表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/48

22話 黒の崇高な剣士




 轟音(ごうおん)とも破裂音(はれつおん)ともつかない音がその場に鳴り(ひび)いた。


 ホワイトペッパーは、開いた口が(ふさ)がらなった。


 なぜならば、突如(とつじょ)として、目の前に(よろい)の剣士が現れたのだ。


 その男は、黒いマントを(なび)かせながら、黒き剣で、ゼルドの斬撃(ざんげき)(はじ)いたのだ。

 先程の音は、ゼルドの斬撃を弾いた音だったのだ。

 あまりの大きさにユニムは耳を塞いでいた。


「きゃ…」


 斬撃は空高く舞い上がると、雲を切り()いた。


 黒き剣士はその斬撃を見上げていた。


見事(みごと)


「え、あんた………」


 斬撃を弾いたのは、2メートルを超える大男だろうか。

 あの、"氷帝(ひょうてい)のセレスト"と同等の高さをほこる大男か。

 何者なのか。漆黒(しっこく)(よろい)は、光を反射(はんしゃ)せず、まるで星のない夜空のようだった。


「おい。目を離すな」


 その黒き剣士は、鎧で顔が見えない。


「わかってる。わかってんだけどよ」

「なんで、あんたが動いてんだよ…」

「それだけは、教えてくれ」


 ホワイトペッパーはこの人物を知っているようだ。


吾輩(わがはい)は知らないのである。誰であるか?」


 黒き剣士は、ファングとユニムに目をやると剣は(かま)えたまま、言葉を()いた。


赤い瞳(ブラッドアイ)青髪(あおがみ)?」

「どちらも奴隷(どれい)ではなさそうだな。2人だけではないのか。貴様ら何者だ」


 剣士は思う。セレストを彷彿(ほうふつ)とさせる青い髪、ましてや赤い瞳(ブラッドアイ)は、魔獣(まじゅう)特有のものだ。

 例として、赤狼(ブラッドウルフ)がそうだ。

 あの、()まわしき魔獣と同じ目をしている。

 ここで斬ってしまうか。


――いや、しかし敵意は感じられない。どちらも只者(ただもの)ではなさそうだな。

 

吾輩(わがはい)は敵ではない」


 ファングの赤い瞳(ブラッドアイ)をまじまじと見つめる鎧の大男。

 やはり、赤い瞳(ブラッドアイ)には、人を魅了(みりょう)する何かがあるようだ。


「あれはなんだ?」


「えっとよ、ゼルドのことか?」

「それとも、わけわかんねえ斬撃のことか?」

「どっちをきいてんだ?」


「ゼルド………か。彼は、奴隷(どれい)か?」


「知らねえな」

「なあ、あんたよ」

「スーペリアはどうしたんだ?」


 あまりにも、唐突(とうとつ)だ。なぜ、ホワイトペッパーの口から「スーペリア」という言葉が出てくるのか。

 彼が剣士だからだろうか?


「今は関係ない」


「名前はなんというのであるか?」


「先に名乗れ赤い瞳(ブラッドアイ)


「吾輩はファングだ。失礼した」


「異名を"黒の崇高(すうこう)な剣士"という」


「なぜ、異名なのだ………」


三叉槍(さんさそう)だったな。勝てないのか?」


「俺といい勝負だぜ」


(すた)れたな。敗北者に成り下がるか」


「クッ。何も言えねえよ」


「彼の階級はいくつだ?天王子(てんのうじ)か?」


「『誕生』のチーマだとよ。マジで、ありえねえ」


「何者だ。剣術と魔術を使いこなすか。界十戒(かいじっかい)はとうに()えている」


「だよなあ。なんなんだよ」


 ゼルドが、体勢(たいせい)を立て直す。


「まだ、動けるのか」


 セルドの肩が上下に動く。深く呼吸をしているのだろう。

 彼は、目を(つむ)ったまま、ゆっくりとゆっくりと黒い剣士に近づく。


「ぼくは、もう奴隷になりたくないです」


 一条(いちじょう)の光が、黒の剣士の頭の中で(ひらめ)く。


「やはり、そうか。」

小僧(こぞう)、よく()け」


「なあ、なあ、まずは、あの魔術解かねえと…」


「そうだな」

(カイ)


「う、うう。苦しい。制御できない。まるで、余命宣告されたような気分ですよ」


 ゼルドは、痛みを感じたのか恐ろしいものを見たのか。目をかっぴらいた。

 余命宣告?何を言っているのだろうか?


「心臓を握られてるような気分か」


『さらばじゃ。(せがれ)よ』


――声が遠ざかっていく。まってくれ。まて。


「はぁ、はぁ、待ってくだいよ」


 目を覚ましたゼルドの目の前には、黒い鎧の大男がいた。自分は何をしていたのか。

 まさか、この大男と………

 戦っていた――?


 だが、先程の夢の記憶はどんどん薄れていく。


「…あなたは?」


「目を覚ましたか」

「時間が惜しい」

「これより、『スーペリア』に向かう」


「はあ、はあ、ちょっと待ってくださいよ」

「四王国は広いんです」

「何年かかるか想像もつきませんよ」


「相棒がいる」

「乗れ」


 ゼルドは気づいた。自分達が、大きな(かげ)に包まれていることに。この陰はなんだ?


 おもむろに、上を見上げる。


 上空には、空を(おお)()くす程の、黒い竜の姿があった。


「『スーペリア』って言いましたよね?もちろんユニム様も連れていくんですよね?」


「言っている意味がわからん」

「常民を連れていってどうする?」

「何か考えでもあるのか?」

「興味があるのは、ゼルド、貴様だ」


「スーペリアに行って、階級試験をするんですよね?」

「おおよそ、予想はつきます」

「ですが…」


 目線を下げたゼルドに黒き剣士が歩み寄る。


「なんだ?ダイヤの心配か?ダイヤが心配なら、プラチナ銀行によるか」


 ゼルドは、ユニムを見た。しゃがいながら地面を見て、黙っている。


「ユニム様が行かないなら、ぼくも行きません」


「誰が行かないと言った。行くに決まっているだろう」


「ユニム様。大丈夫なのですか?」


「青髪、乗れ」


「言われなくてもわかっている」


 ユニムがその大きな大きな竜の背に乗ろうとした時だった………


「竜を見て、驚かぬか」


「驚いているのだ。言葉にできないのだ」


「そうか」

「喰われるなよ」


 竜が、ゆっくりと舞い降りてくる。


 物凄い風圧だ。


 災害のような、嵐のような存在感。


 翼のはばたきによる風は、木々をなぎ倒す、腰を低くして、踏ん張らなければ、飛ばされてしまうだろう。


「参る」


 ユニムとゼルドは、背に乗るとあることに気がついた。


 先程なぎ倒された木々が、再び生えてきている。


 何事だろうか。


 これは、この黒い剣士の魔術なのだろうか。


 ゼルドとユニムは、ホワイトペッパーとファングに手を振る。


「また会いましょう」


「おう」


「そうであるな」


 ユニムが息を吸い込む。


「何年経っても、忘れないぞ」


「困ったら連絡しろよ。未来の海内女王」





「行ってしまわれたな」


「俺の階級………伝え忘れたな。まあ、いいよな」


 ファングとホワイトペッパーは、握手をすると再び、歩き始めた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ