21話 目を開けてはならぬ
「では、ゲルブに治してもらえばよいのではないか?」
「狼さんよ。本名で呼ぶなよ。足元掬われちまうぜ?」
「すまない。悪い癖でな。・・・トライデンスに治してもらえばよいのではないか?」
「あの………失礼なこと訊くかもしれませんが、ご存命なんです?」
「そりゃそうだ。電気石ができたのが、31年前だからな。嫌われちまうぜ?」
「ん?どういう意味ですか?」
「なんでもねえよ。とにかく、連絡とってみるか。」
ホワイトペッパーは、「*」と「1994」を押した。
連絡先を選ぶ。連絡先がずらーっと並んでいる。その中から「プラチナ」を選択する。
それは、あまりにも突然だった――ゼルドの視界が暗転する。
「あ、あれ・・・」
「おい。大丈夫か」
聞こえていないようだ。
ゼルドはそのまま横になると、すやすやと寝てしまった。
ゼルドは見ていた。
夢を。
~ゼルドの【夢の中】で~
『ホワイトペッパーさん?あれ?僕、どうしたんでしょう。何も見えません。どこに行ってしまったんですか?聞こえますか?返事してくださいよ。ユニム様。いないんですか?』
返事はなかった。
それもそのはず、ここは【夢の中】なのだから
辺り一面暗闇である。
すると、どこからともなく足音がする。
段々と近づいてくる。
二足歩行の何かが近づいてくるのがわかった。
ゼルドは様子を伺う。
この時、ゼルドは失神したように寝入ってしまったことに、言わずもがな気づいておらず。
自分は亜空間にでも、迷い込んでしまったのではないかとひとり考えていた。
セレスティアル人も夢を見る。
ユニムも一度夢を見ていたことがある。
一言で表すならば、「夢」とは記憶の整理である。
覚醒時に脳内に蓄積された情報が睡眠中に処理されることでもある。
それが、ストーリーとなって、映像化する。
時にメッセージ性があったり、その行動や結末に意味があったりと、私達は夢について考えるが、すぐに忘れてしまうものだ。
ということはだ。ゼルドは、”暗闇で足音が聞こえる”と近しい状況に遭遇、もしくは体験したのか、はたまた、正夢のように、これから体験するのか、真意こそわからないが、その事象には意味があるのだろう・・・
『ん?』
鳴りやまなかった足音が止まった。
誰の足音なのだろうか。
荒い呼吸音が聞こえる。
「はぁはぁ」と息を吐いては吸ってを、繰り返している。
これは息切れだろうか?
なぜ、息切れしているのか。
見当もつかない。
なぜならば、足音はゆっくりと歩行している姿をゼルドに連想させたからだ。
訊かなければ、何者なのかと。
『あなたは?』
「誰ですか」が、のどにつっかえてでてこないようだ。
ゼルドは、緊張していた。
この極限の状況の中、暗黙を破り、自身から声を発したのだ。
近寄ってくる――つまり、なにかしらの用がゼルドにあるということ、だがそれはゼルドも、もちろんわかっていた。
自分に興味があるのではないかという事は、承知していた。
なんと答えるのだろうか。
ここで、名前を名乗るのか。それとも、階級を伝えるのか。
予測がつかないが、意外過ぎる答えに、ゼルドは目を瞑るしかなかった。
『汝、目を開けてはならぬ』
『いや、どうしてですか』
ゼルドは、目を開けようとするが、開けられなかった。
足音が去っていく。まるで、トンネルのように反響しているのがわかった。
――ここは、建物の中なのでは?
と、予想してみるが、瞼が上に持ち上がらない以上。確かめる術は、そこに残されていない。
誰の声なのだろうか。
聞いたこともない声だったとゼルドは記憶した。
考えても、さっぱりわからない。
そこから得られる情報は、男性の声であるということ。
仕方なく、言われた通りに目を瞑る行為を続けた。
すると、それは始まった。
コツ、コツ、カツン
コツ、コツ、カツン
コツ、コツ。
カツン。
なんの音だろうか。
はやる気持ちを抑えきれず、目を開いて見ようとするが………
『目を開けてはならぬ』
『なぜですか』
『その質問には答えられん』
『そんなぁ』
~一方【ユニム達の視点】から~
「ゼルド、どうしたのだ」
ゼルドはむくりと立ち上がったかと思うと、電気石を取りだし、出力装置を入力している
不思議なことに、ゼルドは目を瞑ったままである。
「ユニム様、どこにいるんですか?」
ゼルドが喋ったが、目の前にユニムはいる。ユニムの声は、ゼルドに届いていないようだ。なぜなら、聞こえていれば、どこにいるなどと、わかりきったことを聞く訳がないのだからだ。
「狼さん………これってよ」
「間違いないのである」
「どういうことなのだ。ゼルドはどうなっているのだ」
「考えられるのは、魔術で操られている。もしくは・・・危ねえ」
「下がれ。ユニム」
ゼルドの行動には、一貫性がなかった。
「わかったぞ」
ユニムは、数歩退く。
~【ゼルドの視点】から~
『汝よ、聞こえるか』
ズ、ズズ。
電気石は、発光と共に、音を伴う。
まるでそれは、電気石の音のようだった。
『なんの真似ですか?本当にここはどこなんですか?声だけがはっきりと聞こえます。まるで、他の音を何かで、吸収したみたいに、そしてあなたは――敵ですよね?』
『汝よ、わからぬか。目を開ければ、ユニムとは二度と会えん』
『え………』
『どうしろっていうんですか』
『不愉快です。実に不条理です』
『世の中とはそんなものだ。故に、目を開けてはならぬ。心の目で見よ』
『ぼくの眼球に光が入って、物体を認識することができる。あなたは、物体じゃない。なんなら、有機体でもないかもしれない。どうなんですか?』
『その質問には答えられない。』
『答えなくていいです。はい。か、いいえ。で答えてくださいよ。イエスかノーでもいいですよ。待ってくださいね。わかりました。答えなくていいです。僕が試します』
『やってみよ』
ゼルドは立ち上がると、電気石を取り出した。
『たとえ、見えなくても、感覚でわかりますから、あなたを斬ってみせましょう。』
~【ユニム達の視点】から~
「なにしてんだ。俺たち味方だろ」
「たとえ、見えなくても、感覚でわかりますから、あなたを斬ってみせましょう」
「正気じゃないぞ。目を覚ませ」
「う、うう」
まただ、ユニムは耳鳴りを感じていた。
この湖に来てからというもの。
ユニムの体が不調である。
どうしたものか。
解決策が見当たらない。
一般的に、耳鳴りが起こった場合。
様々な、理由が考えられるが、ユニムは聞いたことがあった。
霊的存在が近くにいるのではないかということ。
そこで、心で唱える。
『そこにいるのか。わかるぞ』
一見すると、まるでゼルドの夢の中の何者かへ、語りかけているように感じられるが、そうではないのだ。
ゼルドの「夢」とユニムの「現実」は、どちらも「一方通行」であり、繋がることはなかった。
もし繋がれば、窮地を脱することができたというのに。
誠に、残念である。
~【ゼルドの視点】から~
『斬ってみよ。斬れるならば』
その未熟で、剣術なんて1ミリも知らないながら、電気刀剣を振り下ろす。
その電気刀剣が、なにかとぶつかる。
相手も武器を持っているのかもしれない。
『負けませんよ』
~【ユニム達の視点】から~
『よせ、ゼルド』
ユニムは心の声で必死に訴えるが、儚くもその声は届かない。
ホワイトペッパーは、三叉槍で受け止める。
蹲るユニム
それをただ、呆然と見つめるファング。
自体は収集がつかない。
どうすればいいのだろうか。
どうしようもないのだろうか。
冗談ではない。
これは………
「邪魔しないでください」
電気刀剣と三叉槍が激しくぶつかり合い
その最中ホワイトペッパーは、思った
―――強い。太刀筋がよめない。
~【ゼルドの視点】から~
『よい。汝、自らを知れ』
『ザンと言え』
「命令しないでくださいよ」
~【ユニム達の視点】から~
「ゼルド、やめるのだ。うう」
「命令しないでくださいよ」
夢の中で言ったことが、現実で繋がっていく。
その言葉は、強い覇気を纏ってユニムの心を貫いた。
「頼むぜ。目を覚ましてくれよ。ゼルド」
「ユニム殿。セレストを………ブルースカイを呼ぶのである」
「う、うう」
「仕方ない。不本意であるが、緊急事態である。呼ぶしかないのである」
ファングは、ジャケットの左ポケットから、電気石を取り出すと、セレストに連絡する。
「セレスト。聞こえるか?吾輩である。」
「おお。ファングや。どうしたんじゃ。なんども言っておるがの。ええか。その名前で呼ぶでない」
「助けてくれぬか。」
この際、ファングは忸怩たる思いであった。
「ほう。どうしてじゃ?大丈夫じゃぞ。ゼルドは………」
「何を言っている。事態は、一刻を争う。悠長なことは言ってられないのである。」
・・・その時だった。
「斬」
ゼルドはその一言を言い放った。
その途端に、電気刀剣から、三日月のような刀剣の残像がホワイトペッパーめがけて、飛んでいく。
「は?教えてねえぞ」