59話 規則的且恣意的
~フォーチュリトス王国 イギリアにて~
「二人とも、着いたぞ」
意外にも、フォーチュリトス王国出身の二人であるが、この地「イギリア」を訪れたことはない。
フォーチュリトスの王城街「ウノ」に隣接する街であるイギリアには、海岸があり漁業が盛んである。
リョク魚とシャカ芋のフライが人気である。
「遅かったですね――ゾル?」
ゾルの知り合いのようだが、1人で小屋の扉の前にぽつんと居座っている。
「なにやらかした」
「妙ですよね。こんな時に、お客さんですか?」
――手の甲に林檎の模様?
彼女の手の模様は、黒い林檎だった。
渦のように、もしくは蛇のとぐろのように、丸く中心から、外側へと円を描いている。
彼女は、黄色と黒のローブを羽織っており、顔をはっきりと確認することができない。
この時、ゼルドとユニムは力尽きており、正直言って、2人の会話などどうでもよかった。
だが、ゼルドは、彼女のその痣のような模様だけは見逃さなかった。
林檎のタトゥーは、その形や意味によって多くの象徴を持つ。
知識、誘惑、欲望、善悪、再生、永遠、美、愛――その全てを孕んでいる可能性がある。
神話や聖書における林檎の描写が、意味に深みを与えることもある。
彼女の背後に、一軒の小屋があった。小さいが、悪くない佇まいである。
ゾルに導かれ、ユニムとゼルドは、ゆっくりと扉を押す。
そこには、賑やかな景観が広がっていた。
実家のような、安心感さえあった。
「紹介預かった。ここは、ギルド 《メーラ・ジャッロヴェルデ》だ」
小ぢんまりとした佇まいで、カウンターに、机が三つ、机にそれぞれ椅子が二つずつ設けてあり、髑髏の入れ墨の禿げ頭や、海賊のような眼帯をつけた、物騒な連中が所狭しと酒を飲んでいる。
その光景を見たゼルドが、これはいけないと思ったのか。ゾルの肩を叩く。
「ゾルさんでしたよね? ぼくは十二歳です。お酒は飲めませんよ」
「一番奥を見ろ。何がある?」
地面に取っ手がついている。ゼルドは小走りで、場内を駆け巡ると、取っ手に触れた。
だが、何も起きない。
「あれ?」
そこへ、ゾルがやってくる。サラサラの髪が靡いている。
彼の髪は、緑黄色なので、目立つのか。あちらこちらから、「ゾルじゃねえか?」「おーい、一杯やらねえか」などと、聞こえてくる。
その後を追うようにして、ユニムが歩く。
酒場から、会話が聞こえてくる……
「青髪だな」
「珍しいぜ……ひっく」
「なあ、あのじいさんなんつった? 孫じゃねえのか?」
「さっきまでいた。ブルーなんとかだろ……ひっく」
「あのじいさんも青髪だったぞ。似てねえか」
「ばかいっちゃいけねえ。賢者ってホラ吹いてたろ。ただのでけえじいさんだ……ひっく」
「そうか。そんなわけねえか」
酒場から聞こえてくる話には、耳を傾けず、ユニムは真っ直ぐ歩いた。
「ゼルド、そこをどくのだ」
「ユニム様、これ動かないんですよぉ」
「わたしがやるのだ」
――なにするつもりだ。取っての先には、古いダイヤルがついている。魔力を流し込み、解錠しなければ開かないが、俺が開けて、驚かせてやろう
と、ゾルは思っていたのだが……
「開いたぞ」
――なんなんだ
その取ってを引き、その仕掛け扉を開けてやるすると……
「これ、まさか」
「驚いたか。上は、氷山の一角に過ぎない。これが、俺達のギルドの全貌だ」
くり抜いたような穴がいくつもある。
まるでそこは、別世界。
ハチの巣のようで、アリの巣のような、迷路が広がっていた。
人が、壁を歩いたり、穴に入っては出て、食材を運んでいる。
――フォーチュリトス王国にこんな場所が、誰が作ったのだろう
「今日は宴か何かですか? 賑やかですね」
「女王が来ている」
「海内女王ですか?」
――もしや、アルジーヌさん?
「このギルドの構成は特殊だ。女王を中心に動く。女王が戦えと言えば、戦う。朽ちろと言えば、朽ちる」
「
嘘は、愛か。
誰になりたい。
絶対に許さない。
星の女王よ――目覚めたまえ。
其方は命を賭けるか。
望むは時間か。
飛べ。空高く舞い上がれ。
この城、尽きようとも。
この身、滅びようとも。
この灯は、決して絶やすな。
燃やし続けろ。
顔のない天使よ。
幵を持ち、美しき彡を纏い、其方は謳え。
」




