4話 謎の男ブルースカイ
「お主、神か?」
ゼルドは何を言っているのだと思った。発言が、胡散臭いとも思った。
しかし、ユニムが触れていたことで、ユニムのあのか弱い手が自分に触れただけで、ブラッドウルフを氷の塊にした。
それを見ていないのにも関わらず、さも見抜いたかのような。ふざけた発言。聞き捨てならない。
この男が普通ではない。只者ではないことは、瞬時に悟ったゼルドだったが、その発言はどうなのだろう。ユニム様が神様。同じ様でも、地位が違いすぎる。まあ、ゼルドはユニムに様様なのだが。
だが、是非には及ばなかった。ユニムの発言で、彼女の思想に感動してしまったからだ。
「私は人間だ。神は、空の彼方にいるのだ」
なんて、子供心あふれる非現実的な、抽象的な発言なんだろう。少し小馬鹿にしているような気がしないでもないが、男と女では、感性が違うのではないのだろうか。なんとも素敵だとゼルドは思った。
「ほう。面白い。いや、面青いと言うべきか。ふっはっはっはっ」
いやいや、つまらないだろう。本人は、それこそ面白いと思っているのか。僕だったら、面黒いなのか?と思案するゼルド。
それにしても、大層な笑いっぷりである。ゼルドの気持ちを汲み取ってほしいものである。
「ところで、どこに行きたい?」
ブルースカイは、ユニムが、拵えた開きっぱなしになった鞄を見つめていた。おそらくは、旅の途中か?等と考えている。
潮時か。そう一言だけ頭に浮かべ、ゼルドの口が僅かに動いたのを察知し、即座にそちらに視線を向ける。
「僕達は、フォーチュリトス王国を目指しているんです。階級試験を受けるために」
「ふっはっはっは」
どこが面白かったのだろうと考えていると…
ブルースカイは、急に真剣な顔つきになった。今から、一体何が起きるのだろう?
ああでもないこうでもないと考えていると…
「………悪いことは言わん。やめておけ」
「なぜだ」
ユニムは、いつだってそうだった。自分の信念を曲げない。やめろと言われようが。
そこに屈しない信念があるかぎり、諦めることを知らなければ、反対を受け止めることもしない。
それが彼女なのだ。
「なぜですか」
ゼルドも続けて訊ねる。
「お主らがどうなるかは、知らん。
「しかしなあ、考えてみ。
「例えば、わしが0を言ったとする。
「お主らの頭に浮かぶのはなんじゃ」
「0ですね」
「うーん」
この男は何を考えている?ゼルドは、ブルースカイの余裕そうな顔つきから、上手い具合に断られる算段を並べられているのだと思った。
「では、1を言ったとする。
「すると、どうなる」
「あ、わかりました」
「2,3,4と続きがあります」
「数式が見えてきます」
「ゼロにはなかった、数字が見えてきます」
家に返されるのだろう。そうとしか、思えなかったのだ。もちろん適当だった。
ゼルドは安直に答えた。
「ふっはっは。面白いのう」
「で、お主はどうなんじゃ」
面白い?なんだ、面青いとは言わないみたいだ。僕は、当たり前のことを言っただけだ。
ユニム様はなんて答えるのだろうか………
「………」
ユニムは考えているが、わからなかった。
が、1つだけわかったことがあった。
「そこに0があるならば、そこに正もあるならば、そこに負だってあるはずだろう。
「マイナスだってあるはずだ」
「ふっはっはっはっ。いいのう」
「どういう意味だ。笑い者にして面白いのか」
ブルースカイはおもむろに懐中時計を取り出した。時間を確認しているようだ。何のために?質問の意図も、その行動が何を意味するかも分からないが、彼は2人を見つめると、微笑んだ。
「―――合格じゃろう」
「何の話ですか」
「わかるじゃろう。
「階級試験じゃ。
「すでに始まっておる。
「わしは、元四権英雄。
「賢者のブルースカイと申す。
「以下、神妙に宜しく頼もう」
手を差し出してきた。それこそ、聞き捨てならない。あの四権英雄?それに賢者?ホラ吹きにも程がある。
しかし、魔獣を従えているのも、これまた事実。
この男は、真実を口にしているのか。だとすれば、だとすると………
「えっと…」
ゼルドは思考がまとまらない。強引に握手を2人はさせられた。
「わかっておる。
「ウノじゃろ?
「連れてってやるわい」
こんな簡単でいいのか。疑問に思うゼルド。
一方ユニムは、納得していなかった。
「おい。おじいさん。そんなわけないだろう。誰が信じるのだ」
「まったく、誰に似たんだ。
「頑なだなあ。
「いいだろう。取り消すか?」
「あの、ユニム様…」
「質問1つでチーマになれるわけないだろう」
ん?チーマ?ゼルドの頭にある言葉が浮かんだ。
「あれ?いや、待ってくださいね。そんな、まさか。ちょっと待ってください。確か、伝承にはこうあります。
『人間は二度生まれる。1度目は、この世に生を授かった時。つまり、誕生した時。2度目は、人生に意味を見いだした時』
これって………」
「そういうことじゃ。ふっはっはっはっ」
「賢いユニム様、お気づきですか」
「私は断じて、賢くない」
断じてを強調している。ユニムは、謙遜しているのだろうか。
「わかりました。階級試験を志した時点でチーマになることは、確定しているんですよ。つまりですよ。フェブからチーマになったということは………」
「やり直しだ」
「ほう、やり直す。
「と、申したか。
「どうする?」
「ちょっと待ってくださいってば、一旦僕の話を聞いてください。
確かに、階級試験の詳細は公には、語られませんよ。
しかしです。僕達は、チーマになったということを証明できないんです。
このままウノに行きます。
そこで、チーマです。と言っても、門前払いをくらうわけですよ。
ブルースカイさん。どうしてくれるんですか。と、ユニム様は言いたかったんですよね」
「ぐぬぬ………」
ユニムの心の内が気になるところである。
「一応、チーマだからのう。用意はしておったんじゃが、最後に渡すつもりでおった」
ブルースカイは懐から、何かを取り出した。
「もしかして、これが………」
何度も新聞で見た。街中でも見た。欲しくて、欲しくてやまない。これこそが………
「そうじゃ、チーマの勲章じゃ」
素直に受け取るゼルド。
「ありがとうございます」
「私は、納得いかないぞ。ゼルド何してるんだ。偽物かもしれないではないか」
と言いながら、鞄にしまうユニム。
「ほーれ、しまっておるではないか」
ブルースカイとゼルドは、目を見合せ、笑い合った。
―オブシディアン・スライムについて―
キールトレインに乗っていた、ゼルドが見つけた、黒いスライムは、紛れもなくオブシディアン・スライムである。彼らは、黒曜石屁泥と表記され、普通のスライムとは、一線を画す。
その名の通り、黒曜石でできたスライムである。とても硬いが、動きは鈍い。
剣に強く。物理がほぼ効かない。鉄では、刃がイカれてしまうだろう。
ただし、もし倒すことができたなら、高い値で売れるので、動く宝石とも呼ばれる。
ツルハシで戦うことを推奨する。
「――セレスティアル――」のスライムの貴重な種について、紹介する。
【オブシディアン・スライムマン】
真っ黒な泥で構成されており、シルエットは人間なのだが、顔がない。
彼らは、人型であることから、オブシディアン・スライムの鈍いという弱点を克服しており、素早い。
全身が泥のようであり、骨や筋肉、内蔵といった機関が存在していないことからも、自由自在に体を変形させることができる。
オブシディアン・スライムの特徴を顕著に受け継いでおり、物理攻撃を察知した瞬間、硬くなる。
もしくは、体を変形させて、避けてしまう。そのことからも、物理が効かない、通らないとされている。
彼らを倒すには、"知恵"が必要だ。