表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/48

21話 目を開けてはならぬ




「では、ゲルブに治してもらえばよいのではないか?」


「狼さんよ。本名で呼ぶなよ。足元(すく)われちまうぜ?」


「すまない。悪い(くせ)でな。・・・トライデンスに治してもらえばよいのではないか?」


「あの………失礼なこと()くかもしれませんが、ご存命なんです?」


「そりゃそうだ。電気石ができたのが、31年前だからな。嫌われちまうぜ?」


「ん?どういう意味ですか?」


「なんでもねえよ。とにかく、連絡とってみるか。」


 ホワイトペッパーは、「(アスタリスク)」と「1994」を押した。


 連絡先を選ぶ。連絡先がずらーっと並んでいる。その中から「プラチナ」を選択する。


 それは、あまりにも突然だった――ゼルドの視界が暗転する。


「あ、あれ・・・」


「おい。大丈夫か」

 

 聞こえていないようだ。


 ゼルドはそのまま横になると、すやすやと寝てしまった。


 ゼルドは見ていた。


 夢を。






~ゼルドの【夢の中】で~




『ホワイトペッパーさん?あれ?僕、どうしたんでしょう。何も見えません。どこに行ってしまったんですか?聞こえますか?返事してくださいよ。ユニム様。いないんですか?』


 返事はなかった。


 それもそのはず、ここは【夢の中】なのだから


 辺り一面暗闇である。


 すると、どこからともなく足音がする。


 段々と近づいてくる。


 二足歩行の何かが近づいてくるのがわかった。


 ゼルドは様子を(うかが)う。


 この時、ゼルドは失神したように寝入ってしまったことに、言わずもがな気づいておらず。


 自分は亜空間にでも、迷い込んでしまったのではないかとひとり考えていた。


 セレスティアル人も夢を見る。


 ユニムも一度夢を見ていたことがある。


 一言で表すならば、「夢」とは記憶の整理である。


 覚醒時に脳内に蓄積(ちくせき)された情報が睡眠中に処理されることでもある。


 それが、ストーリーとなって、映像化する。


 時にメッセージ性があったり、その行動や結末に意味があったりと、私達は夢について考えるが、すぐに忘れてしまうものだ。


 ということはだ。ゼルドは、”暗闇で足音が聞こえる”と近しい状況に遭遇(そうぐう)、もしくは体験したのか、はたまた、正夢のように、これから体験するのか、真意こそわからないが、その事象(じしょう)には意味があるのだろう・・・


『ん?』


 鳴りやまなかった足音が止まった。


 誰の足音なのだろうか。


 (あら)い呼吸音が聞こえる。


 「はぁはぁ」と息を吐いては吸ってを、繰り返している。


 これは息切れだろうか?


 なぜ、息切れしているのか。


 見当もつかない。


 なぜならば、足音はゆっくりと歩行している姿をゼルドに連想させたからだ。


 ()かなければ、何者なのかと。


『あなたは?』


 「誰ですか」が、のどにつっかえてでてこないようだ。


 ゼルドは、緊張していた。


 この極限の状況の中、暗黙(あんもく)(やぶ)り、自身から声を(はっ)したのだ。


 近寄ってくる――つまり、なにかしらの用がゼルドにあるということ、だがそれはゼルドも、もちろんわかっていた。

 自分に興味があるのではないかという事は、承知していた。


 なんと答えるのだろうか。


 ここで、名前を名乗るのか。それとも、階級を伝えるのか。


 予測がつかないが、意外過ぎる答えに、ゼルドは目を(つむ)るしかなかった。


(なんじ)、目を開けてはならぬ』


『いや、どうしてですか』


 ゼルドは、目を開けようとするが、開けられなかった。


 足音が去っていく。まるで、トンネルのように反響しているのがわかった。


――ここは、建物の中なのでは?


 と、予想してみるが、(まぶた)が上に持ち上がらない以上。確かめる(すべ)は、そこに残されていない。


 誰の声なのだろうか。


 聞いたこともない声だったとゼルドは記憶した。


 考えても、さっぱりわからない。


 そこから得られる情報は、男性の声であるということ。


 仕方なく、言われた通りに目を(つむ)る行為を続けた。


 すると、それは始まった。



 コツ、コツ、カツン


 コツ、コツ、カツン


 コツ、コツ。


 カツン。



 なんの音だろうか。


 はやる気持ちを(おさ)えきれず、目を開いて見ようとするが………


『目を開けてはならぬ』


『なぜですか』


『その質問には答えられん』


『そんなぁ』




~一方【ユニム達の視点】から~




「ゼルド、どうしたのだ」


 ゼルドはむくりと立ち上がったかと思うと、電気石を取りだし、出力装置を入力している


 不思議なことに、ゼルドは目を(つむ)ったままである。


「ユニム様、どこにいるんですか?」


 ゼルドが(しゃべ)ったが、目の前にユニムはいる。ユニムの声は、ゼルドに届いていないようだ。なぜなら、聞こえていれば、どこにいるなどと、わかりきったことを聞く訳がないのだからだ。


(おおかみ)さん………これってよ」


「間違いないのである」


「どういうことなのだ。ゼルドはどうなっているのだ」


「考えられるのは、魔術で操られている。もしくは・・・危ねえ」

「下がれ。ユニム」


 ゼルドの行動には、一貫性(いっかんせい)がなかった。


「わかったぞ」


 ユニムは、数歩退(しりぞ)く。





~【ゼルドの視点】から~





(なんじ)よ、聞こえるか』


 ズ、ズズ。


 電気石は、発光と共に、音を(ともな)う。


 まるでそれは、電気石の音のようだった。


『なんの真似ですか?本当にここはどこなんですか?声だけがはっきりと聞こえます。まるで、他の音を何かで、吸収したみたいに、そしてあなたは――敵ですよね?』


(なんじ)よ、わからぬか。目を開ければ、ユニムとは二度と会えん』


『え………』

『どうしろっていうんですか』

不愉快(ふゆかい)です。実に不条理(ふじょうり)です』


『世の中とはそんなものだ。(ゆえ)に、目を開けてはならぬ。心の目で見よ』


『ぼくの眼球に光が入って、物体を認識することができる。あなたは、物体じゃない。なんなら、有機体でもないかもしれない。どうなんですか?』


『その質問には答えられない。』


『答えなくていいです。はい。か、いいえ。で答えてくださいよ。イエスかノーでもいいですよ。待ってくださいね。わかりました。答えなくていいです。僕が試します』


『やってみよ』


 ゼルドは立ち上がると、電気石を取り出した。


『たとえ、見えなくても、感覚でわかりますから、あなたを()ってみせましょう。』





~【ユニム達の視点】から~





「なにしてんだ。俺たち味方だろ」


「たとえ、見えなくても、感覚でわかりますから、あなたを斬ってみせましょう」


「正気じゃないぞ。目を覚ませ」

「う、うう」


 まただ、ユニムは耳鳴りを感じていた。


 この湖に来てからというもの。


 ユニムの体が不調である。


 どうしたものか。


 解決策が見当たらない。


 一般的に、耳鳴りが起こった場合。

 様々な、理由が考えられるが、ユニムは聞いたことがあった。

 霊的存在が近くにいるのではないかということ。


 そこで、心で(とな)える。


『そこにいるのか。わかるぞ』


 一見(いっけん)すると、まるでゼルドの夢の中の何者かへ、語りかけているように感じられるが、そうではないのだ。


 ゼルドの「夢」とユニムの「現実」は、どちらも「一方通行」であり、繋がることはなかった。

 もし(つな)がれば、窮地(きゅうち)(だっ)することができたというのに。


 誠に、残念である。





~【ゼルドの視点】から~





『斬ってみよ。斬れるならば』



 その未熟で、剣術なんて1ミリも知らないながら、電気刀剣を振り下ろす。


 その電気刀剣が、なにかとぶつかる。


 相手も武器を持っているのかもしれない。


『負けませんよ』





~【ユニム達の視点】から~





『よせ、ゼルド』


 ユニムは心の声で必死に(うった)えるが、(はかな)くもその声は届かない。


 ホワイトペッパーは、三叉槍で受け止める。


 (うずくま)るユニム


 それをただ、呆然(ぼうぜん)と見つめるファング。


 自体は収集がつかない。


 どうすればいいのだろうか。


 どうしようもないのだろうか。


 冗談ではない。


 これは………


「邪魔しないでください」


 電気刀剣と三叉槍(さんさそう)が激しくぶつかり合い


 その最中(さなか)ホワイトペッパーは、思った


―――強い。太刀筋(たちすじ)がよめない。





~【ゼルドの視点】から~





『よい。(なんじ)(みずか)らを知れ』


『ザンと言え』


「命令しないでくださいよ」





~【ユニム達の視点】から~





「ゼルド、やめるのだ。うう」


「命令しないでくださいよ」


 夢の中で言ったことが、現実で繋がっていく。


 その言葉は、強い覇気を(まと)ってユニムの心を(つらぬ)いた。


「頼むぜ。目を覚ましてくれよ。ゼルド」


「ユニム殿。セレストを………ブルースカイを呼ぶのである」


「う、うう」


「仕方ない。不本意であるが、緊急事態である。呼ぶしかないのである」


 ファングは、ジャケットの左ポケットから、電気石を取り出すと、セレストに連絡する。


「セレスト。聞こえるか?吾輩(わがはい)である。」


「おお。ファングや。どうしたんじゃ。なんども言っておるがの。ええか。その名前で呼ぶでない」


「助けてくれぬか。」


 この際、ファングは忸怩(じくじ)たる思いであった。


「ほう。どうしてじゃ?大丈夫じゃぞ。ゼルドは………」


「何を言っている。事態は、一刻(いっこく)(あらそ)う。悠長(ゆうちょう)なことは言ってられないのである。」


・・・その時だった。


(ざん)


 ゼルドはその一言を言い放った。


 その途端(とたん)に、電気刀剣から、三日月のような刀剣の残像(ざんぞう)がホワイトペッパーめがけて、飛んでいく。


「は?教えてねえぞ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ