50話 靁と雷
――仕掛けるか、否か。選択を誤れば、敵国に喧嘩を売ることになるのも同然じゃ。下手には動けんぜよ。だからといって、見過ごすのもこれまた、違うぜよ。相手は、自然。どう動く?見ものぜよ。
四元力は、エネルギーに基づいている。
その全てが、均衡を保ち、打ち消し合う。
炎と氷と自然と雷。
赤、青、緑、黄。
また、四つの力はどれも互いに牽制しあっている。
炎と氷の場合。一見すると、氷が有利に見えるが、炎の温度が上がれば、氷を溶かすことだってできる。
どれもに適した魔法があり、誰にでも苦手な魔法。得意な魔法がある。その魔法と知力、知恵、己の力を極めし者が賢者と呼ばれる。
先程の説明にあった四元力。
ここでは、〈自然〉と〈雷〉について話しておきたい。
「自然」
自然の魔法は、緑を彷彿とさせるが、それだけに留まらず。
皆さんは自然という言葉を聞いて、何を思い浮かべるだろうか?
実は、自然には「この世のあらゆる物の総称」という意味合いがある。
自然の強さは、その万能さにある。
自由自在に魔法で操れる。
いとも容易く、炎や氷、雷でさえも再現することができる。
一方で、炎系魔法、氷系魔法、雷系魔法と比べると劣ってしまう。
其処が最大の弱点かもしれない。魔法の初心者であれば、の話ではあるが――
そして……
「雷」
一方で、雷は古代から、我々の国でも神の怒りとして、考えらてきた。
【神の怒り】
これを口に出して、発音してみる。もちろん、早口で……どうだろうか?カミナリに聞こえないこともないだろう。
もともと、漢字の成り立ちとして、「靁」という漢字が、カミナリとして使われていた。
気になる方も多い方と思われるが、雨かんむりは理解できるだろう。
では、田んぼは?
雨が田んぼに降っても、雷にはならない。
これは「靁」この漢字を見ていただければ、一目瞭然なのだが、田んぼがゴロゴロと重なっている。
つまり、音からこの漢字ができたことがわかっている。
我々の世界でも、雷の正体は天気の一種で、雨に似ているが、わからなかったのだ。
そのため、雨かんむりに音がつけられ、雷になったのだ。
それほどまでに、雷の音というのは畏れ多く、その音は、恐怖を煽る。
そして、その光は音速を超え、その一撃は、致命傷になる。
「蒼雷」
「疾風迅雷」
二人が口々に呟く。
2つの雷が相対するとき、互いに激しく牽制しあい、留まることをしらない。
ネイビスは内心で驚いていた。
自然の魔法は確かに強力だが、単体の雷系魔法に比べれば、劣るはずだ。
だがしかし、なんの間違いだろうか。
グリードグリーンは、自分の得意分野ではない雷でネイビスと同等の出力を放っている。
これは信じがたいことであり、ありえないことでもあった。
――何が起きておるぜよ?
何度も自分に問うが、彼の姿が見えなくなったのは、権が自分よりも上だということ。
ネイビスは、絶望した。四権英雄になった今でさえ、賢者には遠く及ばないこと。
何が国一つの力に匹敵するなのか。
賢者は化け物だ。
自分など相手にもならなかった。
思い返してみれば、クロノスはいつも言っていた。
ネイビスが、四権英雄になった時も……
『かっはっは。クロノス。これで同じ土俵ぜよ』
『くだらない。上には上がいる。現状に満足してしまえば、成長は止まる。嘗て存在したであろう勇者や魔王も、時代を変えるほどの力を持っていたのだから、たかが森が燃えた。大地が凍った。山ができた。地面が丸焦げになった程度で驚いていれば、その時に後悔することになる。英雄など名ばかりだ。所詮、勇者や魔王の足元にも及ばない』
彼が、誰から聞いたかは、ネイビスも知らない。
魔王も、勇者も、伝説の話も……信じる者は少ない。
だが、クロノスは信じている。
「無念ぜよ」
賢者を前にして、何もできなかった。
彼等が、賢者と呼ばれる理由。
我々の師匠である理由がひしひしと伝わってくる。
自然の魔法は、他にはない。特性がある。
合成魔法。
魔法を組み合わせる。
例えば、火と雷。
例えば、氷と土。
例えば、雨と雪。
それをいとも簡単に行えてしまう自然の魔法は、強力である。
「ふう……ふう……すぅー」
雷系魔法は電気を放出すると、インターバルを必要とする。
にも関わらず、あのグリードグリーンは、まだ動いている。向かった先は……
「やはり間違いじゃなかったのう」
「ゼルド、何者ぜよ」
セントラルの床に、電気が走っていた。




