表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
TWO ONLY TWO 唯二無二・唯一無二という固定観念が存在しない異世界で  作者: VIKASH
【階級試験篇】:カシェ・ケルクショーズ・ラ・ウ・トゥ・ル・モンド・ルギャルド

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

75/155

75話 氷帝のセレストと白き虎




~【同時刻】オルダイン 漆黒の森~



 詠唱とは……魔法を言葉で紡ぎ、魔法を発動させることである。


 一方で、所在のしれない賢者たちは、詠唱を行わずして、魔法を扱えるとされた。


 だが、私達は三人の賢者を知っていることもほかならない。


 氷帝のセレストの異名を持つ ブルースカイ


 雷帝のゲルブの異名を持つ  トライデンス


 林帝のヴェルデの異名を持つ グリードグリーン


 彼は、然䨣(ぜんかく)とも呼ばれる。



---



 セレストは、オルダインで何者かを氷のような輝きの眼光で見つめていた。


 彼は、とある目的のため、氷のイメージ膨らませていた。

 氷の魔術師にとって、イメージは大切だ。


 氷の大元となっているのは、もちろん水である。


 水をどれだけ効率よく冷やし、どのぐらいの量の氷が必要なのか。想像しなければならない。

 それに至るには、計算も技量も経験も必要とされる。

 一番大事なのは、想像力だ。

 己の想像力が武器となる。


 彼は、イメージする。


 極寒の地を……


 かつて、訪れたことがあった。

 氷の島。


――やるしかあるまいな


 徐々に徐々にと、空気の温度が下がっていく。口から吐く息は白くなり、体感温度もひんやりとしていた。体の動きが鈍くなっていき、この場の空気が冷やされていくので、寒さはましていくばかりだった。


 その瞬間であった。


 足を一踏みして、その左足からザクザクザクと、波紋のように氷の余波で地面を凍らしていく。


 相対する者の脚を、不自由にする。

 これならば、相手も動けない。

 動けない、転じて、逃げられない。

 また、これから迫るであろうセレストの攻撃を避けられないことを意味する。


 セレストは今、ある男と相対していた。

 彼を、これ以上、案内してはならない。

 たとえ、どんな理由であろうとも……彼には会わせたくなかった。


「いとをかし。かくなるうえは……」


 セレストは、顎を引いた。

 足を凍らせている。

 そればかりか、相手は両手背中に武器を持っていたが、移動できなければ、太刀筋でこちらを斬ることも、弓で射ることもままならない。

 というのに、彼はどこに隠していたのか、謎の黒い箱を取り出した。


 権物(けんぶつ)であった、皇剣、戦鎚、獅吼の弓を、その黒い箱に接触させると、たちまち吸い込まれていくように黒い箱の一部となり、まるで、そこには最初から何もなかったかのように、彼の右手に黒い箱のみがあった。

 

 そして……


 吹雪が濃くなっていく。

 温度はどんどん低下していく。

 温度の低下とともに、常人であれば、凍傷の危険性も出てくる。

 氷の魔術師の脅威は、相手を触れなくても、戦闘不能にできてしまうこと。

 彼は、どうなったのだろうか。

 なんらかの方法で、武器をしまった。

 

 それは、つまり、戦いを放棄した?

 そんな考えが、セレストの頭を(よぎ)る。

 濃い吹雪により、セレストからは姿が確認できない。


 氷の凍結は、まだ解かれていない。となれば、正面に待ち構えているはずだ。

 セレストは、一歩ずつあゆみ寄っていき、彼が凍ったことを確認したかった。

 運が良ければ、これで(しま)いであるからだ。


 ……だが、セレストが見たのは、異常な光景。炎の魔術を使った形跡は見られなかった。

 一番おかしいのは、足跡がひとつもなかったことだ。一瞬の間に、消えてみせた。


――どこにいる


 背後を取られたかと思い、すぐさま後ろを振り返るが、自分の足跡だけが、残っていた。


「ならば……」


 セレストは、水を高速で射出し、辺り一面に一度回転しながら、水の斬撃を浴びせた。


 水を高速で射出すれば、たちまち武器となる。


 周りの木々に水の刃が当たった。


 セレストは、とある細工を施していた。

 極限まで、木の周りの温度を下げていた。


 つまり、木に水が当たった瞬間。

 凍らせることができる。

 木のあるところ、そうでないところにも、氷の壁がうず高く、連なっていた。


「……これにてよろしきか?」


 声は、斜め上から聞こえた。


 一瞬の隙だった。


 どんな方法か知る由もない。

 頭上に彼がいた。

 宙に浮いている、白い虎の姿がそこにはあった。


「白帝じゃと……」


「いと僅かなる一部に過ぎず」


 男の瞳の色は変わらず青く、セレストを睨みつけるわけでもなければ、キョロキョロと何かを探していた。


 一体、何を……


「重ねて問ふ。ファングは何処(いづこ)だ?」


 セレストは、左腕と右腕を顔の前に持ってくると、目を(つむ)った。


 念じるだけでよかった。


 意のままに、氷を操れるのだから。


 大気に、水分さえあれば、魔法により空気を冷やし、ほぼ無尽蔵に氷を造り出せる。


「さあてのお、どこじゃろうな」


 またひとつ、さらにひとつ。


 壁のように分厚い氷が、彼を封じ込める。


「名付けて、ローザ・ディ・ギアッチョ」


 フォーチュリトス語で、氷の()()の意。


 それから、数分が経過する。


 相手は、なにもしてこない。諦めたのだろうか。


 ならば、場所を移すまで……


 セレストは、瞬間移動魔法を使いたがらない。


 理由は、いくつか考えられるが、キールトレインにこだわりでもあるのだろう。


 (いく)()にも重なった、薔薇の花弁のような氷の分厚い壁を溶かし、辺り一面を水浸しにする。


「やりすぎたかのう。では、行くかの」


 キールトレインに乗り込み、出発する。


 ファングは、現在オルダインにいる。


 上手く、巻きたかったが、相手に感づかれ、移動手段を封じる他なかった。


 いつも通り、レバーを引き、速度を確かめ、運転する。


 慣れたもので、片手でも運転できる。


 だが、違和感を感じた。


 速度が遅い。


 エンジン系統が、故障でもしたのか。


 速度は、どんどん落ちていき、止まってしまった。


「様子を見てくる」と、助手の骸骨の車掌に伝え、扉を開けて、少し急ぎながら、半身で降りると……


 そこには、彼が待っていた。


「逢はぬとも

 とどめてみせん

 セレストよ」


 前方から、彼の声が聞こえた。


 片手で、キールトレインを止めていた。


 先程の、白い虎へと変貌した彼である。


 人間の姿になっており、傷はひとつもない。


 先程から、攻撃はしてこない。


 なぜなのだろうか。


 セレストは、(いぶか)しんでいた。


 おかしい。


 セレストの導き出した答えは……


――我王ではないのか


 セレストの知っている我王は、確かに怪力だった。


 金色の獅子に化ける男だった。


 白虎になれる時から、様子がおかしいとは思った。


 白帝が同行しているかと思ったが、そういうわけではなさそうだ。


 セレストの予想であれば、もし、我王ならば、その怪力で先程の氷の壁を叩き壊してくると思っていたが、何もしてこなかった。


 忘れたころにやってくる。


 嫌な予感。


 本当に我王なのか。


 彼は、本当に我王なのか。


 何者なんだ。


 彼の正体は。


「名をなんというんじゃ」


「ライオネル、我こそは()(おう)なり『無境国』の三代目世界皇帝である」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ