60話 恒常的連接
何処からともなく現れる。
天の声なのか。
誰の声なのか。
はっきりとは聞こえないが、確かに聞こえている。
内なる世界を照らすように……
『久しぶりだね。覚えてるかな』
――聞こえます。あなたは? ぼくの母ですか?
『それは違うかな。ここは、暗くて黒い獄界だよ。聞こえているなら頷いて、でも顔には出さないで』
――わかりました
ゼルドは目を瞑る。囁きのような、美しい声。楽器のような、粒のある音。
その聲は、確かにゼルドに聞こえていた。
「って、言わねえと……え?」
ゾルは思う、不気味だと、彼の頷きは、自分に対して、なされているようだった。
だが、どこかおかしいのも事実である。
彼は、この呪いを知らないからだ。
「緑黄……どういうことなのだ?」
さらに不審がったのは、ユニム。
ゼルドの様子が明らかにおかしくとれた。
「安心しろ、俺がいる。ヘルの力に違いない。何をするつもりだ」
ユニムの視点から、そこには右から順に、ゾル、トライデンス、ゼルドがいたのだが、ゼルドが青い炎に包まれている。
二人は疑心暗鬼し、目を疑ったが、彼トライデンスだけは、冷静に見守っていた。
ゼルドの頷きが、誰かに呼応しているようであり、何かを感じ取ったのだろう。と踏んでいたからだ。
『慙愧はある?』
――ありません
『準備はいい? 振り向かないでね。痛くないからね――虚仮の一念岩をも通す。世間虚仮、唯神是真』
――どういう意味ですか?
『考えなくていいからね。感じるだけでいいからね』
――はい、何も感じません
『魘されるかな。微熱に』
――どういう意味ですか?
『冗談なんてひとつもないからね』
「逃げろ」
トライデンスの体が発光していた。電気を纏っている。
「何をしているのだ。ゼルドを放っておけないではないか」
「天獄を知る者は、少ない。戦友よ。どこまでゆくつもりだ」
「また、ハズレを引いたな。俺の計画は失敗だ」
「まだ、終わっていませんよ。なぜなら、ぼくがいる」
――母親ではなかった
「青と黒か、白と金か。表裏一体だな」
『変化して』
――わかりました
『私の言うことを繰り返して』
――はい
「焔を纏え、青炎、黒炎、鬼火、狐火、燐火、成りたくば、獄を開け、獄の主よ――ぼくに力を」
「獄猋」
――ケルベロスって?
黒い体毛に、青い焔を纏う、美しき狼。
頭は一つだが、当人であるゼルドが一番驚いていた。
「……今なのか。試験を行っていた訳ではないが、条件を満たした。合格だ」
「緊急事態だぞ。そんなことがあってたまるか」
「変加護で、ケルベロス? 前代未聞だ。
そもそも、ケルベロスなんて存在自体、確認されていなかったはず。……こいつは、何なんだ」
「答えられん」
「な、なんだと。ゼルド、目を覚ませ」
ユニムが炎をかき分け、手を伸ばす。
しかし、ゼルドからの反応はない。
いつぞやもみた魔人への変貌。
吉と出るか、凶と出るか。
運命は味方にできるのか。
ユニムは、ただ、両の手を合わせ、願っていた。
『さよならは言わないよ』
――また、会いましょう




