29話 才色兼備の才女と才気煥発な青二才
「トシは何才なのだ?」
ユニムは、トシを見つめてはその問をいつまでも繰り返している。
「・・・」
「トシはなんさ………」
「ピィーーー」
愛想尽きたのか。トシが鳴いた。耳を塞ぎたくなるほど、頭に響く鳴き声だった。猛禽類特有の声だ。
トシは、ユニムに怒っているわけではなく、どうやらなにかを見つけたようだ。
トシの視線の先をユニムが追う。
雲の下に影がある。黒き竜が雲を抜けると、地面に4つの足を付き立てている塔があった。
私たちを待ち構えていたかのように。
まるで歓迎するかのように姿を現した。
塔はその都の真ん中に佇んでおり、その大きさから、近くなのではと錯覚してしまう。上から見た塔は、剣のようであり、塔の名は………
『La Dame de fer』…「鉄の貴婦人」と呼ばれている。
「…ついたな。ここが、『スーペリア』だ」
「凄まじく大きいですね。なんですかこの塔は。ぼく、一切知らないですって」
「なんでスーペリアって情報一切流さないんですか?どうしてですか?クロノス様」
兜は動かず、溜息だけが聞こえてきた。
「知らん。国王に訊け」
「クロノス様。ためいきをつくと幸せが逃げてしまいますよ」
「いいか。ゼルド。幸せは逃げるものではない。平等に訪れるものだ」
ゼルドが感心していると、誰かがこちらを見ている。
黒き竜は、ゆっくりと地面に近づいてく。
その若者は、風圧で今にも飛ばされそうだが、周りの建物はビクともしない。頑丈な造りなのだろう。
「あ、おーい。ネ………」
「その名前で呼ぶな。ゼクロス」
クロノスの怒号が響いた。
「なるほど。たしかに。『士正義のエイリル』まで、名前は教えないという約束でしたからね。では、クロノスと言う名前は?いかがなんです?」
「答えるまでもない」
「そうですか。楽しみにしています」
ユニムが若者ことゼクロスに向けて手を振っている。
「ゼル………ゼクロスだと、男前ではないか」
名前を間違えている。動揺しているのだろうか。ユニムの瞳孔が開く。
「聞こえるっすかー?」
「聞こえるぞ」
一番はユニム。その次に、ゼルドの声が聞こえる。
「はーい。聞こえますよぉ」
だらけた、気のない返事だ。
――あれ?どこかで見たような?でも、思い出せない。
エクスの時とは違うこの違和感、どこかでこの顔と似た顔を見たことがある。いつだろう。ゼルドは思い返してみるが、思い出せない。
人間とは、忘れっぽい生き物だ。いつかの賢者も「人間の最大の能力は忘れることだ」と言っている。誰だったか。ゼルドと同じく、私も思い出せない。
そして、ゼクロスという名前………
ゼルドに似ている。
一旦整理すると――
〈ゼルドの頭の中〉
・エクスくん…僕と顔が同じだが名前が似ていない。父親も違うと思われる。
・ゼクロスさん…誰かに似ているような気がする。――だけかもしれない。ゼクロスと言う名前は僕と似ている。髪の色も同じだ。父はクロノス様らしい。確かに、クロノスとゼクロスという名前は似ている箇所がある。
次に、ゼクロスさんに関して考えられるのは、母親こそわからないけれど、クロノス様がもし自分の父親なのだとしたら、彼からヒントを得られるかもしれない。
そう思う理由として、瞳の色が似ているから。クロノス様は青い瞳をしているが、僕はそれに近い水色の瞳をしている。母親からの影響なのかなあ。
それとも、祖父母からの影響か。何かしらのヒントを得たい。
だけれど、クロノス様からは、そのような情報は一切得られない。ゼクロスさんに関しても同じだと考えるべきなのだろうか。
いや、エクスくんとゼクロスさん………ExとZecrossと僕の名前、Zeldは、何かしらの共通点があるんじゃないかなあ?
エクスくんとゼクロスさんは、「ク」と「ス」が入っている。また、僕とゼクロスさんは、最初の音が同じだ。「ゼ」から始まる。
そして、今気づいたけど、「e」という文字は、エクスくんとゼクロスさんと僕にも入っている………これはつまり、三人は片親が同じ――?と思ったけど、なんか違う気がする。
黒き竜から慎重に降りると、ゼルドはゼクロスに歩み寄る。
顔と顔の距離が近い。もはや近すぎる。
「な、なんすか………?」
「ぼくのこと知ってますか?」
ゆっくうりと低い声で尋ねるゼルド。
「あ、聞いてるっすよ。電気石で聞きましたからね。ユニムさんとゼルドさんっすよね」
「どうも、強いらしいじゃないすか。まあ、凄いらしいすけど、俺も強いんすよ。へへ」
「姉貴にはいつも負けたっすけどね」
「言われましたね。威勢のいいこと言うと、『冗談は顔だけにしろ』って………へへへ」
「誰から名前をきいたんですか?」
すばやく、探りをいれる。まるで刑事さながらの問いかけである。
「いやあ、照れるっすね。アルジーヌ女王っす。うす」
「え?」
「あのー、お姉さんってもしかして」
「アル姉ちゃんがどうかしたんすか?」
「はい?」
「『どうかしたんすか?』じゃないですよ。お姉さん?なんですか?俄かには信じがたいいですよ」
「え、嘘ですよね?」
「マジっすけど」




