25話 これより四王国会議を始める
3人は、ワインを飲み終えると目つきが変わった。
まるで、何かにとりつかれたように一点を見据える。
黒の崇高な剣士はというと、頭に被っている兜を外した。
円卓でゴトッと音がしたかと思えば、彼はワインをぐびぐび飲む。
どこか懐かしいのか、グラスに鼻を近づけて、匂いを嗅いでは、残ったワインを器用にグラスの柄を人差し指と中指で持ち、クルクルと回している。
兜を外した彼は、どこか野暮ったい印象を受けたが、見た目をあまり気にしていない様子だ。
ボサボサの白髪混じりの黒い髪に、整えられていない顎全体を覆う髭があった。
彼の瞳は青く、吸い込まれるように美しい。濃く鮮明なブルーに紫がかった色合いだ。
彼は、グラスを弄ぶのをやめると、左に目をやる。
「いい味だな。どこの葡萄酒だ?」
「流石です。お目が高いですね。フォーチュリトス王国のカステッロワインですよ」
「どうりで、懐かしいわけだ。では、始めるか」
今回集められたのは、もちろんこの四王国の四権英雄達である。
私から、四人の四権英雄について紹介する。
スーペリア代表
「黒の崇高な剣士」クロノス
年長者であり、会議ではいつも彼が取り締まる。以前の会話でもクロノスは、黒き竜に育てられたとあるが、事実であり、スーペリア語以外にも、ドラゴンと通じ合える能力を有している。
だがしかし、それは言語によるものなのか。テレパシーのような超能力のようなものかは、確認されていない。言うなれば、彼のみぞ知る。
彼の本質の能力を知るものは少ないとされてる。四権英雄には、2人の剣士と2人の魔術師がいるが、その内の剣士の1人が彼である。
インペリアルハーツ代表
「日輪の剣士」メープルシロップ
橙を象徴する彼は、瞳は金色に輝き、頭髪は、橙と白が混じっている。
彼の能力は、その”色”に由来する。どんな能力かは、後々紹介する。
彼の、メープルシロップという名前は、その瞳に由来する。そもそも、メープルシロップには四種類の色があり、その中でも、〈ゴールデン:色が明るく、香りが繊細〉に似ていることからと、メープルシロップと名付けられた。それはもう美しい瞳だという。曇りが一点もない純金のような金色である。
アダマス代表
「蒼き稲妻」ネイビス
蒼を象徴する彼は、師匠が「”雷帝”のゲルブ」=トライデンスなのではないか。と、言われている。
なぜ、彼の稲妻は青く発光するのか謎であるが、彼の電気石も「#」を四回押すと、青いのだとか。
頭髪は長く、後ろで束ねている。髪は青くなく、また、アダマス人やインペリアルハーツ人のように赤髪でもないが、全体的には黒く、何本かが黄色く染められており、その様は曇天に差す稲妻のようである。
フォーチュリトス代表
「憤怒の魔術師」パープレット
紫を象徴する彼は、魔術の使い手。師匠は「”強欲の魔術師”グリードグリーン」
そもそも、パープレットという名前は、”パープ”ルとヴァイオ”レット”を合わせた造語であり、その単語は意味を持たない固有名詞である。
彼は、虹彩異色症であり、半分は、赤い瞳、もう半分は、青い瞳である。
「帝国の心、ここに在り」
そう口を開いたのは、”日輪の剣士”メープルシロップだ。
「ええ、もちろん。そうですよね。人生で大事なものはただひとつ、心ですよね」
”憤怒の魔術師”パープレットはその台詞を吐き捨てる。
「無心に生きるものには幸せも不幸せもないぜよ」
アダマスの訛りだ。”蒼き稲妻”ネイビスだろう。
「これより四王国会議を始める」
クロノスが仕切るようだ。
会議が順調に始められていく。
~同時刻ユニム達~
「ユニム様待ってくださいよ」
ゼルドが必死に追いかけるが、ユニムになかなか追いつけない。
「あそこではないか?なんだこれは」
「わああ」と再び、感嘆の声を漏らすユニム。
階段があったので、ためらわず駆け上がっていく。
「待ってくださいよ。ベルさんが言ってました。ヒマリさんは、中庭にいるんですよ」
「ユニム様、ぼくはあそこにベルさんがいたのは、意味があると思うんです。きっとなにかしらの意味が………」
「ゼルド、すごいぞ。剣だ」
「あぁ、触らないほうが………」
「あなたたち、何してるの?」
誰だろうか?装いは、魔女のようであり、赤い口紅が帽子の下の小顔からチラリと覗いている。
「こ、こんばんは」
「おねえさんなのだ」
「うっふふ。嬉しいわね。私はマダム・ウィッチよ。このアルキメデス魔法学校の校長を担っているわ」
腰に手を添えながら、マダム・ウィッチは言う。
「そうなのか。よろしくなのだ」
ユニムは行儀よく、おじぎをする。
「まあ、お利口な子ね」
「あなたは確か、ゼルドだったわよね?」
「どうして………僕の名前を知っているんですか?」
「校長だもの、四王国の人々の名前は把握してるわ」
「わ、私は校長から魔法を習いたいのだ」
「うん。そうね。まだ、はやいかしらね」
「マダム・ウィッチさん。あの、ヒマリさん知りませんか?」
「反対方向よ、でも、あの黒い子の知り合いなんでしょう?あなたたちも会議に参加したら?」
「誰なのだ?」
「うん。秘密よ」
「参加したいのだ」
「うっふふ。どうぞ」
「それにしても、綺麗な青い髪ね。誰に似たのかしら。うっふふ」
マダム・ウィッチがユニムの髪を撫でる。
ゼルドが一礼すると、ユニムの手を引き、扉の前に立った。
ユニムは右手を伸ばし、取ってを掴むと、その重厚な扉を開けた。