40話 異世界人ネカァ
クロノスことネロは、不思議そうな顔でユニムを見つめていた。
「海内女王になりたいのか」
「セレストの話によれば、鍛えてほしいとのことだったが、予想以上に予想以上だな」
――ジーヌと同じ道を辿るか
「夢は見るものではなく、叶えるものだ」
――気前はあるな
「その通りだが……」
「ネロ様、聞いてください」
「ユニム様は、魔法が使えるんですよ」
「本当に…凄いんですよ」
クロノスこと、ネロはそのようなおぼろげな話を信じるわけもなく、腕を組んでユニムを見ていたが、すぐに視線をゼルドに移した。
「…魔法を使えるのはゼルドだ。ユニムは、行動力と判断力があるだけだろう」
間を置いて、そう言うとゼルドがあることに気がついた。部屋を見渡し終えると、ユニムの持っていたそれを見ては、俯いた。
「待ってくださいよ。ここってもしかして……」
「ジーヌの部屋だ」
「ユニム様、それは………」
ゼルドは察したようだ。
「黒剣士が映っているのだ」
ユニムが、「ゼクロスみたいなのだ」と、ニコニコしながら、自慢げにその絵をゼルドに見せる。
「えっと、ネロ様…この方は?」
「綺麗な方ですね」
「リボンに紺と白い服、見かけない格好ですね」
「黒い石を手に持っていますが、電気石でしょうか」
「電気石?とんでもない」
「これは、異世界より持ち込まれたものだ」
「かつて、雷帝のゲルブはその異世界からの物品から着想を得て、電気石を作ったとされる」
「魔法のようで、魔法ではない」
――異世界?比喩かな
「まさか、それって……」
「知っているのか?」
「いえ、知りませんよ」
「あの、よろしければ、ネカァさんについて聞かせてくださいよ」
「この絵はどこか不自然です」
「わかるか」
「ネカァは、自身の事を”ジョシコウセイ”と言っていたな」
「”ジョシコウセイ”がなにかは、わからんが……」
ネカァの容姿は、桃色のふっくらとした唇に、涙袋のある二重の瞳孔の大きな瞳、髪型は私達の世界で言う、外ハネのボブであり、黒髪だった。
だが、ゼルドにもユニムにもクロノスことネロとネカァの間にいるその女の子が、なぜ塗りつぶされているのか。わからなかった。
ゼルドは確信に迫ろうかとも、考えたが、もしかすると、ネカァは自分の母親なのではないかと踏んでいた。元妻という点に惹かれていた。もし、その後に、エクスを生み、自分を生んだなら可能性としてはあり得るからだ。
また、共通点として、黒い髪に白い肌が一致しており、瞳の色こそ違ったが、それは父親の遺伝と考えれば、説明がつく。
「ネカァさんは、どこにいるんですか?」
「北の果てだ」
「セレストに会ったのなら、四皇獣は知っているだろ?」
「関係あるんですか?」
「ネカァは、ヘルに会ったそうだ」
「何度も止めたがな…」
「会いたいのだ」
「よせ、帰ってこれなくなる」
「人が消えるのはもうごめんだ」
「話をするか。竜がどこから来たのか気にならないか?」
わざとらしく話題を変えるクロノスことネロ。
「え、あの黒い竜ですか?」
「気になるのだ」
2人はつられて、クロノスことネロのちょっとした仕掛けに気づかないでいた。
――あれ?なんか忘れている?
「その国の名は、ドラゴニクス」
「"リュウジン"の誕生した国だ」
「ネロ様が外側に行ったことがあるということは、外側は海ではないんですか?」
「四王国など井戸に過ぎない」
「セレスティアルは広い」
ゼルドは不思議に思った。四王国のはしからはしまで、一体どれくらいの時間がかかるというのか。
にもかかわらず、この男は、諺を用いて、私たちは井の中の蛙に過ぎないと言ってみせた。
それは、信じ難いことであり、目から鱗でもあった。
もちろん、目から出るのは、涙であるのだが、その涙さえ怯んでしまうほどの驚き。
口も心も固く閉ざされたまま。出口を見失っていた。
次の出口が見つからないのだ。出口は何処へ………
「気になったのだ。なぜ、おじさんはその事を知っていたのだ?」
「情報通のゼルドが知らないことをなぜ、おじさんは知っていたのだ?」
「ユニム、おじさんとは誰だ?」
「マスタングおじさんだ」
「ちょっと待て、今どこにいる?」
「わたしの家だ」
――かつて繁栄蜂最強と謳われたマスタングは、霧のように姿を隠し、煙のように消えてしまったと聞いていたが、まさか、この少女を育てていたのか?あの、マスタングがか?まさかな
「同じ名前か、そのマスタングは階級はいくつなんだ?」
「繁栄蜂なのだ」
クロノスことネロの疑心暗鬼は確信へと変わり果てた。
――マスタング、生きているのか
40.5話【閑話】ヒイロちゃん
「お母さん、あたしさお姉ちゃん探そうと思うんだけど」
ヒイロは、神隠しにあった姉を諦めきれず、母親に打ち明ける。
「いい加減、諦めなさいよ」
「なんで? 生きているかもしれないのに?」
「あの子はもういないの」
ヒイロは、当時女子中学生だった頃、姉と撮った写真をいまだにペンダントに入れていた。
忘れられない思い出。
ヒイロの姉は、歌が上手かったが、歌手になろうと努力している最中に忽然と姿を消した。
何日も何ヶ月も帰ってこなかった。
そのため、警察に捜索届を出し、某県M市全域を警察は捜索したが、その女子高校生と思われる人物は見つからず、打ち切りに……
「お姉ちゃん、どこにいるの?」
「お願いだから、返事をして」
ヒイロは高校生になり、姉のことなど、忘れるぐらい。部活や学業、アルバイトに追われていた。
ヒイロが、家の近所のコンビニでアルバイトをしていた時だった。
「弁当を温めてくれ」
「かしこまりました」
「店員さん、似てるな」
――話しかけてくる。変なお客さんだ。どうしよう
「あ、すまねえ。お姉さんに似てると思ったんだけどよ」
「え?」
レンジの音がする。
「ありがとよ。ここは平和だな」
「え、あの」
熱々の弁当を彼は、受け取り、他の客が自動ドアに向かってきたので、彼は、黙って自動ドアが開いたところを見計らって、帰っていった。
「待ってください」
「お姉ちゃん生きてるんですか」
その客の姿は、どこにもなかった。
そこに店長がやってくる。
「ちょっと、ちょっと、店番してね」
「あ、すいません店長」
レジに戻ると、割り箸が袋に包まれて、置いてある。
――いけない。さっきのお客さん
割り箸を持つと、裏に何か書かれていた。
『Ma sœur vit dans un autre monde.』
――これ、なんて読むの?
インターネットで調べてみると……
『姉は、生きている』
謎は残されたままだった。どこにいるのか。彼は、何者なのか。わからないことのほうが多かった。
その筆跡から、その人物を割り出そうと探偵事務所に行き、調べてもらったが……
「お伝えしにくいのですが、この外国の方は、配偶者ですか?」
「違います。私、まだ高校生です」
「そうでしたか、実はこの方2019年に……」
「あの、もう大丈夫です」
「お役に立てず、申し訳ないです」
ヒイロは、その人物の名前だけでも、知りたかった。外国人なのか?
だが、日本語を話していた。
彼は、一体……




