69話 誇りと理
事は起きてしまった。
ユニムが、トライデンスの雷を己の詠唱で護ってみせる。そう言い放ってみせたのだ。
ユニムには、戸惑いや、焦燥感もあり、うずうずしていられない。早くゼルドと同じ階級になりたいと、トライデンスを急かしたことで、彼が……
「ならば俺の電撃を止めてみよ」
と、口にした。
士正義に対し、賢者が自ら攻撃を仕掛けるなど、前代未聞であり、ゾルからすれば、賢者の行うことではない。
と、一種不満の声もあがったが、それに対してユニムは……
「臨むところだ」
と、反発。
彼女は、事態のおおよそを把握しきれていない。
賢者の力に匹敵するのは、賢者だけである。
だが、これは変加護の正当な試験でもある。
ちなみに、ゼルドにはトライデンスから、既に勲章が渡されている……どこに用意していたのかは、謎のままである。
「面白い。実に面白い。
1日くれてやる。
試験は、明日当日だ。
イギリアの本屋や、図書館に行き、詠唱を覚えるもよし、ゾルから、教えてもらうもよし、もし、変加護のゼルドが詠唱を知っているのであれば、教えてもらうといい。
ただし、どの魔法を使うかは、告知しない。以上だ」
ゾルは、反発する。
士正義に対して、宣戦布告するなど、もちろん前代未聞の行動であり、彼の異名――雷帝のゲルブからもわかる通り、彼の力は、凄まじいのだ。
どれだけ、用意してあろうが、それを防ぐ、躱す、もしくは止めるなどという芸当は、賢者のそれ。
もしものことがあってはいけないと、トライデンスを止めるのだったが……
「海内女王になりたければ、この先も厳しい道を進むことになる。鍛えるんじなかったのか? ゾル」
そうだが……それとこれでは、話が違う。
と思ったが、ゾルは、ゼルドからある話を聞いた。
その数々の話を聞いて、驚かざるをえなかったが、ゼルドの話から、聞いた中で一番驚いたのは……
「……なんですよ。で、ですね。ユニム様のおじさんである。マスタングさんという方が、繁栄蜂でして、ぼくも驚きましたよ。ユニム様は……」
――マスタングだと? 繁栄蜂最強である、あのマスタングが……
彼は知っていた。セオドニア・Ⓑ の頃から、その男は名を馳せていた。
まさか、エンシェントで、女の子を育てているとは……昔から、マサメヒとは仲が良かった。
黌マサメヒと喧嘩屋アシナガは、女性である。
しかし、マサメヒは、穏やかに対して、アシナガは、喧嘩腰で、今も行方は、知られていないが、フォーチュリトスで、アシナガの名前は広く知れ渡っていた。
当時、新米だったレナは、学ぶことをマサメヒから、戦うことをアシナガから教わり、天王子まで、登りつめた。
彼女には、とある才能があるのだが、それは、後ほど……
〜イギリア メーラジャッロヴェルデ 上位三層〜
ゾルとゼルドとユニムが話し合い、様々な詠唱を教えあったが、ユニムが試しに詠唱を行うと……これまた不思議なことに、何も起きなかった。
ゾルは、これはまずいと思ったのか、同じ詠唱をこっそり呟き、ユニムが魔法を起こしたように見せかけたが、ゼルドがそれに気づき、明日だったらどうするのか。と、怒り心頭になっていた。
ユニムは、再び悩むのかと思われたが、だったら、避けてしまえばいいと考え、クロノスや、メープルシロップや、パープレットが使っていた……呪文一つで行える、瞬間移動魔法はどうなのだ? と、ゾルに切り返したが、やめておけ。と、すぐに断られる。
なぜなら、必要とする魔力量が桁違いだからである。
士正義の人間が、もし、瞬間移動を行いたいのなら、詠唱をしている間に敵に攻撃されてしまう。発動に間に合わないとのことだった。
ユニムは、額に拳を当てて考えるが、やるしかない。と、言い切り、寝床へ向かった。
その後も、ゾルは、興味深いと思ったのか、さりげなくゼルドから、話を聞き出す。
これまでのことや、レナについても、ゼルドは、話した。
ゾルが聞きたいのは、無論マスタングのことであったが、ユニムのおじさんで繁栄蜂以上のことをゼルドが知らず、ゾルは、彼の居場所が知りたがったが、情報は掴めない。
アレキサンダーには、門前払いをくらい。
喧嘩屋のアシナガは、メーラ・ジャッロヴェルデに誘うも、もうたくさんだ。と、断られる。
黌のマサメヒは、マスタングと同様、居場所が掴めない。
だが、ゼルドの話から推測はできた。とはいえ、ユニムを育てていたなど、想像もできなかった。
霊妙のネゼロアに関しては、メーラジャッロ・ヴェルデにいることにはいるが、いつも何かを見張っており、妙だね。が、口癖であり、特に得られることはない。
暴君のスズメは、悪魔女王蜂に忠実であり、住んでいる層が違う。
あまり、出会すことがない。メーラ・ジャッロヴェルデは、想像以上に奥深く、広いのかもしれない。
光明のレナに関しては、悪魔女王蜂にもその才能を認められており、光明を齎すとも、言われている。
天王子であることに変わりはないが、彼女が、黎明に光明をもたらすのか、それとも彼女が光明の魔女となりうるのか、わかっていないが、彼女は多くをゾルに語らないという。
ゾルは、自身の部屋に戻ると、明かりを消して、床に着いた。
ユニムとゼルドは、背中合わせになりながら反対を向き、先に寝てしまったユニムの寝言を聞きながら、ゼルドは、くすりと笑い、時間がたつと、彼は、寝入ってしまった。




