64話 三勇奇譚
実は、ユニム、ゼルド、トライデンス、そしてゾルが到着する少し前、セレストはギルド《メーラ・ジャッロヴェルデ》を訪れていた。
彼は、フォーチュリトス王国に縁があった。
かつて“四権英雄”として名を馳せた時代、セレストはフォーチュリトスの代表として知られていたのだ。
キールトレインの出自こそ不明だが、王城街に建てられた“天地創造の女神像”の氷像は、当時の彼の意思によって贈られた祝福であるとされている。もしくは、至高の芸術品と見せかけた、権物かもしれない……
では、なぜ彼がオルダインにいたのか。
フォーチュリトス王国のイギリアやウノは海に面しており、リョク魚やクラーケンの漁場として有名だ。
しかし、実はオルダインもまた、ある“海”と接しているのだ。
皆さんもその海の存在をご存知かもしれない――ただし、四王国の誰ひとりとして、その正体を突き止めることはできなかった。
彼は、今も尚、その海を探し続けている。
ひょっとすると、見つけたのかもしれない……
あの、”外側“から現れた亜人の名を、覚えているだろうか。
――白胡椒
彼はいついかなるときも、こう言い切る。「俺は白胡椒だ」と。
その名乗りには、深い理由があった。
なぜなら、彼の姿が“神聖なる国”に仕える者――かつて「ゴジョウ」と呼ばれた仙人に瓜二つだったからだ。
この「ゴジョウ仙人」は、堕天使の里へ追放された三人の仙人の一人であり、他にはロックウ仙人とハッカイ仙人がいた。
三人は後に「三明賢者」と呼ばれ、その旅路は“神聖なる国『梵』”を目指すものだった。
この逸話は、のちに「三明奇譚」あるいは「三明紀行」と呼ばれたが、語り継がれるうちに変容し、「三勇奇譚」として定着した。
この伝説は、我々の世界でもよく知られている“西遊記”と似ているが、どこか少しずつズレている。
西遊紀→三勇奇譚
沙悟浄→ゴジョウ
猪八戒→ハッカイ
孫悟空→ロックウ
三蔵法師→三明賢者
〈名の起源について〉
・ゴジョウ
もともとの名は「五水神将」。
伝承の中で呼びやすくするため、「頭 (ゴ)」と「しっぽ (ジョウ)」を取り、ゴジョウと変化したと考えられる。
・ハッカイ
正式には「八戒天魁」。天魁とは、天界で群を抜いて優れた存在の称号であり、八戒はそのまま伝えられている。
・ロックウ
彼の出自は謎に包まれている。
三勇奇譚でも、突然現れた存在として描かれ、まるで異世界から来たかのような扱いを受けている。
彼の本名は「ロックウェル・ヴェリタス」ではないかとされている。
かつて石油王ロックフェラーの祖先ではという噂もあったが、時代背景が一致せず、現在では十六世紀の学者ロックウェルの可能性が高いと見られている。
“ヴェリタス”とはラテン語で「真理」を意味し、ロックウェルはその名の通り、知恵と探究心を持ち、真実を追求し続けた人物だったという。
やがて彼は、名前を改める――
六空無涯、すなわち「ロックウ」と。
〈三明賢者の名の由来〉
三明賢者とは、次の三つの“明 (智慧)”を体得した者のことである。
宿命明
過去や前世を見通す智慧。過去の因果が現在を形づくっていることを理解する力。
天眼明
未来や他者の生死を見通す智慧。因果を断ち、未来を変える力に通じる。
漏尽明
煩悩を完全に滅し、悟りに達する智慧。過去と未来の因果を理解し、解脱へ至る道。
この三つを極めたことにより、彼等は“三明賢者”と呼ばれたのである。
三明奇譚が白話小説として語られ始めたのは、今から約1393年前のことである。つまり、それはすでに千年以上も昔の物語なのだ。
このように、セレストと白胡椒、そして古代の賢者たちの物語は、時を超えて深くつながっている。我々が、その記憶をたどることで、再び“真実”に近づいていくのかもしれない。まるで、ロックウェルの後を追うようで、懐かしい気持ちに浸れるのも確かだ。
しかし、不思議な点が何点がある。
・オルダインの海はどこにあるのか?
・セレストと白胡椒は知り合いではないのはなぜか?
・ロックウェルがどのようにして、異世界からやってきたのか? この疑問は、世界皇帝である牙王ライオネルと同様である。彼にも謎が多い。無境国の全貌は明らかになっていないからだ。




