男のコレは、電気弾丸自動車が愛車であり、普段から、手入れを欠かさない。

 

 電気弾丸自動車といっても、見た目は、所謂(いわゆる)車のそれである。


 コレは頼りがいがあるが、喧嘩っ早いので、夜の街に繰り出すと、柄の悪い連中を懲らしめている。


 兄弟の誰もが、力ではかなわないので、三色団子三兄弟の中で、ソレとアレは、コレの機嫌を伺うことが重要だ。と、常日頃から考えている。


 ところが、ソレは、良くも悪くもテキトウである。


 コレから、自慢気に「リアリズムとは――」から始まる。

 自身の提唱する『コレクト哲学』の長い話を聞かされてしまうので、ソレはいつも空返事をして、叱られている。


「だから、モテないんだ」とコレが言い、嫌そうに「それな」と、ソレが言うことになっているのが、いつものやり取りである。


 今日もいつもの一日が始まろうとしていたが……ドレ家に一通の手紙が届いた。


 メープルシロップより届いたのは、海内女王演武大会の便りだった。

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