90話 にゃにか御用ですかにゃ?
〜【同時刻】王城サンタンジェロ〜
一匹の猫が、郵便箱の中身を探っていた。
灰色の体毛が、全身を包んでいる。
「おやおや、新聞ですにゃ」
この猫……喋れるようだ。
語尾が変わっているが、ネコ科であることは間違いなさそうだ。
実は、この人物は、まごうことなき実力者。
宰相に違いないだろう。
牙王ライオネルとは、行動を共にしていないようだ。
「おお、猫が喋ったぞ」
アレキサンダーは、宰相を初めて見るようで、数歩仰け反ると、腰を屈めてから、宰相に近づいていき、じっくりと時間をかけて、不思議な猫の動向を観察していた。
「まあ、なんてかわいらしいの……」
反対に、走ってきたアルジーヌは、宰相を撫でては、頬を赤らめて、照れくささを露わにした。
サンタンジェロでは、動物を飼っていないが、宰相の吸い込まれるような瞳には、誰もがかわいいと思うだろう。
「にゃはははは」
「くすぐったいですにゃ」
「私は、『無境国』の宰相、ニャルクスにゃにゃ世ですにゃ」
「にゃはははは」
この猫、いくらなんでも笑いすぎであろう。
自分を見て、驚く人間の様子がたまらなく愛おしいのだろう。
かの、初代世界皇帝も、笑うことを説いた。
宰相は、その我王の傍にいつもいた。
彼が「はっはっはっ」と笑う。
宰相は「にゃはははは」と続けて笑うのだ。
もし、三人を喜怒哀楽で表すのなら……
「喜」……?
「怒」……牙王ライオネル
「哀」……芥川獅志丸
「楽」……我王
と、なるだろう。
すると、次の世界皇帝は宰相こと、ニャルクス七世なのか? と、考えてしまうものだ。
無論、当人は、そんなことは、夢にもおもっていないだろうが。
「では、四王国の方々、おにゃまえをお伺いしてもよろしいですかにゃ? それと、今朝の新聞ですにゃ」
「おお、助かるな。ありがたいニャルクス君」
「宰相で結構ですにゃ」
「フォーチュリトスの天地国王、アレキサンダーだ」
「同じく、フォーチュリトスの海内女王、アルジーヌよ」
「王子様は、いらっしゃらにゃいんですかにゃ?」
「うむ、魔術を学ぶため、インペリアルハーツへと旅立った」
アレキサンダーの声が暗い。
どこか納得いかない部分でもあったのだろうか。
「そうでしたか。それはさぞ、お苦しい心境ですにゃ」
「人間に別れはつきものですにゃ」
「そうだな。ところで、君は魔人なのかな?」
「私達は、獣人ですにゃ」
「魔人とは、どう違うんだ?」
「魔人……存在するのですかにゃ?」
「信じ難いことですにゃ」
「なぜかな?」
「この四王国は、勇者の誕生した国として、有名ですにゃ」
「そうだな。後を追うようにして、四権英雄が、勇者の支えとなり、魔王を封印した……」
「赤人狼という魔人をご存知ですかにゃ?」
〜そしてまた【同時刻】ライオネルとセレスト〜
セレストは、問いかけた。
「ライオネルだったの。なぜ、執拗にファングを追うんじゃ」
牙王ライオネルは、セレストに視線を一切向けず、言葉だけを吐き捨てる。
「れっきとした理由あらむ。ファングは、我が弟なるがゆゑに」
「なんじゃと……」
セレストは、ファングが、外海から来たことは知っていた。
だが、彼が魔人になった経緯については、知らなかった。
なぜならば、訊いても彼が答えないからだ。
最初に出会ったときでさえ、「俺はファングだ」 としか、言わなかった。
口数の少なさで言えば、ファングとライオネルは似ている。
〜そしてまた【同時刻】サンタンジェロ〜
「赤人狼のファングさんは、牙王様の弟ですにゃ」
「なるほど。先程の話から、牙王という人物が如何様にして、王になったか、とある役割を兼ねていることもわかったのだが、宰相君、君はなぜここに?」
「簡単な話ですにゃ」
「ここに――の一族がやってきますにゃ」
アレキサンダーは、顎に生えた髭を撫でるように、親指と人差し指で、髭を掴むような仕草をしてみせては、聞き取れなかった一族の部分が何か考えていた。
アルジーヌも同様に聞き取れず、方頬を膨らましては、黒い口紅から、舌を出しては、右から上、左へと、器用に動かし、誰か聞けばいいのではないか。とわかったので、ためらわずに、宰相へと、問いかける。
「えっと、その一族って誰なの?」
「私達も名前までは知らないですにゃ」
「ですが……」
「え、なによ?」
「その一族には、決まって特徴があるそうですにゃ」
「どんな特徴なのかしら?」
「牙王様にもお聞きしまたにゃ。しかしですにゃ、会ったことがないとしらばっくれていましたにゃ」
「隠したいのね」
「とりあえず、待ちましょう」
「宰相君」
「にゃにか御用ですかにゃ?」
「いや、その違う。どうやって、その一族がここに来るとわかったんだ?」
「牙王様に訊くといいですにゃ。宰相もわからにゃいですにゃ」
「そうだったか」
サンタンジェロの扉がゆっくりと開く音がする。
「来たか」
「どんな人なのかしらね」
「お待ちしておりましたにゃ」
そこには、先程サンタンジェロの上空にあった舟を見ていた彼らの姿があった。




