5話 セレスティアルには四皇獣がいてな
キールトレインが森の中を器用に駆け巡っていく。
「ところで、ブルースカイさん」
ユニムを見ると頬を膨らましている。まるで餅のようだ。
すかさず、ゼルドは手を平らにしてユニムを示した。
「あ、ユニム様。どうぞ。配慮が足らず、申し訳ないです」
ユニムは、ブルースカイに擦り寄ると声を荒らげた。
「どうやって賢者になるのだ」
ユニムは、ブルースカイを凝視している。ブルースカイは一瞬目を真ん丸にしたが、何事もなかったかのように表情を元に戻すと、姿勢を改めた。
「なんじゃ、お主………賢者になりたいのか?」
ブルースカイは不思議そうな顔をする。
「私の夢は、『神物プラネットパズル』を見つけるために、この国で海内女王になることだ」
「なんじゃと、プラネタリウムとな?そんなものはないのう」
「んー。違うぞ。プラネットパズルだ。おじさんが言ってたんだ」
なぜ知っている?なぜ信じる?疑う方が賢いだろう。
だが、信じることは更に賢い。この娘、何者だ?
ブルースカイは、顔には出さなかったものの、この娘を会話から懐を探り出し、見極めようとしていた。
「なるほどのお。で、あればとりあえず、そうじゃなあ、エースを目指すことじゃな」
「何をそんな簡単に言うんだ」
「今自分がなんと言ったかわかっているのか」
「この世界の歴史を変えろって言ったんだぞ」
「知っているだろおじいさん」
「女でエースになった者は、いないはずだ…」
ユニムは、激昂する。
「ちょっと、おじいさんって………ブルースカイ様ですよぉ」
ユニムの気迫に負けて、小声で囁くゼルド。
「ふっはっは。そうじゃな、確かにのぉ」
「ひょっとすると、歴史的快挙になるかもしれんな」
「さて、何が聞きたい?」
「もちろん、この島の外側についてだ」
ゼルドが腕組みをほどいた。
「え、外側?僕は新聞を毎日読んでいましたが、何もないですよ?ユニム様」
視線を一旦逸らすと、ブルースカイは鼻をかいた。
「そうか。そうか。外側じゃな。ええじゃろう。わしは、魔法というものは外側で教わったからのう。まあ、内側でも………その話はええかのう」
「よく聞くんじゃぞ。この世界セレスティアルには、四皇獣という伝説の生き物がおる。四権英雄になるには、彼らの………おっと、口が滑ったかの。つまりじゃ、わしも師匠から教わっておる。それによりじゃ、いとも簡単に、ほれ」
ブルースカイは掌に冷たそうな氷を作ってみせた。氷は、ブロック状になっており、どこからともなく突然現れたので、ゼルドは目を丸くする。
「氷が突然に現れましたよ。さては、あなた奇術師ですね。どうやったんですか?」
「ほざくがよい。原理はお主と同じじゃがな。今日はこの辺にしておくかの。誰かさんは寝ておるようじゃしの。静かにせえよ」
「あ、はい。え、誰かさん?」
ユニムは鼻提灯を膨らませながら、寝ていた。心臓の辺りが、上下に動いている。
思わず、ゼルドは目を逸らした。
「――僕も寝るとします。あ、あの………」
凄まじい風格があった。顔だけをこちらに向け、ギロリと睨むブルースカイ。
「なんじゃ?」
「その、四皇獣は外側のどこにいるんですか?」
「残念ながら、教えられん。自分で見つけることじゃな。」
「そうですか。おやすみなさい………」
――時間が経過する。おそらく小一時間程の時間が、車内には流れていた。
その静寂が、キールトレインを夜へと誘う。
ユニム、ゼルドは、疲れ果てたのか。椅子に座って、壁にもたれた体勢で寝てしまった。
ブルースカイは毛布をかけてやった。
「ブルースカイ、その子達。誰かしら?うっふふ。」
女性にしては、低い声だ。落ち着いた声で、意味深長に笑う。
この女性の声は?どこから聞こえる?そして、誰だ?
「・・・」
「聞いておったか。」
ブルースカイは何かしらの魔法を使っていた。その女性と話しているようにも捉えられた。
「ええ、もちろんよ。うっふふ。私はマダム・ウィッチよ」
「…どうするつもりなんじゃ」
ブルースカイは、一呼吸置いている。どれほどの相手なのだろうか?
「さあねえ、私にだって、未来はわからないもの。うっふふ」
「…この子らは何者なんじゃ」
「私に深く関わっている」
「あなたには、それしか言えないわ。うっふふ。では」
「・・・」
話すのをやめると、ブルースカイは、ゆっくりと目を閉じた。瞼の裏に浮かぶ、今の今までの事。
師匠。あの日のことは、忘れられませんよ。あなたがおったから、わしがおる。
今でも夢に見る。4人で勝ち取った。エースとしての力を―――
キールトレインは、王城街「ウノ」へと差し掛かる。
「次はウノ〜ウノでございます〜」
ユニムは夢を見ていた。
『ついに私は海内女王になったぞ』
『この時がきましたね。でも待ってくださいよ。ユニム様。エースは2人もいりません』
『ゼルド?何を言っているんだ。私の仲間じゃなかったのか』
『生きるか死ぬか、最後に立っているのはどちらでしょうか。手加減はしませんよ。僕だって、エースになりたい。この気持ちは変わりません。あなたを倒して、エースになります』
『よせ。ゼルド。私は戦うつもりはない』
『たとえスライムであろうと、侮ることなかれ。其方の剣は、志がなけれぱ、無力である』
『ごめんなさい。ユニム様…』
ユニムの脳内では、鬼のような形相のゼルドが向かってきていた。
そして、ユニムは起きた。
「よせ」
どうやら、寝ぼけているようだ。
そして、ゼルドは起こされた。
「ふえぇ、何がですか」
2人が飛び起きると、ブルースカイはそこにはいなかった。
ブルースカイどころか、キールトレインも見当たらない。
そこに突っ立ているのは、骸骨だけ。
「またのご乗車お待ちしております」
骸骨は、お辞儀をすると、カーテンのような物を空間から捲り、跡形もなく、まるで最初からそこにいなかったかのように消えしまった…
「なんだったん、ですかね?」
「行くぞ。ゼルド」
「行きましょうかユニム様」
その2人を遠くから、見つめる肩に「J」の勲章をつけた男。何者だろうか。
実は、ユニム達の貰った「誕生のチーマ」の勲章には、「Ⅲ」が書かれていることからも、階級はユニム達を軽く凌ぐだろう。隙を伺っているのだろうか。それとも………
―四皇獣・(フォーフォースエンペラー)について―
【四皇獣】
かつて、この世界「――セレスティアル――」には、四天王がいたとされる。四天王は、4体の獣に4つの力を与えたとされている。四元力とも呼ばれる。四元力とは、魔法の基礎であり、炎・氷・自然・雷の4つである。
それぞれが方角を示しており、東のトロイ、西のケラウノス、南のボレアス、 北のヘルとされている。守護神でもあり、方角以外にも何かを守っている。
また、四天王が与えたのは、四元力のみにならず、彼らには、異名がある。
・死杯のヘル―NORTH
・戦のトロイ―EAST
・疫病のケラウノス―WEST
・欺禍のボレアス―SOUTH