23話 黒き竜の背に乗って
一方、ユニムは竜を初めて見た。その竜の背に乗っている。
向かうは、「スーペリア」どれくらいの時間が掛かるのだろう。竜は、非常に大きく、逞しい印象を受けた。
なんだこの生き物は………魚類とも爬虫類とも似ているようで、似ていない。背中に生えた大きないくつもの角にしがみつきながら、ふと考えていた。
この竜には、腕と脚が生えており、どこか人間を連想させた。黒い皮膚は鉱石のように硬そうであり、いくつもの角は大木のように太い。頭部にかけて、バッファローのような角が前向きに弧を描きながら、生えている。
「知ってます。冥界の使者・・・」
「違う」
「竜は魔獣とは違うのか?」
「”リュウジン”と呼ばれる。魔獣とは別の枠が設けられている。天空の支配者とも言ったりする」
「そうなのか」
「リュウジンについて」
――準備はいいかな?さあ、冒険に出かけよう。
セレスティアルを開拓すれば、新しい竜を見つけることができるかもしれない。飛行能力に長けているものもいれば、走行能力に長けているものもいる。
象徴にされていたり、何かの神として祀られていたりもする。
リュウジンについては、諸説あるが、竜神であったり、龍神である可能性も。
もしくは、劉神かもしれない。この「劉」という字には、あまりよろしくない意味がある。
つまり、縁起がよくないのだ。私達の世界で、伝説上の生き物や架空の生き物とされる竜が、そんな意味を持つとは、到底思えない。
だが、セレスティアル暦ではなく、私達の世界で、二億三千年前。みなさんは何があったかご存じだろうか?私達は、その子孫を空でみかける。さあさあ、ここまでこれば、勘のいいみなさんもおわかりだろう。
かつて、大地を踏み鳴らし、弱肉強食の頂点に君臨した。今もなお博物館で見かけるそれを、特に、男の子は興味を持ち、所謂玩具などで遊んだり、図鑑で読んだりもする。
その生き物の名前を恐竜という。ここで、みなさんは思ったはずだ。恐竜はいるのか?また、恐竜はそもそも、リュウジンに含まれるか?
ここで、答えを出すことは簡単だ。
しかし、この目で、私達の眼で見るまで、語らないのも賢明ではないだろうか?
おっと、ゼルドが黒の崇高な剣士を睨みつけている。どうやら、喋りすぎてしまったようだ・・・
「ユニム様、ちょっと待ってくださいよ。なんで木が生えるんです。なんで、竜を従えているんです。なんで、こんなに大きいのに飛べるんです。おかしなことだらけですよ。
あなたは、名前も名乗らない。ぼくは、気づいたらあなたと戦っているし、いきなり、竜に乗せられて、『スーペリアに向かう』何をそんなに急ぐんですか。ユニム様は、アダマス王国を一望したかったんですよ。
ぼくは、あなたのような剣士とは違うんです。フォーチュリトス出身の奴隷。スーペリアに行ったとしても、きっと、罵られるだけですよ。
それこそ、自分の国じゃ、気が大きくなりましたけど、態度だけ大きくて、実力が伴っていなければ、そんなの見せかけやハリボテと同じじゃないですか。
なので、ひとつ訊きます。階級試験の内容を教えてください」
「とある魔獣を倒すことだ」
「そうですか」
「ひとつ思ったことがあります」
「いいですか」
「なんだ。ゼルド」
「なぜ、あなたは主語を使わないんですか?」
「いいか。木が生えたのは竜の能力だ。竜は俺を育ててくれた。俺にとって、親のようなものだ。尊敬している。互いに尊敬しあっている。
なぜ、スーペリアに向かうか?だと?とある賢者と話した。貴様らを連れてこい。とな。だが、待つのは生憎性に合わなくてな。
そんなに名前が知りたいか?いいだろう。だが、条件つきだ。『士正義のエイリル』になったら、教えてやる。アダマスなど、いつでも行くことができるだろう。
で、奴隷と言ったな。にわかには、信じられん。事実を教えてやる。
なぜ、奴隷が天地国王と対等に戦える?訊きたいのはそれだ」
――なにを言っているんだ
「なぜ、一人称を使わないんですか………」
「黙れ。質問にこたえろ」
「…ぼくは、アレキサンダーさんと戦っていませんよ。何を言ってるんですか?」
「本当に覚えていないのか?三叉槍のホワイトペッパーと戦ったのは誰だ?」
「わかりません」
「見ていた限りでは優勢だった」
「ゼルド。何者だ」
――天地国王?ホワイトペッパーさんが?
「アダマスの天地国王は誰ですか?」
「三叉槍のホワイトペッパーだ」
――え?
「そんなに、凄い方なんですか」
「ああ」
「もう一度訊く。ゼルド、何者だ?」
「主様からは、何も聞かされていません。気づいたら、奴隷場にいたそうなんです・・・」
「質問を変える。どこ出身だ」
「オルダインです」
「・・・」
「本当か?」
「本当です」
「そこに、人間はいない」
――え?
「なにを言ってるんですか」
「オルダインは魔王によって滅ぼされた。主の顔を覚えているか?」
「ええ、鮮明に。目元がいつも暗くて、眼球が見えませんでした。彫が深いんでしょうね。
で、えっと、髪がなかったですね。いつも白い服を着ていました。なぜか、赤いシミがありましたけど、おかしいなと思ったんですけど、足がないんですよ。」
「ん?どういう意味だ?」
「足が透けてるんです。でも、魔法か何かなのかなって思ったんです」
「他に異変はなかったか?」
「んーそうですね。夜になると音がするんです」
「なんの音だ」
「砥石です。あと、足音とか」
「その人物は何を研いでいる。足音はいくつだ」
「ぼくも気になってのぞいたんです。包丁でした。足音は、もう数えきれないくらいに・・・」
ユニムは泣くのを堪えていたが、気がつけば号泣していた。
「ま、作り話なんですけどね」
それを見かねたゼルドが優しく微笑んだ。
「ゼルド、怖すぎるのだ」
「すいません」
――作り話って言っておいてよかった
「オルダインに二度と行くな」
「冗談ですって」
「ショーダンなのだ」
「え、いや冗談ですよ?大丈夫ですかユニム様」
「怖い話無理なのだ。笑えば怖くないのだ」
ユニムは涙が止まらなかった。ゼルドは「大丈夫ですよ」と囁くと、優しく抱きしめた。