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TWO ONLY TWO 唯二無二・唯一無二という固定観念が存在しない異世界で  作者: VIKASH
【階級試験篇】:セミ・デ・グレーヌ・ダムール

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58話 誰が緑黄のゾルだって




――俺が確かめてやる


「何が夢だ」


――誰だ?


 ユニムが退く、顔をその人物に向けたまま、風が吹いたので、葉が落ちてゆく。


 その葉を避けながら、数歩後ろに下がった。


 だが、その人物は、ユニムを他所に、彼女の気持ちなどどうでもいいのか、見下すように、上から見下ろしていた。


「おい女児、よく聞け。あの、マスタングもレナも、アレキサンダーでさえ、誰も外側に行っていない」

「誰も信じない。外側が海だと主張する。外海論だってある。いつから、女児が異端になった。おまけに、こんなところに、あの元四権英雄(しけんえいゆう)がいる」

「なあ、ゲルブさん」

「トライデンスの名も、あのライデンからとったに違いない」

「もう一度きいてやる」


――ライデンとは?


「もう一度きいてやるよ、夢はなんだって?」


「何度でも言ってやる。あの、神物プラネットパズルを……」


「俺の質問にちゃんと答えろ。何になると言ったんだ?」


「決まっているだろう。海内女王(かいだいじょうおう)だ」


――この成りでか、俺も常民だが、世の中の厳しさを知らない。若い。いや、幼いと言うべきか



 ユニムは、その黒と黄色の装束から、覗かせた白い肌で、口を塞がれる。



「ふぐ……」



 頭から黒刃(こくじん)頭巾(ずきん)(かぶ)り、顔は見えなかったが、そのどすのきいた声を、ユニムの耳が拾い、彼女を一層、怒りへと駆り立てた。


 夢を否定するにも等しいその行為に、黙ってはいられない。

 その挑発を、ユニムは見過ごす訳にはいかなかった。


 白い腕を押しのけて、口を開いた。



「わたしこそがユニムだ」



 手を振りほどくと、彼の黒刃の頭巾が、勢いよく宙に舞う。


 その顔を見て、ユニムは驚きを隠せなかった。


 皆さんは、フォーチュリトス王国の天王子のエクス君を知っているだろうか。


 彼は、ゼルドに瓜二つの謎の少年だった。


 喋り方、背格好、顔がゼルドにそっくりの不思議な少年。


 かと、思いきや、若くして白髪を生やし、頭を白く染めていた。


 年齢不詳の少年。


 一方で、この男は、髪の色が緑黄色であった。


 肌は白い。


 お気づきだろうか。


 もし、ゼルドとエクスに兄がいたなら……


 もし、彼らが成長したなら、この男のようになっていたかもしれない。


 そう錯覚してしまうほど、似ている。


 これまた、奇妙な男だった。


 彼は、背中に剣を二つ(たずさ)えて、姿勢を低くしたかと思えば、二つの剣を抜き(かま)えている。


 剣は、背中で交差しているのか、バツ印のように預けられており、最初に右手で左肩の剣を抜くと、すかさず宙返りをし、空中にいる間に、右肩の剣を抜いた。


 道化(どうけ)のような所作(しょさ)跳躍力(ちょうやくりょく)、まるで、背中に羽が生えているかのようであった。


 何を隠そう。


 この男、廃止された繁栄蜂特殊ギルド 

 セオドニア・Ⓑ の緑黄(りょくおう)のゾルであった。



「正体を(さら)せ。さもなくば、切ってやる」


「お待ちください。士正義のエイリル、ゼルドと言います。お名前は?」



 ゼルドが名乗りを上げた。



「俺はゾルだ。 エイリルだと、その足につけている物はなんだ? どこで手に入れた?」



 彼の視線は、ゼルドの足元に一直線である。


 右手の剣で足を指し、左の手の剣を地面に突き刺している。刺した剣にもたれていることからも、やる気のなさが伝わってくる。


 トライデンスは、何も言わない。


 ゼルドは、見逃さなかった。


「お目が高いようですね。アルドラインで手に入れた、剣靴(シュード)脚剣(きゃっけん)です」


「アルドラインには、俺もよく行く。だが、あのアレクセイは、俺にそれを見せなかった」

「士正義のゼルドだったか、奴隷の格好をした。戯言(たわごと)の存在のような貴様がそれを手に入れられるのか。と、俺は訊きたい」

「そもそも、シュードも、キャッケンも、士正義(しせいぎ)相応(ふさわ)しくない……何者だ?」



 ようやく、彼が姿勢を正したので、ゼルドは、安堵する。


 彼、ゼルドは、わざとらしくため息を吐いた。


 緑黄のゾルは、眉間に皺を寄せて、ゼルドを睨みつける。



「あの……話が長いです。要点をまとめてください。自己紹介なんて望んでいません。『何者だ?』だけで、よかったのでは?」

「あなたは、ぼくを怒らせています。それから、そのとても綺麗な手でユニム様に触れましたね。非常識です」


「はぁ? そこは、薄汚い手だろ? いや、ちょっと待て、なんで俺は、俺を過小評価して、七面倒な言い直しをしている……ひとつ訊く。この女児は、貴様の(めかけ)か?」


「そ……違います。失礼にも程があります。何度も言わせないでください。その方こそ、海内女王(かいだいじょうおう)になるお方です」



 ゼルドが、お腹から声を張り上げると、その場の空気がわずかにも、一瞬だけ、凍りついた。



「……やかましい」

「何を言っている? 俺でさえ、博愛級(はくあいきゅう)だ」

「だが、士正義の貴様が、(うやま)うほどの女と見た」


――この女、どこかあの氷帝(ひょうてい)のセレストを彷彿(ほうふつ)とさせる。なんとも(わずら)わしい


「もうひとつ()いておく、その女は天王子(てんのうじ)か?」


「いえ、士正義ですが……」


「くだらん、話にならないな」


「では、緑黄髪のゾルさん、あなたはどうなんですか?」


――誰が緑黄(りょくおう)のゾルだって?


「おい、口に気をつけろ。俺は、野菜か? 貴様には、俺の頭が野菜に見えるか? なあ、もう一度言ってみろ。俺の髪は何色だ?」



 ゼルドの首元に、ゾルの剣の刃が近づく。


 ゼルドは感じ取った。


 このゾルと言う男は只者ではない。


 一瞬にして、距離を詰めてきた。


 首を切られていても、おかしくはなかった。



林帝(りんてい)のヴェルデを知っているか?」



 ユニムに聞こえないように、ゾルはボソボソと(つぶや)いている。

 ゼルドは動けないので、視線で呼応(こおう)する。



「あのお方の――二つ名――を知っているか?」

「喋れないだろう」

「教えてやる」

「――然䨣(ぜんかく)――のヴェルデ様だ。覚えておけ」



 剣を腰に当て、一呼吸置くゾル。



「俺はギルドを経営している。ギルドの名は、”メーラ・ジャッロヴェルデ”」


「はぁ、はぁ、行儀の悪いお方だ。どうしろっていうんです」


「入らないか? とは、言わない」


「え?」


「入れ」


「無茶苦茶です。頓珍漢(とんちんかん)にもほどがあります」


「クロノスもゼクロスも、今は別件で忙しい。俺達が鍛えてやる」

「光明のレナもいる」

「どうだ? 悪い話ではないはずだ」


「ユニム様、どうしますか?」


「知りたいのは、身の程ではない。純粋な強さだ。入る」


「では、ぼくも同行します」


「ところで、トライデンス、アダマスに用があるのか? なにしに帰ってきた」


「時は近い。勇者が必要とされる時代がくる。セレストもヴェルデも、あのネカァも帰ってくるに違いない」


「そうか」


――ありえない。そんなことが



 一行は、フォーチュリトス王国へと向かう。

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