19話 ゴールドゴーレムが沈黙ならば、シルバーゴーレムは雄弁である
空に浮かぶ月を見ながら、ゼルドはひとり思った。真昼でも月は美しいのだと。夜に見る月は、黄色いが、昼の月は白い。彼は思った。これは何かに似ている。
金と白金。
月は金でできているのではないか。
はたまた、昼に見る月は全くの別物なのではないか?とも考えた。
「――セレスティアル――」の月は、たまに、赤くなる。
通称紅月。
まるで赤い瞳のようで、人を魅了する。
魔獣をも魅了してしまうのが、月の魔力。
その魔力量、はかりしれない。
古来より、月には、不思議な力があるとされていた。
ゼルドは思い出した。
新聞でとある伝承を読んだことがあったことを。
『――天の欠片より、魔獣蘇りし、地の底に、魔王幽閉す、勇ましき者これを汝の倅に託し――』
記録によれば、セレスティアル歴で745年前の記述だそうだ。
だれが書いたものなのかわかっていない。不思議なことに発見者はこれが空から降ってきた石に書かれていたと言う。
また、奇妙なことに全て二進法で書かれていたそうだ………
コツン、コツン。
空を見上げていたゼルドの足を何かが叩く音がした。ゼルドの装飾品にあたり、僅かながらの金属音が響く。
そこに金属の類の魔獣でもいるのか?
しかし、今は昼である。
どうやら、突如としてそこにシルバーバレーのシルバーゴーレムがやってきたようだ。
ユニムは、走りだしそのゴーレムを抱え、優しく抱きしめる。
「なんて、かわいいのだ」
「あの、ユニムさま………」
それは、どう見ても魔獣じゃないですか?と、ゼルドは言えずにいた。
しゃがみ込んだユニムを真上から見ていた。
ゼルドがとり払おうとすると………
『さわらなイで。とうちゃ倒したヤツ探してイる』
『そうなのだイ』
「………ユニム」
「よいではないか。2匹もいるではないか」
シルバーゴーレムをもう一体抱えるユニム。
「吾輩もやめたほうがいいと思うのだが、聞いておられるか?ユニム殿」
『魔力を感じてイる』
『進化してイる』
ゴーレムの目が美しい薔薇色になった。
そして、その体は金色に輝き始める。何かを帯びている。
『ウウ・・・』
「残党か」
鞄より、電気石を取り出すホワイトペッパー。
「♯」を4回押して、何かを入力していた。
手元がよく見えないが、武器に変換するには「♯」を入力する必要があるため、その動作は彼の発言から予測できた。
「出でよ。三叉槍」
3方向に伸びる尖った先端。やはり………電気でできている。
ひとつ気になったことがあるのだが、このエネルギー状の三叉槍ならば、飛び道具のように、飛ばすことができるのではないか?
まあ、ホワイトペッパーの戦闘スタイルを見たことがないため、無情にも度し難いのであるが………
「吾輩も準備はできている」
いつ着たのかわからないジャケットの裾を捲る。
ファングも戦闘準備はバッチリのようだ。
「狼さん。今人間じゃね?」
「護衛すると約束したからには、戦わなければならない時がある。これが運命である」
「ぼくも加勢しますよ」
「おいおいおい。ちょっと待て。ひとりで戦えるのか?」
「見てくださいよこれ」
光り輝く、棒のような電気。
「おうおうおう。電気石じゃんか。頼むぞ。ゼルド―――」
私達は、眠る。私達が眠ると、月は顔を出す。
その時、太陽も眠っている。
夜の間、月は起きている。休まず起きている。
月には、様々な表情がある。ある時は、兎として、ある時は、蟹として、ある時は、笑っていたり、ある時は、怒っていたり、ある時は、真顔だったり、だが、1ヶ月に一度だけ月がいない時がある。
月もたまには、休みたいのかもしれない。
―――月だって、休みたい。
「この子達は仲間なのだ。武器をしまうのだ」
「赤い目してるじゃねえか・・・そうは思えねえぞ。離れろ。ユニム」
「ユニム殿。頼むのである」
「ユニム様。わかってるんですか。それは魔獣です」
『ウウ、錬成・・・』
砂浜に複雑怪奇な魔法陣が現れる。
「おいおいおい。嘘だろ。ただの魔獣じゃねえぞ。何者だよ。」
ゴールドゴーレムになった、シルバーゴーレムは、三体に分裂した。
三体のゴールドゴーレムを相手に3人は立ち向かう。
ゴールドゴーレムは、それぞれに9つの薔薇色の目があった。
『我々はアルケミスト・ゴールドゴーレム』
『ユニム様は我々を御守りしてくれた』
『ウぬらかかってこい』
「やるしかねえか。やってやろうじゃん」
「なあ、ゼルド。電気石を見てみろ。武器が3つ選べるだろ?」
「ええ」
「1番下を選べ」
「かしこまりました」
「えっと………」
ここに、ゼルドの電気石を投影する。
【形態】:刀剣
:打撃
:射撃
「これ、ですかね」
ゼルドは「射撃」を選択した。
「なに、ボーッとしてんだ。危ねえぞ」
〈ゼルドの電気石〉
【狙いを定めて、矢を放ってください│】
「いきます」
『ウぬら無駄である。金よ。変化せよ。錬成。ゴールドシールド』
「へぇ。アルケミストなのに、知らないんですねえ」
「お、なんだなんだ」
「金は………」
【発射│】
ゼルドの電気石より、矢が放たれる。
ゴールドシールドに刺さったかと思えば、電気が伝染していく。これは………?
『うう、ウぬら、何をしおった』
明らかに、アルケミスト・ゴールドゴーレムが、仰け反っている。
「痺れますよね。ええ、そりゃそうですよ。電気伝導に優れていますから。はっはっはっ」
これでは、どちらが魔獣かわからない。
『う、ウウ・・・』
一体のアルケミスト・ゴールドゴーレムが項垂れている。
他の2体はユニムを守っている。
『ユニム様、ご指示を』
「んー」
『どウされましたか?』
「ゴーレム達よ。ここで待っていろ。私はいつか必ず帰ってくる。海内女王となって、帰ってくる。それまで、待っていろ」
『しかしユニム様、彼らを倒さねば』
「いいか。彼らは私の仲間だ。ここに争う必要はどこにもないはずだ。土地がやせていれば、穀物は育たない」
ユニムの農民ならではの発言だ。
「不毛な争いはやめにしないか」
『我々はどウしたら………』
「私を待っていろ。行くぞ。みんな」
『ユニム様お待ちしております』
『ご無事で』
『その心意気、必ずや海内女おウとなれるでしょウ。力添えできるその日まで』
「さらばだ」
三体は一体に戻り、ユニムはその一体にウラヌスと名付けた。
3人は、あっけらかんとしていた。
おまけ/伝承の記述
【実際の記述】
『1110010110100100101010011110001110000001101011101110011010101100101000001110011110001001100001111110001110000001100010111110001110000001100100011110001110000010100010011110001110000010100010001110001110000010100010101110001110000000100000011110100110101101100101001110011110001101101000111110100010011000100001111110001110000010100010101110001110000001100101111110001110000000100000011110010110011100101100001110001110000001101011101110010110111010100101011110001110000001101010111110001110000000100000011110100110101101100101001110011110001110100010111110010110111001101111011110100110010110100010011110001110000001100110011110001110000000100000011110010110001011100001111110001110000001101111101110001110000001100101111110001110000001100011011110100010000000100001011110001110000001100100111110001110000010100011001110001110000010100100101110011010110001100111011110001110000001101011101110010110000000100001011110001110000001101010111110100010101000100101111110001110000001100101110000110100001010』
二進法は現在では、「――セレスティアル――」でも、使われていない。