表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
TWO ONLY TWO 唯二無二・唯一無二という固定観念が存在しない異世界で  作者: VIKASH
【階級試験篇】:ルドベキア

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/155

36話 心とは脆弱であり堅牢である




「完全じゃない。完全じゃない。わたくしは、不完全だ。どうしてですか」

「わたくしは、人間になりたいだけなのに」

「人間になって、人生を謳歌(おうか)したい」

「美味しい食べ物が食べたい」

「あたたかいベッドで眠りたい」

「熱いお風呂に入りたい」

「人間とは?人間とは?人間とはなんですか?」

「わたくしは、人間じゃない。どうしてですか」

「見た目は人間ですよねぇ」

「そこの少女にそっくりだ」

「ああ、また入りたい」

「中に入りたい」

「人間の中に入ると、気分がいい」

「内側から五感を感じ、あわよくば脳をも乗っ取ってしまう」

「これほどの快楽(かいらく)が他にあるでしょうか」

「ああ、もう一度その味を」

「舌が(うな)るようなあの味を」

「最後の晩餐(ばんさん)に食べたくなるようなこの味を」

「いただきたいのです」

「人間こそ最高の食材にして、(むくろ)なんですよぉ」


 誰が聞いても、彼の発言は、狂っている。見た目は、うねうねしている。狂気を体現したかのような見た目だ。目を(そむ)けたいが、怖いもの見たさで見てしまうような。そんな見た目をしている。


 彼の全身を(おお)う泥が、黒いユニムの体をとどめてはいるが、先端(せんたん)が丸い何本もの棒が出て、とげとげになったり、雑巾(ぞうきん)のように見えない力で、ぎゅっと握られたかのような螺旋(らせん)状になったり、(いびつ)な手や、人間の顔と思わしきもの、また、人間の骨のようなもの、臓物(ぞうもつ)のようなものが体のあちらこちらから突き出たりしている。魔人”サターン”は人間と主張しながらも人間とは思えない様子(ようす)だった。


――これが、魔人


 同じ魔人でも赤人狼(ブラッドワーウルフ)のファングとは訳が違う。

 どちらかというと、アダマスのゴールドコーストのウラヌスに近かった。見た目は、人型で二足歩行なのだが、外見や発言が魔獣に近く、一部視覚器官を有していたり、言葉を話すことができる。

 ファングは、狼が哺乳類ということもあるのか。赤い瞳(ブラッドアイ)以外は、完全な人間だった。

 確かに、猿のように毛深い手脚こそあったが、人間に近い知性を持っていた。


 ゼルドは、右肩を左手で抑えながら、電気刀剣を片手で持ち、(するど)眼差(まなざ)しで、その黒いユニムを見ていた。

 息を吸っては、吐く。その動作を繰り返している。


「あなたの方法が間違っているからですよ」

「サターン、あなたは、間違っている」

「ぼくは、あなたを許さない」

「魔人は、魔人なんです。人間でもなければ、魔獣でもない」

「そのことをあなたが誰よりも一番知っているはずだ」


「見た目が命の恩人(おんじん)の姿をしているのに……あなたに何ができるんですか?」


 サターンとユニムの声が混ざり、別の何かへと変貌(へんぼう)していく。


「ユニム様の、見た目をしていても、あなたは本物のユニム様じゃないです」

「ユニム様の化けの皮を被った魔人だ」

「ちっとも怖くない」

「ぼくはもう、恐れない」


 ゼルドは、サターンめがけて電気刀剣(でんきとうけん)を何度も、何度も、何度も、振り続けるが、どれも当たらない。


 黒いユニムの体に穴が()いては、その穴を電気刀剣が(とお)っていく。


 物理攻撃が()かないとは聞いていたが、当たらないのでは、そもそも効いているのかもわからない。


 ゼルドとしても、顔はユニムにそっくりだったため、狙いたくはなかった。

 だが、体は貫通(かんつう)する。泥とは思えない素早い動き、自身の攻撃はどれも当たらない。

 もう狙うのは顔以外なかった。


 サターンこと黒いユニムの視界の外から、思いっきり、黒いユニムの顔めがけて、左手を肩から離し、諸手(もろて)で電気刀剣を振りかざした。


――当たった


 かと思えば、またあの不気味な笑いが聞こえてくる。


 黒いユニムの顔が口裂(くちさ)け女のように狂気じみては、「ふっふっふっ」と笑っている。


「お見事ですねぇ」

「当たりましたねぇ」


 パチパチパチと馬鹿にしたような拍手をしているサターン。ここにきて、賞賛――?彼は何がしたいのか。ゼルドは、違和感に気づいた。電子刀剣で黒いユニムの頭を切ったはずだ。

 だが、何が起きたのかと思えば、電気刀剣が振れない。動かない。動かせない。微動だにしない。


 渾身(こんしん)の力を込めて電気刀剣を振ったので、ゼルドはサターンの正面から()れた左を見ていた。


 視線をサターンに戻すと、顔が…顔が……


 きらきらと輝いて、鉱石(こうせき)のようになっている。


「そんな、これは、黒曜石だ………」


「わたくしが、なんの魔人かおわかりでしょう」

「通称…オブシディアン・スライムマン」

「またの名を魔人サターンですよ」

「ええと、他にも、ファントム?ナイトメア?オプス?」

「フォーチュリトス王国の『海内女王』"黒拳(こっけん)のアルジーヌ”さんとも手合わせしましたが、わたくしの特性である」

(じゅう)には柔を。(ごう)には剛をもってすれば、怖い物知らずです」

「彼女は知らなかったでしょう」

「女闘士最強と(うた)われても、どれだけ強い(こぶし)を放っても、わたくしのまえでは、無力………」


「いえ、まだです」

「こちらには、ユニム様がいる」

「ユニム様」


 サターンは、苦笑いをしている。いつものように、不敵な笑みは浮かべていない。ばつが悪いのだろう。


――起こさなければ、起きてくれれば………


 ゼルドは、追ってくる魔人サターンから逃れるため、ユニムに最短距離で近づくため、直線状に喫茶店内を走った。

 途中で、クロノスを横切ったが、だんまりだ。

 だが、腕は組んではいなかった。

 どういうことだ?と考える(ひま)などなかった。


「ユニム様」


 その瞬間、ゼルドはユニムに触れた………


 ゼルドの心の奥底から、怒りが、憎悪が、目つきとなった滲み出ていた。


 体の形状は変化し、半分人間。半分狼と言ったところだろうか。モジャモジャの毛が生えては、爪は鋭く伸び、(きば)がキラリと光る。その牙から、よだれがしたたり落ちる。


 水色の瞳が印象的な黒い狼。


 電気石は持ったままだ。


「ガルル…」


「それがあなたの本来の姿ですねぇ」

「本性を現しましたねぇ」

「スライム対ウルフ」

「力の差は、歴然(れきぜん)ですが、果たしてどうなることやら………」


 (おおかみ)になったゼルドがユニムに近づく………


「ユニム様、モフモフのお時間ですよ」


 ユニムが、ごちそうを前にしたかのように、目を大きく開き、電気刀剣を持っている自分自身に驚きながらも、魔人サターンと狼ゼルドを交互に見ては、再び驚き、またゼルドを見ては、「モフモフなのだ」と言って、頬ずりをし始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ