30話 碧眼のゼルドとゼクロス
「七光じゃないですか」
ゼクロスは、一瞬目を丸くしては、堰を切ったように、照れくさいのか、左手で頭を掻いた。
「虹のことか。見たいのだ」
ユニムが空を見上げている。「どこだ」とキョロキョロ探して、ゼルド達の間に入ってきたので、彼が手でユニムを制して、反対の手でゼクロスを示した。「どうぞ」という意味合いであろう。
「ああ、あはは。まあ、はい。そうっすね」
「ところで、フォーチュリトスのユニムさん、ゼルドさん。階級試験を受けるんすよね?」
「俺っちが、”彼”のところまで、案内するっすよ」
微笑を浮かべながら、ゼルドの顔を見るゼクロス。
彼は、ユニムの青い髪を見ると、物珍しいのか。すこし、興味深げに見つめていた。
それに気づたユニムが「なんだ」と言いたげに頬を膨らましたが、ゼクロスは笑ってその場をやり過ごす。
ゼルドは思った。こうして、見比べてみると、クロノスは、今は兜をしているので、顔は見えないが………随所が似ている。瞳の色、青色だ。髪の色、黒色だ。肌の色でさえも、明るめの褐色で、見当違いだったのではと、的外れではないかと考える。
なぜなら、ゼルドの肌の色は、白いからだ。
ゼルドが、拳を作ってそれを顎にあて、考えていると………
「あの、長旅ご苦労さまっす」
「え、ええ」
ゼルドはいつもの癖で、ゼクロスの階級を知るため、勲章を探してみると、左肩に「Ⅹ」の勲章をつけていた。
もちろん、スーペリアの剣の紋章もしっかり身につけていることが見受けられた。ちなみに、スーペリアの紋章は「♠」である。
ゼクロスが「界十戒」とわかったため、ゼルドは質問を投げかけることにした。
一方で、ユニムは、クロノスとなにか話している。クロノスは適当にあしらっているようだ。
「ありがとうございます。ゼクロスさんも、待ちくたびれたんじゃないですか?」
愛想よく、ふるまう。
「いやあ、全然っすよ」
笑いながら、こちらを振り向き笑顔で首を振るゼクロス。
先程確認したが、まるで今気づいたように、勲章をわざと見つめた。
「へえ、『界十戒』なんですね」
「確か、先程ご自身で『強い』っておっしゃってましたよね」
「ぼくは、『誕生のチーマ』なので、正直、上の上の実力なんて知りもしませんが、四権英雄の”日輪の剣士”メープルシロップさんは、『強さ』の理屈がわかりませんでした」
ゼクロスは、二三度ほど頷くと………
「あ、うす。そうっすよ。あの、”日輪の剣士”ですか?」
「ネ…父上である。クロノスと肩を並べるっすからね。俺も意味わかんないっすよ。へへ。戦ってるところでも見たんすか?」
ゼクロスは一連の出来事を知らないようだ。
――ネ?なんだろう。
ユニムの目の前にトシの糞が落ち、「おい」と怒鳴っている。
歩きながら、ゼルドは咳ばらいを一度だけすると、その炯々とした目つきで、ゼクロスを見た。
「よろしいですか」
ゼクロスは少し驚いている。
「え、あ、はいっす」
「ぼくからすれば、あれはしのぎを削っていました」
「しのぎを削る………」
「ですが、傍から見れば、一方的な負け戦だったでしょう」
「ぼくが、変貌するまでは………」
「えっと………なにがあったんすか?」
「落ち着いて聞いてくださいね」
「え、はいっす」
「ぼくは………」
「?」
「ま………」
「モフモフなのだ」
「ユニム様、大事な話をしているので………え?なにしてるんですか?」
珈琲鷲のトシが、ユニムの肩にとまって、ゼルドを見ている。
「ピィ」
ユニムに懐いているらしい。
「で、それはいいとして。あの、トシだか、タカだか知りませんけど珈琲鷲はほっといて………」
「――ぼくは、魔人です」
「そうっすね」
「え?なんで驚かないんですか?」
「聞いてたんで」
「あと、”彼”も魔人で、俺っちの友人なんすよ」
「へへへ」
「そうでしたか………」
「アル姉ちゃんとその魔人は相性最悪で、アル姉ちゃんも珍しく諦めてましたからね。へへ」
あの、フォーチュリトス王国の「海内女王」の「黒拳のアルジーヌ」が倒せないとなると、余程の強敵なのではないのだろうか――?
四人と一羽は街並みを歩いていく。背の高い建物が並んでいる。壁は白く、屋根は黒い。つづまやかな外観だ。
『鉄の貴婦人』はここからでも見ることができる。
待ちゆく人は鎧を着ている。話す人。歩いている人。鎧や剣を品定めている人。売る人。購入する人。千差満別だ。
誰もが足を止めては、見返している。クロノスのことを皆が知っているのか。跪き忠誠を誓っている。
「ゼクロス、ル・シエルに行くか」
「そうですね父上、ゆっくりしたいですよね」
「るしえる?なんですかそれ?」
「天使みたいなのだ」
「ル・シエルはスーペリア語で『空』って意味なんすよ。そこで、ゆっくりお話しするっす」
「ぼくは構いませんが……ユニム様どうされます?」
「行くぞ」
「かしこまりました」




