28話 珈琲鷲のトシ
『目を覚ますのじゃ……』
――ここは?どこだ?
『目を覚ますのじゃ……』
――あなたは誰なんですか?
『じきにわかるのじゃ……』
『ゼル……』
――ユニム様の声だ。
「はっ」
寝起きはよく、まるで自然と目が覚めたようで、広い竜の背中の上に乗っていて、空高く飛んでいるのがそこから伺えた。
もちろんそこにはユニムとクロノスの姿があった。2人は何かを話していたが、はっきりと聞こえない。
「ゼルドが――」
ゼルドが……なんだろうか?よく聞こえない。ゼルドは訊いてみることにした。
「ユニム様。ぼくのこと呼びましたか?」
「呼んでいない。寝てたら、聞こえないぞ。惰眠を貪っている場合か」
「そうだな」
「わかりましたよ。ぼくは、アキレス三典裁判所に連れていかれるんですよね」
「よく知ってるな。だが、違う。アルキメデス魔法学校の上空だ。これから、士正義のエイリルの階級試験に向かう」
「え?大丈夫なんですか?違反してませんか?」
「4人で話し合った結果…」
「え?」
「問題ないそうだ」
あれが、問題ない?そんな馬鹿な……ゼルドは1人思う。
剣に映った忌まわしき獣のような姿はなんだったのか。自分だったのか?
やはり、自分だったのか。と、確認するために質問を投げかける。
「あの、黒の崇高な剣士様……」
「クロノスで構わんが」
「あ、はい。クロノス様。ぼくになにがあったのですか?」
「考えられるのは、もとから魔人の素質があったか、どこかで、魔人の遺伝子を取り込んだかだな」
「さては、取り込まれたか。オルダインの、あるじだったか?その亡霊かもわからん奴は、謎が多い。ゼルドで実験をしていた可能性はある」
「でも、どうしてそのようなことを……」
「では、もし自分が魔王の幹部や手下だったら?四王国が分裂し、力が弱まった時に、それぞれに軍隊を派遣すれば、国家転覆を狙える。それどころか、軍勢は魔王に傾くだろう」
「なるほど、そういうことだったんですね」
「黒剣士。ゼルドはどうなるのだ?わたしは、もっとモフモフしたいのだ」
横からユニムが口を挟む。
「何を言っている。ひとまず、人間としての出身はフォーチュリトスのオルダイン……こちらも、まずありえないが、魔人になったのは、インペリアルハーツだ」
「現在、ゼルドは、インペリアルハーツの管理下にある」
「管理下?でも、今スーペリアに向かっていますよね?」
「ああ、監視として『天王子』のティタインのトシが同行している」
黒き竜の後方を見てみると、鷲のトシがいる。トシは、頭部全体と脚と尾羽根以外は、茶色で覆われており、頭部は白色の毛がフサフサと生えていて、脚は食べ頃のバナナのような濃い黄色だ。尾羽根は、頭部と同じ白色だった。鋭い目つきでこちらを見ている。
「スーペリアまで、少しかかるな。それにしても、ゼルド。なぜ、魔法を使わなかった?」
「まほう?魔法なんて、ぼく使えませんよ」
「使ったのだ。わたしがこの目で見たのだ」
「なんのことですか?」
「覚えていなのか。そうか。まあ、なにはともあれ階級試験でわかるだろう」
「は、はい」
ゼルドは、2人の言っていることが飲み込めなかったが、今回ばかりは、有耶無耶にしていいのではないかと思っていた。魔法のことも、魔人のこともあまり興味が持てなかった。
「黒剣士。わたしは魔人になれるのか?」
「なってどうする。利点だけのように感じられたか?不利な点だってあるぞ」
「そうなのか。あぁ、モフモフしたいのだ」
モフモフ中毒者ユニム。
「階級試験についてだが、『魔獣と戦う』と言っていたのは、覚えているか?」
「もちろんです。覚えています」
「もちろんなのだ」
「それについてだが、少し変更点がある。ゼルドの実力を考慮し、魔人に変更する」
「え?ちょっと待ってくださいよ」
「やった。モフモフできるのだ」
「ちょっとユニム様。クロノス様、どんな魔人なんですか?ユニム様、魔人の詳細を訊いてからでないと、糠喜びになってしまいますよ?」
「んー」
「返事は"はい"ですよ」
「"わかった"なのだ」
「そうですね。はい」
「その魔人もかなり特殊なほうでな、出生がわからん。どうやって誕生したのかわかっていない。ある時、息子が気味の悪いナニカを連れてきた。と、思ったら魔人だった。一般的に、魔人には、名前があるが、彼は……」
「ん?なんですか?」
「なんだ?」
「名前が多くてな、ファントム、ナイトメア、サターン、オプス……」
「サターンが一番カッコイイのだ」
「えーファントムですよ。サターンって、悪魔みたいじゃないですか。ファントムって、いかにも魔人って感じがします」
「サターンだ」
「仕方ないですね。今回ばかりは、譲りますよ」
「そのサターンはどのくらい強いんですか?正直まだ、『士正義のエイリル』の階級試験ですし、ぼくはたいしたことないので……」
「手強いぞ。物理が効かない」
「はい?どうやって戦うんですか?」
「それを見つけてくれ」
「なるほど」
「ユニム様さっきから何してるんですか?」
「トシー」
ユニムは、珈琲鷲のトシに手を振っている。トシは、ユニムには、目もくれず、そっぽを向いた。




