7話 フォーチュリトス王国、王城サンタンジェロに赴く
「次期賢者ユニム様には、優遇いたしますよ」
「あ、忘れていました。おまけさんも」
ユニムは、ゼルドが、おまけと言われて腹立たないのが、不思議でいた。
「さあ、どうぞ中へお入りください」
門の右の柱には、様々な農具が彫られている。鍬に、鋤に、そして鎌。
左の柱には、「PENSO, DUNQUE SONO」と書かれている。
ユニム達は門の柱など見ておらず、通り過ぎてしまった。
いざ、門の中へ入ると、お世辞にも豪華絢爛………とは、いえない城である。
いたるところに、クローバーの模様が施されている。ユニム達は、城内へと入っていく。
「あの…」
城の中では、声が響く。小さい声でも、エクスにはっきりと聞こえたようだ。
「なんですかおまけさん」
「クローバーはなんで彫られているんですか?」
「おまけにしては、いい質問ですね」
「お答えしましょう」
「あれは、クローバーではなく、クラブです。クラブは無知を表していて、この国の象徴とも言えるんです。
「また、国外に出るときや、この国の兵は必ず、鎧や、衣服にクラブの紋章をつけます」
「あなた方にもつけていただきますよ」
「四王国は様々な国の人間がが出入りしますが、どこの国か見分けるために、自身に紋章を刻むんです」
「本来であれば、私もスーペリアに行き、剣の紋章をつけたいですよ………」
この世界で、紋章とは国旗のようなものである。
スーペリアの剣の紋章は黒。
インペリアルハーツの聖杯の紋章は赤。
アダマスの貨幣の紋章は赤。
フォーチュリトスのクラブの紋章は黒。
色に関しては、諸説あるが、「昼夜を表している」や、「初代四権英雄の髪の色」
もしくは、「各国の男女比率」とあるが、どれにもこれといった根拠がなく。
いまだに、なぜ色が決まっているのかは、わからない。
無知という点に関して、あまり良いイメージを持たれないかもしれないが、無知の知と捉えるのが、正確であり、賢者の一人である「ソクラテス」が、この国を造ったとされている。
年数にして、およそ1626年前の昔のことにはなる。
そこへ、二階から黒いウエディングドレスを纏った貴婦人が下りてくる。
誰だろうか?
「こんにちはなのだ」
元気溌剌にユニムが挨拶すると…
「まあ、ご機嫌よう」
「あなた、それ地毛なの?」
「素敵な青い髪ね」
「触ってもいいかしら」
「ねえ、エクス君」
「どこから連れてきたのかしら」
貴婦人は、ユニムの髪を撫でた。
ゼルドは思う。
――僕が相手にされないのは、この装飾のせいだ。奴隷だからだ。こんな高い身分の人々に失礼な態度を取ってしまったらどうしよう。どんな仕打ちをされるかわからない。覚悟はできている。
とは、思っているのだが、エクスをどう思っているのか。謎である。彼も一応天王子なのだが………
「はっ、母上。次期賢者のユニム様とその金魚の糞にございます」
「まあ、なんですって。ちょっと、無礼よ」
「凄い方かもしれないじゃないの。もうやだエクス君ったら」
・海内女王 クイーン「黒拳のアルジーヌ」
実はエクスの義母であり、また、この国を統べる女王である。
鼻がつまったような声が特徴的で、体格は細身だが、実力は本物だ。
いつも、結婚式の事が忘れられず、黒いウエディングドレスを身に纏ってることからもわかるように、非常に黒を好んでり、服はもちろんなのだが、靴、髪、口紅、ネイル、ピアス、手袋に至るまで、くまなく黒で統一されている。
年は若く、二十代のようだが、若くして、海内女王になったエリートであり、出身は、スーペリアではないかと噂されている。
二つ名、異名からもわかるとおり、バリバリの格闘家であり、若く、尚且つ、この美貌のため、モテるのだが、本人曰く「自分より弱い男など、女に同じ」と一種、差別的は発言をしてはいるのだが、当人に悪気はない。
そのため、幼い頃にアダマスの富豪。少女の頃にインペリアルハーツの名医、そして、二枚目のスーペリアの若輩剣士までもに自ら、戦を挑んでいき、「弱い」「戦意喪失」「異性故に戦わない」といった、類の気に入らない男は、微笑みながら、全員もれなく打ちのめした。
その数、百を超える。だが、そんななか倒せなかった男が二人だけいるのだが、1人は、現在の旦那である。
そして、もう一人は、アルジーヌの父親である。
今でも美人であるため、よからぬ連中が寄ってくるのだとか…まあ、打ちのめされるが………影では、「男狩りのアルジーヌ」とも言われていたそうだ。
「私はアルジーヌよ。ユニムちゃんだったかしら?よろしくね」
ユニムと握手をするアルジーヌ。
堂々と筋骨隆々の男がこちらに向かってくるではないか。
ゼルドは数歩下がった。
「我が息子よ。よくぞ無事に帰った」
・天地国王 キング「八重鎖鎌のアレキサンダー」
アルジーヌの夫にして、エクスの実の父親。そして、何を隠そうこの国の最高責任者である。
背負うものは多い。
だが、その広い背中で、この国を護ってきた。
彼の鎖鎌は、7尺の八重鎌に鎖をつけた八重鎖鎌である。
遠距離、近距離、そして中距離。
どれにも隙がない。
鎖鎌は、スーペリア製であり、使われている鉱石はアダマスの物のようだ。
出身は、フォーチュリトスであり、旅をしていたアルジーヌとこの国で出会った。
元妻は…誰なのだろうか?エクスは、母親の事をあまり聞かされてない。
一見すると、武器が強いのではないかと思われがちだが、肉弾戦も強い。
農業で鍛えられたその筋肉は、努力の賜物である。
「ええ、父上」
ゼルドが異変に気づき、辺りを見回す。
「あれ?新聞で読んだんですけど、この国の四権英雄のパープレットさんっていないんですか?」
それを聞いたエクスは、わざとらしく溜息をついた。
「おこがましい発言ですね。本当に新聞読んでましたか。チーマのゼルド。父上、こうこうこうでして………」
エクスがアレキサンダーの耳元で何か囁いている。
「うむ。彼は不在である」
「その話は控えるか」
「話は聞いた。次期賢者ユニムよ」
「階級試験を受けたいそうだな」
「どこを目指している?」
「決まっているだろう」
「海内女王になりたいのだ」
「なんだと?」
「ひょっとして、今は天王子か?」
「ならば、可能性はなくもない」
「違うのだ」
ユニムの発言でアレキサンダーは天王子でないと確信し、視線を下に向ける。
視線の先には、ユニムの茶色いブーツ。
泥がついて、汚れている。
その様子を見ていたゼルドが、まずいと思ったのか。
手を天へと差し伸ばし、口を開く。
「ちょっと待ってください。ユニム様は魔法が使えるんですよ。そうですよね。ユニム様」
「魔法?ならば、今ここでやってみてくれないか」
ユニムとゼルドは、困窮した。
なぜなら、今までの魔法はキッカケが全てゼルドありきのものだったからだ。
ユニムから、自発的に魔法を行ったことはない。
導き出される答えは偶然か?それとも………
「やりましょうよ。ユニム様」
ガッツポーズをするゼルドを見て、ユニムは心を決めた。
「わかったぞ」
声が少し暗い。なぜなら、今までを振り返ってみるとわかる。
赤狼に襲われた時、ユニムはゼルドに触れていた。
エクスのナイフが飛んできた時、ユニムはゼルドに触れていた。
魔法の発動条件は「触れる…?」そんな、憶測が2人の頭に浮かんだ。
ということで、ユニムは、ゼルドの肩に触れた。身長も同じくらいなので、容易く触る。
その場に、沈黙が訪れる。
これは、何かの前兆か。
だが・・・
「おかしいですね。何も起きません」
「・・・」
天地国王アレキサンダーは、黙っているが、表情から怒っているのか、退屈なのか、汲み取れない様子だ。
「次期賢者ユニム様、あの時の浮遊魔法はどうやったんです?」
エクスが訊ねる。
「それが、わからないのだ…」
「そうか。もう十分だろう。すまなかったな。………念のため勲章を見せてくれないか?」
勲章に書かれていたのは、「Ⅲ」だ。誕生のチーマの証だ。
「…君もだ」
「わかりました。あ、僕は肩につけていますよ。右肩を見てください」
やはり、そこには「Ⅲ」が・・・
おや、「J」?
「ちょっと待て、おかしいぞ。どういうことだ」
アレキサンダーも焦っている。
「えっと………この子さっきエクスにチーマと言われていましたわよね」
「貴様、図ったんですか?」
エクスが激怒している。それまでに、怒るほどのことなのだろうか?
「え、え。いや、そんな、まさか」
ゼルドの勲章は紛れもなく、天王子の「J」になっていた………