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41話 エンシェントの鼓動




~大地は躍動(やくどう)する、生きものと共に~




 大地を踏みしめて、大地の鼓動(こどう)を感じる。彼らは、わたしたちに呼応(こおう)する。呼びかけてくる。そこに声はないのに、感じとれるのだ。五感で大地を感じると、不思議と大地と一体化したような気分になる。


 耳をすませば、聞こえてくる。鳥や動物たちの鳴き声、葉の揺れる音、川のせせらぎ、水車の(きし)む音、人は大地に生かされ、大地と共に生きている。大地は生きている。


 大地は、(めぐみ)(もたら)すが、時として、人間に(きば)()くことだってある。それこそ、(わざわ)いであり()である。地震とほ、大地の怒りであり、山火事とは、大地の火傷であり、真冬は、大地の冷却であり、落雷は、雲の思考の伝達である。


 かつて、大地と共に歴史を歩んだ英雄達は、今どうしているのか………




~フォーチュリトス王国 エンシェント~



 その男、マスタングは、せっせと畑を(たがや)していた。休むことなく、毎日、毎日、長きに渡って、見据(みす)えれば、農業は、12ヶ月の周期で一巡(いちじゅん)し、生きていくために、植物も虫も動物も人間も必死なのだ。

 (すそ)(まく)って、傷が(あら)わになり、切り傷であることが確認できた。


 (ひたい)や、脇、背中から、汗が(したた)り、汗だくになりながらも、その田んぼを(たがや)す。


 自給自足というのは、精神と身体が双方共に、鍛えられる行為であるとマスタングは考えており、ギルドを抜けてからというもの、フィオーレ牛の乳を(しぼ)り、荒小麦(あらこむぎ)の畑の世話をし、水を汲んでは、クエルクスの(まき)割りをして、生活していた。


 彼は、このエンシェントを気に入っており、風情(ふぜい)のある田舎町(いなかまち)だと認識していた。


 かつて、マスタングと同じギルドに所属していたマサメヒは、マスタングと婚約(こんやく)関係になり、現在では夫婦だ。


 マスタングの実力は、フォーチュリトス王国の「天地国王(てんちこくおう)」であるアレキサンダーにも認められており、現「四権英雄(しけんえいゆう)」クロノスことネロが言っていた通り、繁栄蜂(はんえいばち)最強の二つ名は、決して比喩(ひゆ)ではなく、(まこと)であり、真実(しんじつ)であり、事実(じじつ)である。


 しかし、当人(とうにん)でさえ、その異名を信じておらず、階級にあまり興味がないため、どうでもよかった。


 廃止(はいし)された、ギルドの名は【セオドニア・Ⓑ】



 セオドニア・Ⓑ メンバー


(おさ) アレキサンダー


喧嘩屋(けんかや) アシナガ


(まなびや) マサメヒ


霊妙(れいみょう) ネゼロア


暴君(ぼうくん) スズメ


緑黄(りょくおう) ゾル


新米(しんまい) レナ


 そして、彼……マスタングである。


ギルド「セオドニア・Ⓑ」とは?

繁栄蜂(はんえいばち)」のみで構成された特殊ギルドである。そもそもギルドというものは、我々の世界にも実在したが、16世紀以降衰退(すいたい)したのだ。

 現在では、コミュニティや、ソサエティとして存在しており、ギルドという言葉が使われるのは主に、オンライン上で、ゲーム仲間と架空(かくう)のギルドを組むことが多い。



 彼が息を切らしていると、マサメヒがやってきた。


「あなた、そろそろ休憩しない?」


 肩を上下に動かしながら、マスタングは草原に座った。風が吹いている。


「そうだな」


「紅茶なんて、どうかしら」


 マサメヒは魔法瓶から、紅茶を木のカップに入れる。


「いいな。いい香りだ」


「紅茶が言っているわ」

「あなたが私を選んで、私があなたを選んだのって」


「ん?どういう意味だ?」


「意味なんてないわ。そこにあるのは、愛だけよ」


「愛か………」

「俺たちに子供は生まれなかったな」


「でもね、我が子のようなユニムちゃんがいてくれた。それだけで幸せよ」


「俺たちは、仲が悪かったな」


「それを間に入って、いつもユニムちゃんが止めてくれたのよね」


「そうだな。今頃ユニムはウノか」


――アレキサンダーはどうしている?


「心配ね」


「そんなことはない。『セオドニア・Ⓑ』のメンバーは、俺以外はみんな優秀だったからな」


「あら、あなたもよ」


 2人は、ここで朝食を取ることにして、マサメヒは、手提(てさ)(かばん)から、(つつ)み紙を取り出す。


「パニーノか」


「わたし特製なの」


「飯か。食べるか」

「…おっと、しまったな」


「え、どうしたの?」


「ユニムがサンタンジェロで言葉遣いを直されてるんじゃないかと思ってな。アレキサンダーは礼儀正しいからな」

「メシなんて、言わない。言わせないだろう」


「教えたのはあなたよ」


「確かに。そうだな」

「……ん?誰だ?」


 マスタングは、電気石を取り出した。


「どうしたのあなた」


「連絡だ」

「少し、席を外す」


【メープルシロップからです|】


――誰だ。蜂がよってきそうな名前だな


「もしもし、俺だ。マスタングだ」


「こちら、インペリアルハーツのメープルシロップだ」


「何ようだ?」


「ほう、他の者とは訳が違うな」

「流石だ。黄檗顎(きはだあご)のマスタングだったか?」


「昔の話だ」

「今は、異名なんてない」


「頼みがある」


「なんだ?」


「ユニムという女児を知っているか」


「なんだと?『インペリアルハーツ』にいるのか」


――マサメヒに伝えなければ


「現在は、『スーペリア』に向かった」

「もういない」


「なぜだ?」

「まさか、親がわかったのか?」


「何を言う。親は貴様だろう」


「俺はユニムの育て親だ」

「血の繋がっていないろくでなしだ」


「実はな――」


「わかった」


 マスタングは、電気石をしまうとマサメヒの元へと戻った。

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