85話 ベルとヴェルデ
この話では、話の構成上、語り手の話し方が変わります。
ご留意ください。
『ベルベット』著者:不明
林帝のヴェルデは、その狼達がかわいそうだと思いました。
出生の秘密がわかないまま、女王からも、国王からも嫌われては、焔狼という魔獣の烙印を押され、母狼もどこにいるかわからず、オブシディアンマウンテンを転々としていました。
ヴェルデは、山の地質の調査に来ていました。
グリードグリーンと、名前を変えてからというもの、人々は顔までは覚えていないのか、物を投げつけてきたり、罵声を浴びさせられたりすることはありませんでした。
権物に当てはまるかどうかわからない、昆獣林檎を、当時の勇者だったゼロに渡すと、大変喜ばれました。
ここでは、グリードグリーンとします。
グリードグリーンは「獣になれる林檎は作らなかったのか?」と訊かれます。
しかし、それは、彼が魔人を作りたいと言っているようにしか、聞こえませんでした。
グリードグリーンは、黙っていました。
すると、ゼロの力で脅されました。
ゼロは、勇者達の中でも、素行が酷く、悪名高い勇者として、恐れられていました。
彼は、グリードグリーンの弱みを知っていました。
グリードグリーンは、当時からエリーゼを愛していました。
遅咲きの森に火を付けると言い放ち、グリードグリーンを脅します。
グリードグリーンは、黙っていられませんでした。
大急ぎで、獣林檎を作ります。
ですが、焦った先のことの顛末は、皆さんもよくご存知ですよね。
ゼロは、獣林檎を受けるとると、奴隷に食べさせます。
ゼロは、魔人である赤人狼を作ってしまいました。
もっと強力な林檎が欲しいとゼロは言います。
ヴェルデは、試作品ではありましたが、焔を纏う狼になれるリンゴを作りました。
ですが、焔を纏う獣林檎は未完成でした。
食べたら、一生人間には戻れないのです。
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時間は少し遡ります。
六人兄弟の末っ子のベルが、家族に売り払われ、奴隷になってしまいました。
奴隷になったベルは、運悪く、ゼロに買われてしまいます。
ベルは、ガリガリで、お腹が空いていました。
ゼロはベルに、リンゴをひとつ与えました。
そのリンゴは、紅色でとてもおいしそうでした。
ベルは、かぶりつきました。
果実の甘味が口いっぱいに広がりました。
息を吸う暇もなくなるくらいに、何度も何度もかぶりつきました。
その時でした。
感覚が研ぎ澄まされていくのを感じました。
体の節々が痛く、吐き気を催しました。
便所へ駆け込んでは、食べたものを吐き出そうとしましたが、何もでてきませんでした。
口には、胃液の酸味だけが広がり、気分が悪くなりました。
ゼロは、その様子を見ていました。
ベルは、いつも不思議に思いました。
朝昼晩、毎食リンゴが出てくるからです。
ベルは、リンゴが嫌いではありませんでした。
忘れもしないお母さんが作ってくれたアップルパイ。
焦げていましたが、何も言わずに飲み込んで、残さずたいらげました。
ひとときの思い出。
ベルにとって、お母さんは、優しい人でした。
兄弟達が、ご飯を食べているとき、ベルにだけ、リンゴをひとつ、くれるのでした。
ベルは、自分がリンゴを好きなことを、お母さんは知っているのだと思い、嬉しそうに笑っては、いつもリンゴを頬張るのでした。
そんなある時、なかなか寝付けず、お手洗いに行くと、母と父が、ベルの話をしているのを聞きました。
内容は、明日の朝になったら、ドレイジョウに連れていくというものでした。
ドレイジョウ……ベルは、そのジョウは、お城のことだと思いました。
ベルは、物置小屋に戻ると、薄く、くたびれた布を自分にかけては、どんな場所なんだろうと、空想にふけっていました。
きっと、可愛らしいお姫様や、優しい妖精、格式高い王様がいるのかなぁ。と、思い、ワクワクして寝られませんでした。
深夜三時頃になると、ようやく眠りにつきました。
朝五時になると、たたき起こされ、辻馬車の荷台に放り投げられました。
いつものことなので、ベルは慣れていました。
少し、体が痛いだけです。
ベルは、ワクワクが止まりません。
荷台から、外の景色は見えませんでしたが、しばらくすると、太陽の光が入らない所に入ったのか、暗くなりました。
ベルは、腕と足を縛られました。
ベルは、ようやく気がつきました。
ここは、お城ではないことに。
ですが、ドレイジョウが何かわかりません。
その時から、ベルは、お城が嫌いになりました。
お城とは、酷いことをされるところなのだと認識してしまったのです。
話は、戻り、ゼロとベルは、オブシディアンマウンテンに行きました。
ゼロは、ベルに「すぐ戻ってくるから、ここで待っていろ」と言います。
ベルは、返事をしました。
一日後、ゼロは、戻ってきませんでした。
途方もない時間の中で、ベルは、数字を数えたり、石を投げては、時間を潰しました。
三日が経過しました。
ベルは、決意しました。
待ってもやってこない、ゼロを待つ必要はないと、ようやく気づいたのです。
ベルは、四本脚で大地を駆け抜けました。
清々しい気分でした。
走るって楽しい。
心から、そう思いました。
しばらく走り続けていると、湖がありました。
大きな湖です。
ベルは、喉が渇いたので、その湖の水を飲みました。




