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TWO ONLY TWO 唯二無二・唯一無二という固定観念が存在しない異世界で  作者: VIKASH
【階級試験篇】:ラ・ドゥスール・アティール・プリュ・ク・ラ・マルトゥール

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70話 空劫と冥加




 太陽が燦々と照りつける中、イギリアの郊外に、四人の髪色豊かな人々。


 青い髪もいれば、金髪、緑黄色の髪もいる。


 かと思いきや、一人は黒色の髪を持ち、彼は、青い髪の少女を瞬きもせず、見守っていた。


 これから、何が起こるのか。想像もつかない。


「始まるぞ」


 緑黄の髪の男が、何かを察し、そう告げた。


 黒い髪の少年ゼルドは、一度だけ、緑黄の髪の男に目をくれてやった。

  

 今は、青い髪の少女が心配だった。


――彼女に、もし何かあれば、ぼくが何としかなければ


 彼のそのまなざしは、彼の心境を物語っているようだった。


「……そのようですね」


 彼、ゼルドが呼応すると、緑黄の髪の男ゾルは、口角を上げて笑う。


「心配しないのか」


 無論、心配はしていた。

 声色にも、表情にも出していないだけだった。


「ぼくは……」


「ん?」


「ユニム様を信じていますから」


 ゼルドは、そう一言告げると、安堵の色を浮かべた。

 力んでいた手から、力をそっと抜き、胸に掲げられたスペードの紋章をゆっくりと撫でた。


「へぇ……」


 ゾルは、一旦2人から視線を逸らして、宙を見据えると、あることに気がついた。


 空の様子がおかしい。


 暗い雲が集まっている。


 何事だろうか。


 急激な速度で集まっては、止まる。


 その異常事態を繰り返している。


 何事だろうか。


 雲が止まるなどあり得ない。


 だが、聞いたことがあった。



『賢者の力は、時に天候をも変える』



 雲の集合体の一番下にいたのは、金髪の男。


 金髪の男の名は、トライデンス。


 彼の頭上に暗雲が集まっていく。


 太陽の光は、塞がれ、朝だと言わてもわからないほどの薄暗さ。


 これを、一人の男がやっていると誰が信じるだろうか。


 この異常気象を前にして、青髪の少女はどうするのか。


 その時だった。轟音と共に、雷が降り注いだ。


 青髪の少女ユニムは、怯む様子も見せずに、何かを唱えていた。


その身に纏うは、気か。

蒼雷か。

否、空劫である。

時間と空間の狭間に、何を見つけるか。

時空間を超えてゆけ、全てに抗い、その全てをねじ伏せて、この身に纏うは、雷の力、そして、然の力、然り、我が身に集いし、その力よ。

今とき放つ。

――空劫障壁――



 そして、ユニムは、その(てのひら)を地につけた。


 雷は、瞬く間にその魔法に掻き消されてしまう。


 たったひとつの疑問。


 空気による雷の防御は可能か?


 答えは、不可能である。


 では、彼女は何をしたのか。


 みなさんは、《プラズマ》をご存知だろうか?


 第四の物質と呼ばれる。


 プラズマを用いれば、物質の性質を変えることもできる。


 これは、理論上の話でしかないが、時空を歪めることも可能とする。


 ユニムの魔力量こそ、わからないが、もし彼女が、その詠唱を使えてしまうほどの魔力量をその身に宿していたなら、詠唱は成立し、雷を分厚い空気の層で防ぐことも可能かもしれない。


 とはいえ、彼女はその詠唱をどこで覚えたのか?


 疑問は残ったままだ。


 誰もわからないまま彼女は目を瞑って、地面から手を離さなかった。



――待ってください。ユニム様、ぼくはあなたの元を離れたくない。海内女王になるまで、一緒にいると約束しました。

 その約束を果たすその時まで、ぼくは(そば)にいたい。

 どうか、ぼくを置いていかいないでくださいよ。

 このか細い声は、届かないかもしれない。

 でも、それでもぼくは、あなたを見届けたいんだ



 足を踏ん張り、ユニムに一歩、一歩近づく、もう少し、あと少しで、手が届きそうだった。


 だが、どうしてだろうか。


 彼女に触れてしまえば、全てが、終わってしまうような気がした。



――忘れていました。あなたと、電気石で連絡先を交換しておけば、離れてもいてもいつも一緒だったのに



 その空気と雷の層は、分厚く目の前が歪んで見えていたのだ。


 ユニムは、はるか先にいた。


 近くに感じられたのは、錯覚であるからだ。


――ぼくは、あなたに遠く及ばない。

 でも、ここで止まったりはしない。あなたに近づきたい。あなたが、海内女王になるその日まで。

 ぼくは……ぼくは、見届けると、護ると、傍にいると誓ったあの日から。

 思っても聞こえませんよね。ぼく……実は、知っていたんです。

 あなたが、ぼくを心配してくれていたこと。気にかけてくれていたこと。

 なんで、ぼくに優しいのか気づいていました。

 それでもぼくは、あなたに嘘をついていました。

 いえ、自分に嘘をついていたのかも知れません。あなたがいたから、ぼくがいる。

 でも、ぼくがいなくてもあなたは……


 

 ゼルドに空気の層がぶつかり、弾き飛ばされたかに思えたが、何かがしっかりと彼の片腕を掴んでいた。


「何考えてたんだ。安心しろ。もうひとりじゃない」


「ゾルさん」


 その様子に気づいたユニムが、空劫障壁を解いた。


「ゼルド、大丈夫か」


 ユニムが急いで、駆けつける。


「……大丈夫ですよ」


 トライデンスが静かに歩み寄ると、一言添えた。


「ユニム合格だ」

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