79話 箴言を胸に刻んで生きていく
~【現在】スーペリア 王都ルティティア~
スーペリアは、みなさんご存じの通り、騎士達の住まう国である。
だが、どういうわけか。
馬に乗って移動する人々や、スーペリア各地で、馬小屋は確認されていない。
これには、考えられる理由がいくつかあり、勇者と魔王の時代には、スーペリアから勇者が誕生し、その勇者が、騎士であったことが考えられる。
また、これはひとつの仮説でしかないが、古来より伝わる童話に四王国の建国が顕著に描かれた話があるのだが、その話には四人の登場人物が登場する。
一人は、騎士。
一人は、僧侶。
一人は、商人。
一人は、農民。
この童話は、各国の昔の特徴を捉えられており、国が擬人化された四人の登場人物の話となっている。
おそらくだが、実在した人物ではないのだろう。
不思議なことに、スーペリアとフォーチュリトスには、名前が付けられている。
その名前は、騎士スーペリアと農民フォーチュリトスではなく……騎士アーサーと、農民アレキサンダーである。
実は、この二人は、四王国を代表する二つの国、スーペリアとフォーチュリトスの現在の天地国王の名前でもあり、名前が一致しているという点は偶然では済まされないだろう。
スーペリアの天地国王 アーサーと、とある男がルティティアの遊歩道を散歩しながら、話していた。
「――四王国を変えたい」
男が口にすると、鈍い甲冑の音が響いた。
「誰だって、世の中や世界に不満や欺瞞をもつものだ」
「然るべき時がくれば、変わる必要がある」
「いつかこの手で、変える時がくるかもしれない」
ここは、スーペリアの鉄の貴婦人の広場である。
四つの川が、交錯し、その川に備えつけられた橋。
スーペリアの天地国王は、なにかを、その堂々たる物腰で男と話していた。
男の名前:マカ=オルテガ
とある騎士団の一員である。
「オルテガ、調子はどうだ?」
「なに、大したことはしていない」
「平然と時が進む中で、あの時の選択は正しかったか。と、考え耽ってみたりするだけのこと」
「誰にだって、過ちはある。間違えれば後悔し、その後悔は更に新しい後悔をつくるもの」
「俺は、数え切れないほどの後悔をしたが、もう数える必要はない」
オルテガは、アーサーに目を合わせなかった。何かしらの深い理由があるのか、考えがあるのか。
こちらから汲み取ることはできないが、彼は、空を見上げては、雨が降りそうだなと、他愛もないことを考えていた。
「どうしてそう思う?」
アーサーは質問で返した。
彼は、黒いベストを着ており、胸には、スペードの紋章が見受けられた。
天地国王であるため、階級は「K」である。
「ほお、いいだろう。率直に答えようか――俺はもう後悔しないからだ」
「オルテガよ。それは幾分思い切った発言だ。承知した。後悔しない……したならば、過去を見ないということで間違いないか?」
「ああ、その通りだ。我ら、セレスティアル人は、どうでもいいことは、忘れるようにできている。しかしまた、異世界人も同じのようだな」
「その本質はなんだ? 何を伝えたい?」
「俺は、楽器を嗜みはしないが、とある国にタダイという人物がいてな」
「それで?」
「その男は、あらゆる楽器が弾ける。所謂、天賦の才だろうな。おそらくだが、生まれつき耳がいいのだろう」
「そうか……また、ソレのセロが聴きたくなるなぁ」




