52話 赤でも青でもない、紫である
ヴェルデは、自分のこれまでのことについて、語り始めた。
四皇獣の戦のトロイに会ったこと。
リュウジンの国ドラゴニクスでのこと。
ラベンダーは、どの話にも興味を抱き、必死に相槌をしていた。
二人は、師弟関係を築き、ドラゴニクスに赴く、そこで出会ったのが、イルルヤンカシュであり、ラベンダー、現在のパープレットに仕えるリュウジンである。
イルルヤンカシュは、炎と氷を扱う竜であり、火水竜 《ファイ(ア)・(ウォー)タードラゴン》、両竜 (ボスのリュウ)とも呼ばれていた。
実は、パープレットの能力はそれだけに留まらず、彼は、ヴェルデの魔法によって、強大な力を手に入れた。
その力とは、彼の両眼の赤い瞳と青い瞳に隠されている。
赤狼特有の赤い瞳と、青羊特有の青い瞳……
実は、彼は魔人なのだ。
赤狼にも、青羊にもなれるのだ。
もしくは、ハイブリッドにもなれる。
〜フォーチュリトス王国 エンシェント〜
ラベンダーとヴェルデは、エンシェントの大地で向き合っている。これから、何かが始まろうとしていることを、そよ風が訴えていた。
「師匠、よろしいのですね」
ラベンダーが袖を伸ばし、衣服を脱いだ。彼は、上裸になった。
一体全体、何を始めるつもりだというのか。
彼は、腕を構えると、天に向けた諸手から、水を出す。
水は球体になったかと思えば、彼の頭上で、大きな塊となった。
魔法と一言で言っても、魔法というものには、数多の種類があるが、彼は言葉を発さずとも、水を発生させることができるようだ。
その様子は、まさに四権英雄のそれであり、いつかの賢者ブルースカイこと、セレストを彷彿とさせた。
彼の場合は、氷だったが、ラベンダーは水だ。
水を冷却すれば、氷の魔法だって使えるだろう。
彼は、いくつ技を隠し持っているのか。見ものである。
先程の水は渦を描きながら、羽衣のようにラベンダーに纏われていく、この水の羽衣の魔法は、地上戦では、かなり有効であり、炎や火の魔法を使う相手に対して、絶大な効果を発揮する。
まず、相手が炎を放出したとする。
水で制することができる。
炎を対象に、放ったとする。
水で打ち消すことができる。
また、炎を身に纏ったとする。相手は、このとき炎の温度が上昇し、触れることも困難だ。
だが、風の魔法を用いて、上手く分散させることができれば、それは熱き鎧となる。
それを、水は完全に炎を消すことはできなくても、放出し続ければ、風や、熱を防ぐための工夫を一網打尽にし、無力化することができる。
母なる大いなる海に、注ぎ込まれた水は、生命の源である。
抗おうなどと考えてはいけない。
今のラベンダーにかかれば、災害に等しい魔法も使いこなせるだろう。
その災害の元になりかねない。
水を纏っているのだ。
あのポセイドンもビックリだ。
「いいですね。揺らぎは感じられません。寸分の狂いもなく、計算された螺旋、渦、それは禍にも成り代わるでしょう。ならば、私も手加減はしません」
強欲の魔術師グリードグリーンは、数年が経ち、自分があの四権英雄であることを打ち明けた。
もちろん、それには理由があり、彼の強大な力にラベンダーが気づき、質問を浴びせられたのだ。何日かにわたって、嘘をつき続けていたが、辻褄が合わなくなり、階級を訊かれ、正直に打ち明けると、ラベンダーは尊敬の眼差しで、師匠と呼ばせてください。と、懇願してきたために、否応なしに受け入れた。
2人は、強さを求める旅をして、ラベンダーは見違えるように強くなっていた。
グリードグリーンは、その水に対して、水で対抗する。
「目には目を。歯に歯を。水には水を」
「あなたが水の魔法を扱うことに長けているのは、存じております」
「今一度考えてください。その力を、どう使うべきなのか」
「なぜ、魔人になれるのか」
「さあ、どうしますか?」
「魔人になれと言っているのですね」
「かしこまりました」
「焔を纏え、灯火となれ、燈となれ、それは篝火ではなく、劫火である」
「焔狼」
水の羽衣を纏ったまま、焔狼へと変貌した。
「成功ですね」
「実に美しい姿ですね」
「赤でも青でもない」
「では、パープルなのか?ヴァイオレットなのか?」
「いえ、パープレットです」
「ラベンダー、これからはパープレットと名乗りなさい」
「パープレット君、私に触れてみなさい」
これが、パープレットという名前が誕生した瞬間である。
彼は、鼻に神経を集中させる。目を瞑っても、伝わってくる。師匠の位置、喰らいたくなる。肉を。
「はあ……はあ……」
「欲求に抗いなさい」
「魔人ならば、魔人らしく振る舞いなさい」
「そうでもしなければ、あなたは無力ですよ」
翔んだ。
その太い脚から放たれる一撃は大地を削り、縦横無尽に駆け回る。
一撃、また一撃。
鋭利な爪でボウボウと燃え上がりながら、水の羽衣で温度を調節し、最大火力でぶちかます。




