62話 獅子の如き覇王、彼の名は牙王ライオネル
甲冑の鈍い音が響く。
男は、静かに、しかし断言した。
「異世界は――確かに存在する」
その男の名は、牙王ライオネル。
無境国の王にして、四人の帝と共に悪に打ち勝った、伝説の世界皇帝である。
魔人の存在が最初に明るみに出たのは、この無境国だった。
四王国や四権英雄の伝説も、この国がモデルなのではないかと囁かれるほど、酷似している。
まず、四帝――炎帝、蒼帝、白帝、冥帝――が存在する。
そして、四王国の四権英雄は、中国の伝説の四獣に非常によく似ている。
北の炎帝は「獄帝」に通じ、
東の蒼帝は「林帝」に通じ、
西の白帝は「氷帝」とも言われる。
だが、冥帝だけは、四王国のどこにも存在しない……
そして、世界を一つにまとめ上げた男こそが、ライオネル。
彼は「世界皇帝」と呼ばれ、我々の世界でいえば、日本に似た地――無境国を治めていた。
かつて、この国に“異世界人”が訪れたという伝説が残っている。
その名は――シシマル。
彼は江戸時代の人物で、後に「忍び」であったことが明らかになる。
江戸中期の古い巻物の中に、彼が「外国に行った」と記された部分があり、そこには妖怪、呪い、異国の人々のことも書かれていた。
しかし、実際にはこれは「異世界」を意味していたのではないか?
そう、シシマルは「外国」ではなく、「異世界」へ転移したという仮説である。
セレスティアルにおいて、最初にこの地を訪れた異世界人――
それこそが、芥川獅志丸なのだ。
彼は、芥川流忍術の使い手であり、我々の世界でもその名が残る江戸の忍者。
彼の巻物にはこう書かれていた:
「四つの国があり、それぞれを四帝が治め、やがて一人の男を世界皇帝とした」
信じるかどうかは、あなた次第だ。
落語の世界に「小噺」という形式があるように、事実とフィクションの境は曖昧だ。
たとえば:
「天国の話」→ アノヨッ(あの世)
「本当にあった話」→ ジツハ(実話)
「旅の話」→ この度は(この旅は)
獅志丸の巻物の冒頭には、こう書かれている。
「ここは善い世界だ」
一見、平和な世界のように見えるが……
実はこの文、こうも読めるのだ:
「ここはよ、い世界だ」
言葉が区切れることで、別の意味を含んでいるように感じられる。
彼は何かを隠し、あえて真実をぼかしていたのかもしれない。
甲冑の音が響いたのは、我々の世界だ。
そして、芥川獅志丸には、決して語られることのなかった「秘密」があった。
――実は、ライオネルと獅志丸は、入れ替わっていたのではないか?
そんな説すら、囁かれているのだ。
江戸時代、鎖国のさなかにもかかわらず、浮世絵にはライオンの姿が描かれ、妖怪たちの発想源も不明なままだ。
四獣の概念が、果たして本当に中国由来なのか――それすら、怪しい。
芥川の記述は、はるか海を越えて伝わったのか?
だが、中国に行った記録もない。
ならば、“誰か”が彼の元へ来てしまったのではないか?
セレスティアルの東の海に位置する無境国には、確かに芥川獅志丸の痕跡が残されているかもしれない。
異世界人ネカァも、きっと驚くだろう。
事実、然䨣のヴェルデも、蒼帝と遭遇している。
ご存じだろうか?
東の守護龍――蒼龍。
彼は「蒼帝」の異名を持ち、自然を司る存在。
雨を降らせ、雷を呼び、森を育み、山を生む。
それはまさに、中国の四獣に伝わる力そのもの。
無境国の歴史は、セレスティアル歴が始まる前――今からおよそ6621年前までさかのぼる。
芥川獅志丸の巻物には「夢境国」と書かれていたが、実際には「境なき国」=無境国とされている。
夢境とは、夢の中の世界。夢の境地。
彼は、異世界転移を「夢」だと考えたのかもしれない。
彼の巻物には、さらに興味深い記述がある。
人が獣になった
黒い箱が鉄砲になった
空を飛んだ
そして、最も謎めいた一節――
「わしが“もうひとり”おった」
まさにこの言葉こそ、意味深である。
なぜなら、同じような経験を、あのゼルド君もしていたからだ。
私からの報告は以上である。
今後も、ユニムたちの動向に注目して頂きたい。
次回まで、どうぞよしなに




