93話 二丁拳銃〝ツイン・リボルバー〟のアルクマイオン
焚火を囲うようにして、男が二人、その瞬間を待ちわびていた。
火がボウボウと燃え上がっている。
火の下の木炭の隙間から、棒が差し込まれ、緑色の魚が串刺しにされているのが見えた。
男たちはその魚を塩焼きにして待っているようだ。
ここはどこかの小屋であり、のどかな風景、閑散とした街から外れた。郊外である。
少し歩いていけば、森が広がっており、樹木からはなにか光り輝くものが伺えた。
木そのものが、光っているのか。
それとも、木に何か光り物がつけられているのかどうか、定かではなかったが、男たちは駄弁っていた。
おそらく、世間話であろう。
彼らの話から、アーサーという名前や、白胡椒や、アレキサンダーという名前が出ていることから、彼らは天地国王に由来する話をしているのだろうと推測できた。
皆さんはお気づきだろうか?
天地国王の彼らには、異名が存在することを……
例えば、フォーチュリトス王国の天地国王であるアレキサンダー。
筋骨隆々で、無骨な大男でもあり、元セオドニア・Ⓑの長である彼。
彼には、八重鎖鎌という異名がある。
次に、白い河童で有名なのか?
彼、白胡椒。
彼には、三叉槍という、これまた立派な異名がある。
彼は、槍を好んで扱う戦闘スタイルが特徴的だ。
実は、彼が❝神聖な国『梵』❞にいた時。
あの、三勇奇譚で有名な、三明賢者のゴジョウに教わったとされている。
三明賢者のゴジョウから、権物である、『月牙』を譲り受けようと試みた。
だが、在処がわからず、師匠であるゴジョウは、場所を教えなかった。
白胡椒は、まだ認められていないと、思い、トライデンスについていくことを決意する。
月牙の由来である、三日月。その三日月を模した、また、同じ三がつく、三叉槍を使っているのではないかと考えられる。
三明賢者、月牙(三日月)、三叉槍、いずれにも三がつく。
これらは、偶然ではないことを仄めかしているのかもしれない。
アダマスは、上から数えれば三番目の国でもある。
白胡椒がアダマスに点在し、トライデンスから実力を認められ、天地国王となったこと。
彼も、もちろん階級試験をこなしているが、魔法や槍術において、どれにも並外れた力量を誇っている。
アルキメデス魔法学校に在学していた際に❝神聖なる国『梵』❞で鍛えられた、彼の魔法を扱う力はずば抜けていたと聞く。
ところで、まだ紹介されたいない天地国王がいる。
彼こそは、魔術の国であり、僧侶の国である……
帝国の心〈インペリアルハーツ〉に、居住しているガンスリンガー。
二丁拳銃のアルクマイオンである。
一見すると、天地国王に共通点が見受けられない。
四王国なのだから、共通点があってもおかしくないはずだ。
四王国とは、四人の王が住まう四つの国の集合体である。
一旦整理すると……
八重鎖鎌のアレキサンダー
三叉槍の白胡椒
二丁拳銃のアルクマイオン
ロッケンのアーサー
となっている。
彼らには、数字が入っていること。
そして、その数字が丸みを帯びていること。
八(8) 八重鎖鎌
三(3) 三叉槍
ニ(2) 二丁拳銃
六(6) ロッケン
数字というものは、丸が含まれている。
特に、この四つの数字は、球体を暗示している可能性が高い。
それが、天体なのか。
星なのか。
太陽なのか。
円なのか。
三次元的な物なのか。
二次元的なものなのかは、謎に包まれている。
さてさて、ここでは、アルクマイオンに注力していきたい。
アルクマイオンとマカ=オルテガは、魚の焼き加減を見ていた。
上手い具合に、リョク魚(緑色の魚)の、上半分の緑色が、下から段々と焦げていて、茶色くなっている。
マカは、口元を拭う、アルクマイオンは、マカを横目にアーサーとは、どうだったのか? と訊いてみたり、四王国を離れてから、何しているんだ? と、尋ねていた。
マカの返事はどこか不愛想であり、彼の野暮ったい印象は、凛然とした眼差しからは、彼の凄みが伝わってくる。
アルクマイオンは、乱雑に、焚火に刺さっているリョク魚の串焼きを手に取り、「おお、熱いな」「うまそうだ」と口にしては、かぶりついた。
リョク魚のパリッとした表面から、中身の白い身が、かじりつくと、覗いており、食欲を掻き立てた。
「魚か。久しくだ」
マカも、一本手に取ると、勢いよくかぶりつく。
アルクマイオンが「クラーケンのほうがよかったか」と、冗談半分に笑いながら、茶を飲んでいる。
マカが、「珈琲は飲まないか」と訊くと「俺は茶が好きだな」とアルクマイオンは、一言こぼす。
ムシャムシャ、ずずーと小屋からは、静かで厳かな、自然を体全体で感じられる、庶民的で、野性的な、ちょっぴり贅沢な一夜を過ごす彼らがいた。
一人十本は食べたのか、串入れが満杯になっている。
「腹ごしらえは充分だな」
「丸腰じゃねえか。仕方ねえ。一丁貸してやろうか」
「二丁拳銃のアルクマイオンだろう」
「それもそうだな」
「下調べをしていてよかった。今夜は紅月だな」
「なあ、魔法教団クリムゾン・ベルベットの、深紅はあの月から取っているのか?」
「そのようだ。まさか、意見が一致しないとはな……」
「マカ、俺はこの目で見ているぞ。丸腰で何ができるか、見ものだな」
「これでも、武人闘王のマカ=オルテガだ。その目に焼き付けておけアルクマイオン」
巨大な赤狼が、オルテガに向かって近づいてくる。
黒が多く、傷のように見えなくもなかった。
赤狼が高い跳躍力で、月を背に、襲い掛かる。
「来い。三発だ」
唸り声をあげて、血走ったその眼で、赤狼は、オルテガに何度も喰らいつく……
だが、様子がおかしかった。
オルテガに、爪の一つも触れられやしないのだ。
「ゆくぞ。序の拳『序牙衝』」
高速のジャブが繰り出され、地面を削るような風圧のフックが、彼の動きから読み取れた。
赤狼に、フックがクリーンヒットし、森へと投げ飛ばされるように飛んでいった。
「やるじゃないか?」
「クリムゾン・ベルベットに参加したらどうだ?」
「狼は孤独な生き物だ。生憎、俺も孤独が好きでな」
「ベルとは気が合いそうだが……先客がいてな」
「誰のことだ?」
「俺は、陛下と呼んでいる」
「ふふ、いつか。手合わせ願いたいものだ。
「このスミス&ウェッソン “サイドワインダー” Mk.IIでなあ」
「しまっておけ。見せびらかすものではないだろう」
「そうだな」
オルテガは、アルクマイオンから用意されていた品を受け取り、握手をした。
彼は、フォーチュリトス王国を目指した。




