57話 青天の霹靂
「聞こえるか……?」
二度頷くと、その振動する電気石に耳を近づけるユニム。雑音が酷く、何を言っているかは、わかるが、ものすごく聞き取りづらい。
私達の世界でも、電話をするとき、声がとぎれとぎれになることがある。
一種の電波障害であるが、電気石の通話の向こう側から、状況を探ることができた。
何者かが、話している。ひそひそと、聞いたことのない声で、話している。
その声は、近づいてくると思いきや、離れていき、同じ人間が、会話をしているようであり、若い声や、老いた声、高い声、低い声も聞こえた。
ただひとつとして、女性の声だけは聞こえなかった。
その人物達は、水の中で話しているようだった。
だが、ゴポゴポと、泡が浮き上がっていく音は聞こえない。
その時、ユニムに聞こえるのは、耳を塞ぎたくなるほどの雷鳴であった。
「白河童ではないか。何事だ?」
「けけけ、そうこなっくっちゃなあ、未来の海内女王だったか。今何してる?」
隣にいるゼルドは、その様子を呆然と見つめていた。聞いていた。
「スーペリアの遅咲きの森にいるぞ……」
「・・・」
声が、聞こえなくなった。どうしたのだろうか。白胡椒は、黙っているのか。何か、考えているのか。
ユニムには、わかなかった。
「返事をするのだ」
「――聞こえるか?」
先程と同じセリフだ。
だが、ユニムは気づいた。この事態が、普通ではないことに、なぜならば、その声は、白胡椒のものではなかった。
「あんたは、誰なのだ」
「これより、そちらに向かう。耳を塞いでおけ」
「な、どういうことなのだ」
【通話が終了されました|】
ユニムとゼルドは、見つめ合うと体が硬直していた。
なぜならば、軽い痺れを感じ、感電していたのだ。
「筋肉に異常は、見られんな。内臓も共によし。電気石を確認した。初期型で、間違いなさそうだ」
先程の男の声である。
誰なのか?
二人は、視線を向けられないまま。
肩に触れられた。
「案ずるな、結局、どんな言葉も瞬間にすぎない。その瞬間を我々は、考え、悩み、腹を立て、怒り狂う。そんな愚かなことはない。悩む必要などどこにある」
「あなたは……?」
「俺は、トライデンス」
彼の肌は、暗めの褐色であった。その肌に、似合う金色の髪。短髪だが、金髪であった。
「場所を移すぞ」
この男は、この男と話していると感覚がズレているような気分になるのだ。
まるで、なにもかも見透かされているような、そのような気分になる。
「電気石を貸せ」
「こ、これでいいのか」
なんの影響なのか、身体に微弱ながらも電波が流れていることが、ユニム達にもわかった。
電気は、心地よく体の疲れを癒やしてくれているようだった。
「話は聞いている。クロノスに鍛えられたそうだな。あの、クロノスが四権英雄か……」
彼は、考え耽っているようだった。
「ネロ様です。トライデンスさんでしたっけ?」
「これでよかったか。受け取れ」
「トライデンスとは言ったが、名前はいくつかある。まず、トライデンス。次にプラチナ。そして、忌まわしきゲルブ……」
「やはり、あなたが……」
「白胡椒が世話になったな。ところで、名前は?」
「最初に聞いてくださいよぉ」
「すまん。俺は、口下手だ。例えば、自分の意見を言ったとするだろう。すると、俺は、相手の話を聞いちゃいない。そんな奴だ。ネカァにもよく言われたな。『作れんの?』あの、ネカァがな。まさかな……」
「ネカァさんについて聞きたいです」
「戦友だ」
「もしや、海内女王なのだな」
「おっと、クロノスから聞いていないのか。元四権英雄だぞ」
「なんだと……」
「女で、四権英雄になった者は、いないはずだ。どういうことだ。」
「そこは、複雑だ」
「異名を知っているだろう」
「では、ネカァさんが、緋色の剣士なのですね」
「そうだ、妹のヒイロを護るための、ヒイロを護る剣士、それが彼女ネカァだ」
「私は、ネカァのようになりたいのだ」
「聞き捨てならんぞ」
「女で四権英雄だと……本来なら、私が最初だったのだ」
「ちょっと待て、名前はなんだ。四権英雄になりたいのか」
「私は、海内女王になる女だ。そして、四権英雄となり、神物プラネットパズルを見つける」
「……そうか。いい夢だな」
「夢だと、私は本気だ」