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TWO ONLY TWO 唯二無二・唯一無二という固定観念が存在しない異世界で  作者: VIKASH
【階級試験篇】:カシェ・ケルクショーズ・ラ・ウ・トゥ・ル・モンド・ルギャルド

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84話 蜂の巣をつついたよう




 ユニムは、叫び声を上げた。


 耳がつんざくような叫び声だ。


 悲鳴に近く、思わず耳を塞ぎたくなるほどの声。


 ユニムの真正面に立っていた、黒いローブの女性が、もがき苦しんでいる。


 上体を仰け反らせては「う、うう」と聞こえてくる。


 ユニムが「大丈夫か」と声をかける。


 何度か頷くと、黒いローブの女性は、ゼルドの顔を見て、ほくそ笑んだ。


 口元だけが、うっすらと見えていた。


 不気味な、黒い口紅……どこか、アルジーヌを思い起こさせる。と、ユニムは思った。


「成功よ」と言いながら、高笑いをし、わざとらしく拍手をしている。


 ユニムは、どうもその行動に納得がいかないので「誰なのだ」と声を浴びせる。


 ローブがバサッと落ちる。


 諸手で、頭部全体を覆っていたローブを女性が勢いよく、後ろへ(めく)った。


 現れたのは、大きな黒い羽、眩しいほどの紅い複眼。


 そして、身長三メートルはありそうな、大きな黒と黄色の巨体だった。


 どうやったのかはわからないが、一瞬にして、体の大きさを変え、ユニムを上から見下ろしている。


「あっはっはっは」

「おかしいねえ」

「本当におかしいよお」

「誰だと思ったんだい? ねえ?」

「いいかい、お嬢ちゃん。私は、メフィストフェレスだよ」

「近くで見ると、ほんとうにかわいいねえ」

「お嬢ちゃん……」


「なんだ」


「私と契約しないかい?」


「これが神の悪戯か。いや、天使の罠なのだ」


「悪魔ですよ、ユニム様」


 ゼルドの目が細くなっている。

 と言っても、複眼なので、わかりづらい。


「きゃあ、蜂がしゃべっているのだ」


「目の前の悪魔も、どう見ても蜂なんですが……あの、ぼくです。ゼルドです」


「ゼルド、スイッチを切り替えろ」


「スイッチって、ユニムの様の発言で、ぼくが蜂になっていることは理解できたんですけど……」

「どうやって切り替えるんですか?」


「要領は、魔人と同じだ」


「なるほど。えっと、はい……こうですか?」


 ゼルドの体が黄色と黒色から、肌色に戻っていく。

 複眼は、人間の目に戻り、鋭い牙と、頑丈な顎、触角は、みるみる縮小していき、元の姿に戻った。


「これって……」

「あの、説明おねがいしますよ」

「僕の体を弄ばないでくださいよ」


「これは、遊びではありません」

「あなたがたは、昆獣の能力を獲得したんです」

「いいでしょう。説明します」

「先程の、アップルパイに含まれていたリンゴは、昆獣林檎(ヴァーミックアップル)です。食べると、昆獣:蜂型になれます」

「……のはずだったんですが」

「メフィスト様、どういうことですか?」


「さあねえ、セレスティアル十二使徒なんじゃないの?」


「そんなわけねえ、分解速度が早すぎるだけだろ」

「吸収が間に合っていないようにも見えた」

「だが、絶え間なく、リンゴを与えても、変化しなかった」


――なんなんだ


 その時、ゼルドは思い出した。


 天王子(てんのうじ)ヒマリの話を、白胡椒(ホワイトペッパー)赤人狼(ブラッドワーウルフ)のファングとしていた際に、ファングが言いかけていたそれを……


『セレスティアルじゅ……』


 その際は、合点が、いかなかった。

 だが、新聞のとある記事と伝承を脳内で照らし合わせ、口を開いて言葉を発しようとした。


 高等的存在、セレスティアル十二使徒。


 言わなければ……

 

 足を一歩踏み込んで、黒いローブの巨大な女王蜂メフィストフェレスに近づこうとする。


 ところが、それに気づいたゾルが、ゼルドを止めるようにして、彼の口を塞いだ。


「ちょっと、ゾ……」 


「なにするつもりだ。喋るな」


「女王、本当なのですか? 妙ですよ」


「それしか、考えられないねえ」

「お嬢ちゃん、出身は?」


「エンシェントなのだ」


「なるほど……ウノに隣接する街ですね」


 ネゼロアは、ユニムが階級の勲章を身に着けていないことから、不審がっていた。


「ユニムさん? でしたよね」

「実は、昆獣林檎(ヴァ―ミックアップル)を食べて昆獣にならない場合……」


 ネゼロアは、言い戸惑っていた。


 ユニムは、その(こたえ)を知りたかった。


「どうなるのだ」


 ネゼロアを急かすが、ネゼロアは、女王を一瞥(いちべつ)する。

 次にゼルドの様子を見て心のなかで「妙ですね」と唱えた。


「あのお、ユニムさん、おいくつですか?」


「十二なのだ」


「ありえねえな」


 ゾルがユニムの発言に重ねるように、否定をほのめかした。


「何がなのだ」

「教えてほしいのだ」


「いいか、教えてやる」

「まず、天民でもなければ誕生のチーマの小細工に十二歳という若さで気づけない。気づけない人間は、そのまま十年経つやつだっている」

「にもかかわらず、気づいた」

「次に、士正義のエイリルだ」

「士正義のエイリルは、四にまつわる」

「時間のかかるやつなら、四年」

「それより早けりゃ、四カ月」

「さらに優秀なら四週間」

「またさらに、優秀なら四日」

「優秀すぎるだろ」

「この時期なら、四日で士正義になったとしか、思えねえ」


「ああ、四時間です」


 ゾルは、悔しそうに首を左右に振る。


「本当かい? やるじゃない」


「どう考えても、このユニムと、ゼルドは、選ばれしものだ」

「俺が鍛えてやるって言ったろ」

「それはつまり、スーペリアの海内女王に合わせてやるって意味だ」


「その海内女王はどこにいるのだ」


「隣に立ってるじゃねえか」


「紹介が遅れたようね。私は、悪魔じょ……」


「悪魔なんていないのだ」


 その場が静まりかえる。


「あのな、比喩だからな」


「たまったもんじゃないぞ」

「私は、毒林檎に案内されて、毒林檎を食べさせられて、悪魔と契約させられたのか」

「そんな話があってはたまらないのだ」

「だったら、悪魔よ……」


「私は、う〜ん、そうねえ」

「メフィストフェレスよ」


「私と契約し、海内女王にするのだ」


「はい、ダメです。真面目に試験受けてくださいね」


 ユニムは、しょんぼりとする。


 ゼルドは、そっと肩に手を置いてやる。


「話を巻き戻しますが、セレスティアル十二使徒は、ぼくも知っています」


「何者なんだよ」


「本当に妙です」


「どこまで知っているの? ゼルドちゃん」


「何かを護っている……ということまでしか」


「あら、そうなのね」

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