3話 立ちはだかる赤狼
「ユニム様、僕も名前だけなら聞いたことがあります。
あの背格好は、古代種の狼に似ていますが、赤狼というんです。
血肉を喰らい、共喰いも躊躇なく行うことからと、その名前がつけられたそうです。それでですね……」
ゼルドの長い説明が始まった。ユニムは、辛抱強く聞いていた。
この街オルダインの「漆黒の森」には、ブラッドウルフは存在していない。
「漆黒の森」
朝も昼ももちろん夜になっても、日光が届かないことから、石炭のように黒いことから、漆黒と名づけられた。
四王国の人々からは、心霊スポットとして、人気であり、幽霊が出るとか、出ないとか。
森の生物や、夜行性の生物が活動しやすいので、私たちのよく知っている。樹林や、森とは、違った生態を拝むことができる。
生物形態は多種多様で、この世界「――セレスティアル――」ならではの、生き物が多くいる。
つねに視界が漆黒なのは、木々が大きく、また、太く、葉っぱが幾重にも重なって、層のようになっているため、自然の屋根ができているのだ。雨宿りにも最適だが、魔獣が多いので、キャンプの際は、ご用心を…
この赤狼は、腹を空かせて、のこのことやってきたのか。珍しく生まれたのか。
かつて、魔王に仕えていた者達の仕業なのかは、わからない。
赤狼は人間であろうと、自身より体の大きい動物であろうとも、襲いかかる。
元より、赤狼の古代種が返り血を浴びたことにより、体毛が赤く染まったのではないか。と、考えられているが、真偽の程は、わからない。
「ユニム様、聞いてくださいよ」
「急になんなのだ」
「魔法はご存知ですか?」
「知っているが、そんなものはないはずだ」
「いいえ、それがあるんです。
所在の分からない賢者達は、魔法が使えたとされています。
そしてなにより、賢者の1人に青髪の賢者がいたとされているんです。もしかしたら………ユニム様は」
「何を言っているんだ。
ゼルド。私は、生まれてこのかた魔法というものは使ったことがない。そんなものあるわけないだろう」
2人にブラッドウルフが襲いかかる。
「きゃ…」
ユニムは、必死の思いで、ゼルドの背中に触れて、身を守ろうとするが、このままでは、ゼルドが危ない。
と、思われたその時だった。
「安心してください。ユニム様。もう大丈夫です」
ゼルドは、食われたが、相打ちになったのではないか。
背中から、触れたゼルドの体温は冷たかった。
ユニムは、なぜ冷たいのか。わかっていた………
ユニムは、涙を一滴垂らすと、溢れてでてきそうな、大粒を手で覆い、こらえた。
「ゼルド………」
ゼルドの前身を見ることはできなかったが、ユニムはゼルドを強く抱きしめた。
「え、どうしたんですか?」
ゼルドは鼻の下を伸ばした。
「食われたのだろう」
「いや、まだ食べてないですよ。お腹ぺこぺこです」
笑っていた。この状況下で笑うなど、気でも狂ってしまったのだろうか。発言もおかしい。
きっと、ゼルドは強がっているのだと、私を安心させるために、平気でいるのだと、ユニムはそう思っていた。
あまり見たくはなかったが、ユニムは視線を上へと移していった。
「え」
ゼルドは、食われておらず平気そうにしており、傷ひとつなかった。
どうやったのか、と、考えていると、ゼルドの背後に大きな氷の塊があった。ユニムは近づいていき、よく見てみると赤い眼が光っていた。
間違いない。ブラッドウルフだった。ゼルドがどうやったかは、知らないが、瞬時に魔獣である、ブラッドウルフを氷漬けにしたようだ。
「ゼルド、どうやったんだ」
「え、ユニム様じゃないんですか?」
「私は、何もしていないぞ」
「僕は、手を交差して、身を守っていました、そしたら、ぼくに触れた瞬間ブラッドウルフが凍ったんですよ」
なんとも信じがたい話だったが、ユニムは目の前の光景を見て、信じる他なかった。
「そんなことがあるわけがないだろう」
「そのまさかなんですけど、この目で見ましたから。ぼくって魔法使えるんですか?って、違いますよ。
これは、ユニム様が無意識に行ったんじゃないですか?」
論争が尽きない。2人が話していると、遠くからカタカタと音がする。何の音だろうか。
「やあ、こんばんは。ちょっと失礼。止まりますよ〜」
「うわぁ」
2つの明かりが見えた。どんどん近づいくる。
「なんですか?あれ」
その光は、急停止すると、姿を現した。
骨の列車に乗った骸骨が服を着て喋っているではないか。
骸骨の目は妖しげに光っており、こちらの様子をうかがっている。
「こちらは、キールトレインです。まもなく発車します」
「どうします?ユニム様。」
「乗ってみるか……」
「ご無理なさらずに。歩いていきましょうよ」
ユニムは、その発言にイラッとしたので、間髪入れずに、乗ると即決した。
「なあ、骸骨。この骨列車はどこに行くんだ」
「えっと、『エンシェント』を通って、『ウノ』を………」
ユニムは、その発言に、言葉を発さずにはいられなかった。
「ウノ」とは
フォーチュリトス王国の王城街であり、売買が盛んに行われている。
売買と一言で言っても、使われる品々は農産物ばかりであるが、「ウノ」には、高い階級の人間も多くいる。
そこに行けば、階級試験について、何かわかるかもしれない。
ユニムは、そう打算を踏んだのだ。
「いますぐ出発してくれ」
「キールトレイン発車いたします。足元にご注意ください」
車内を見渡すと、魔獣だらけであった。
「あれは、スライムですかね。黒いですけど。
コボルトに。
ゴブリンまでいますよ。
でも、不思議ですね。寝ていますよ。なぜなのでしょう。え、あれは………」
ゼルドの視線の先には 大きなおじいさんがいた。何者なのだろうか。
「お、なんじゃ気づいたかのう。」
「だっ、誰だ」
ユニムが素っ頓狂な声を出す。
「わしか、いいだろう。
ブルースカイと申す。このキールトレインを操っておる。
さて、どこに行きたい?
お、なんだ。お主。わしに似ておるな。
さては、氷か?」
「あれは、その…」
なぜわかるのだろう………と、疑問に思っていると、その男ブルースカイは、ユニムを見て、目を見開いた。
口をポカンと開けて、間抜けな顔をしている。
「な、なんじゃ。お主は」
「私は、ユニムだ」
「聞いたことがないのう。どこ出身かの?」
「エンシェントだ」
「ほう、そうじゃったか」
ユニムとブルースカイが青髪であること、ブルースカイが、このキールトレインを操っていると発言したことからも、ゼルドは、訝しんでいた。